「3年間で1000万円かかりました。共働きでなければ無理だったでしょう……」

30代後半で結婚、42歳にして第1子を授かった知人から報告を受けた。途方もない額に聞こえるだろうか?

しかし、不妊治療という領域に一歩足を踏み入れたら、それが決して特別な額ではないとわかるはずだ。

そもそも不妊とはどのような状況か。普通の夫婦生活を営み、避妊せず2年間妊娠しない場合を不妊とするという定義(WHO)だが、日本では結婚年齢が高いので、1年間で不妊と定義している(日本生殖医学会)。

現在6組に1組が不妊治療を受け、毎年32人に1人の子どもが体外受精児だ。

不妊治療は最初から高額の費用がかかるわけではない。まずは普通の婦人科を受診し、保険診療範囲内で基本の検査を受ける。検査は1回数千円。男性は1回、女性は月経周期によってホルモンが変動するので5回ほど通院する。この検査は不妊の原因を特定するためのものだ。

不妊の原因が判明したら、原因の治療へ。もしなければ、タイミング治療(排卵周期に合わせたセックスの指導。保険適用で5000円程度)をおこなう。通常半年(6回)ほどでかなりの人が妊娠する。

さらに妊娠しなければ、次の段階「人工授精」に進む。精子を採取して洗浄し、細い管で子宮の奥まで入れて卵管にいきやすくする。ここからが自費診療となり、1回1万〜3万円。数回繰り返して妊娠しない場合は体外受精(取り出した卵子に精子をふりかけて受精したら体内に戻す)、そして次が顕微授精(取り出した卵子に1匹の精子を細いガラス管で注入し、受精したら体内に戻す)へと進んでいく。こちらは1回30万〜70万円かかる。

自費診療の高度生殖医療の場合、自治体や国からの助成金が出る。ただし、2013年には「女性の対象年齢を42歳(43歳未満)までに制限し、年間の回数制限を撤廃する一方、助成回数は現行の最大10回から原則6回」とする改定案が厚労省有識者検討会でまとめられ、これに合わせて助成額も今後、変更される可能性があるので各自治体に確認する必要がある。休暇や無利息の貸し出しなどの制度がある企業もある。

30代以上だと、直接「不妊専門クリニック」にいき、体外受精から始める人もいる。人工授精を繰り返したほうが安上がりと思うかもしれないが、妊娠は時間とお金との闘いだ。35歳をすぎたら1年1年が非常に貴重になる。お金を節約して時間を無駄に過ごしては本末転倒になる。なかには「タイミング療法から」といわれ、「夫婦で時間を合わせることができません」と、最初から夫婦で希望して、体外受精にした人もいる。確かに忙しい共働き夫婦や、夫が協力的でない場合、セックスを介さないほうが早いという合理的な考えでもある。

すべて試しても妊娠しない場合、日本ではできない卵子提供(自分以外の卵子を提供してもらい、体外受精して自分の体内に戻す)、代理母などを求めて海を渡る人もいる。卵子提供は、米国での費用はコーディネーターへの仲介料などを含め、だいたい初回500万円ぐらい、タイでは200万円、最近では台湾で100万円以内というケースも。

どんなにお金がかかろうと、最終的に赤ちゃんを抱っこすることができればいいのだが、やはり年齢が上がるにつれて確率は下がり、費用も跳ね上がる傾向にある。

国立成育医療研究センター不妊診療科医長・齊藤英和氏によると、各年齢別の体外受精により1児が出生するためにかかる医療費の平均は、30代前半で約150万円、40歳で372万円、45歳で3704万円。47歳では、なんと2億3000万円かかるという。どんな選択をするにしろ、まずはこの現実を周知すべきだろう。

(少子化ジャーナリスト、作家、大学講師 白河桃子=文)