「申し訳ありませんが、あなたたちは駒です」
小沢征悦演じる、警視庁のエリート管理官が捜査会議で言い放ち、場が騒然となる。4月16日からスタートしたドラマ「TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部」(テレビ朝日系)のワンシーンだ。しかし、刑事ドラマでおなじみの本部VS所轄の対立構造は、実際の捜査現場では見られないという。ホントに?

《一体となり捜査に当たるのですから、くだらない諍いなんてもってのほか。それ以前にしょっちゅう行き来してるので、交流もけっこうあります。どうしてドラマでは本部が所轄を見下す感じになっているのでしょうね。現実として、本部の捜査一課の刑事は所轄の精鋭が選ばれているからでしょうか》(小川泰平『「刑事ドラマあるある」はウソ?ホント?』)

言われてみれば、そりゃそうだが、“理屈ではわかっちゃいるけど……”が人の常。そうは言ってもホントは……というのはゲスの勘ぐりだろうか。すみません。

引用した『「刑事ドラマあるある」はウソ?ホント?』(東邦出版)の著者は元・神奈川県警の部長刑事。子どもの頃から刑事ドラマが大好きで、現職時代もビデオに録画し、休日は一日中撮りためたビデオを見て過ごすこともあったという、筋金入りの刑事ドラマ好き。

曰く、《ここ数年、刑事ドラマは非常にリアリティを増してきた》とか。ただ、《反面、リアルすぎるからこそ、現場一筋に30年勤め上げた元刑事の私からすると、細かい部分での現実との違いに目がいってしまったり》ともいう。その違和感を覚えたシーン、逆に刑事も感心するほどリアルな場面をまとめたのが、この本だ。

例えば、捜査本部に必ずと言っていいほど置かれているホワイトボードは、実際には存在しない。よく見かける「事件名」「発生日時」「発生場所」「被害者名」といった情報は一覧表にまとめ、捜査員ひとりひとりに配布するという。

前述の「TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部」の捜査会議のシーンにもホワイトボードが置かれていた。ただし、真っ白なまま。写真も貼り出されていなかった。第一話で渡辺いっけい演じる刑事が、被害者の愛人を取り調べる場面では、椅子に座った女性警察官らしき人が同席。その様子を別室のモニターで見ながら、他の刑事が見守るという場面もあった。

この本によると、《女性被疑者は女性の警察官が取り調べるか、補助につくのが鉄則》であり、《主な登場人物に女刑事がいない『相棒』や『臨場』でも、取調室のシーンでは画面の端に女性警察官が映っている。(中略)細部にまでこだっているんだなぁ、と感心》したという。

また、取り調べシーンで頻繁に登場する<マジックミラー>は現実に存在するが、その用途の多くは「面通し」(被害者や目撃に鏡越しに被疑者の顔を確認させる)。よく見かける「他の刑事がマジックミラー越しに会話を聞いている」はドラマ上の演出だという。つまり、「TEAM〜警視庁特別犯罪捜査本部」では、別室にモニターを置くことで《本物の取調室は隣室まで話し声が聞こえるようにはなっていません》という矛盾を回避していることがわかる。

同じく今クールの新ドラマである「ビター・ブラッド〜最悪で最強の親子刑事〜」(フジテレビ)では、こんなシーンがあった。

佐藤健演じる主人公の新人刑事に対し、渡辺篤郎演じるベテラン刑事(主人公の実父でもある)が「俺とバディを組むなら、3つのルールを厳守しろ」と告げる。そのルールとは「上質なジャケットを着ること」。かくいう本人は“ダンディ”のあだ名にふさわしく、三つ揃えのスーツを着込んでいる。

刑事コロンボ」を筆頭に、よれよれのコートも人気の定番スタイルだが、実際のところはどうなのか。そんな疑問にもこの本は答えてくれる。

《刑事には2〜3年に一度、スーツが支給されます。『踊る大捜査線』の中でも出てきたシーンです。(中略)もちろん、これ以外に自前のスーツで出勤してもOKです。最近のドラマの刑事はオシャレな人が多いですが、現実にも服装に気を遣う刑事はいます。お金を持っているヤツは右京さん(水谷豊)のような高級スーツを着ているし、『ハンチョウ』の村雨(中村俊介)のようにカラーワイシャツの刑事もいます》

ちなみに女性刑事はというと、《「遺留捜査」に出てくるふたりの女性刑事(斉藤由貴、貫地谷しほり)はリアル刑事に近い》そう。

この他、「張り込みの必需品」「聞き込みのテクニック」「捜査にかかった経費の扱い」「容疑者の落とし方」「刑事の合コン事情」など、さまざまな “警察うんちく”が登場する。

前クールに続いて、今期も直木賞作家・金城一紀が原案・脚本を手がける「BORDER」(テレビ朝日)に、西島秀俊主演の「MOZU」(TBS)、石塚英彦が巨漢刑事に扮する「刑事110キロ」(テレビ朝日)など、刑事ドラマがわんさか放映される。また、香取慎吾主演の「SMOKING GUN」(フジテレビ)に、北村一輝主演の「ホワイトラボ」と“科学捜査もの”も充実。

どこまでがリアルで、どこからがフィクションなのか。巧みにストーリーに織り込まれた“現実”を知れば知るほど、刑事ドラマが面白くなる。
(島影真奈美)