[新潮]週刊新潮にヒグマが人を喰った事件の詳細が書かれている。「『ヒグマ6頭射殺されるまで阿鼻叫喚の5時間」という記事だ。グロテスクな内容である。ヒグマのおそろしさと人間の無力さを、ひしひしと感じながら読んだ。


吉村昭著『羆嵐』(新潮文庫)は、1915年に起きた「三毛別羆事件」をテーマにした小説である。「羆嵐」は「くまあらし」、「三毛別」は「さんけべつ」という北海道の地名、「羆」は「ひぐま」と読む。同記事に小説の一部が紹介されているのだが、それを読むと今回の事件でも同じようなことが起きていることがわかる。


「六名の死者のうち二名の女性の体は胎児とともに羆の胃に送りこまれ、消化された。それは、羆の血肉の一部になり、わずかに毛髪が不消化のまま胃中に残されていただけだった。雪の上におかれている赤身の肉は、羆の肉であることに変わりはないが、人肉でもあるのだ」(『羆嵐』から引用)

三毛別の事件では、1頭のヒグマが農家を襲撃して6名が死亡、3名が重傷を負った。今回は、逃げた6頭のヒグマのうち、2頭が女性1名を、1頭が女性1名を、それぞれ襲った。ヒグマは、地元の猟友会によって射殺されたが、そのあとに展開したのが引用した文章と似たような光景であったのだという。

現場は「八幡平クマ牧場」である。「全国に8カ所」あるクマ牧場は、「観光のためというより、主に熊肉や、高価な熊の胆を売る目的で運営され」ている。牧場を調査したNPOによると、八幡平クマ牧場の飼育環境は「劣悪」であり、ヒグマが柵から逃げたのは「杜撰管理」が原因の人災なのではないかと記事は指摘する。

じつに、約100年ぶりにヒグマが人を喰う事件が大々的に報じられたのが4月20日。同じ日に札幌で、若いヒグマが民家周辺に現れ、猟友会がそのヒグマを射殺するシーンがテレビのニュースで流れた。するとヒグマの射殺について、札幌市役所に多くの苦情が寄せられた。ヒグマは人に危害をもたらす可能性がある「害獣」であり、その害獣が民家の近くに現れたら射殺されるのは仕方のないことであろう。


生き物には、人に危害をもたらすものと、そうでないものがいる。前者は、危害の可能性が生じれば駆除され、後者は放置されるかペットとして飼われたりする。おとなになったら、それくらいの峻別はできるようになりたい。いずれも人の都合が基準になっているわけで、結局、人は人以外の生き物を管理し、コントロールしながら生きているということを自覚すべきだと思う。

[文春]週刊文春のトップ記事は、「小沢一郎に隠し子がいた!」。スクープであるが、あまり関心がないので読み流す。それより、4月26日の「小沢無罪」である。報道を追うかぎりでは、「疑わしきは罰せず」という感じの無罪判決であるように見える。これをもって小沢さんのグレーなイメージが払拭できたとは思えないが、この裁判を通して検察の仕事がいかに適当なのかが明らかになった部分を、筆者は高く評価したい。

同じく文春の「AKB48 卒業生覆面座談会『酒とオトコと恋愛禁止の日々』」は、4人の「卒業生」による座談会である。「子供の顔して肉食なんだよ」などと、トップアイドルの生々しい「生態」が語られていて興味深い。

もうひとつ文春から。近田春夫さんの連載「考えるヒット」で、「Perfume(中田ヤスタカ)のサウンド」を「?アイドル?と?ちゃんとしたトラック?を両立維持させるのに成功してきた」を高く評価している。そして、「この人たちとほかのアイドルでは、自身に課してきた音楽的敷居の高さの桁は違うのではないか」とまで指摘している。同じことを感じていたので、これを読んで溜飲が下がった。


[その他]新潮の「墓碑銘」は、オカマの解放を訴えつづけた東郷健さん。売れ筋の雑誌が、丸1ページを使って、亡くなった東郷さんを紹介していることに、ちょっと感動した。


同じく新潮の「週刊鳥頭ニュース」。「プーチン再登板」というお題に対して、西原理恵子さんが「よく横にモノをおいて その物の大きさを測るこがありますが」と前置きした上で、「大川隆法」と「池田大作」を「(バリューセット)」として、「プーチン」と比較している(笑) このページ、なんでもありでおもしろい。


文春が木嶋佳苗被告の生き様を漫画で紹介している。漫画の内容もおもしろいのだが、冒頭に「外観というものは、一番ひどい偽りであるかもしれない。世間というものはいつも虚飾にあざむかれる」というシェイクスピアの言葉を引用するセンスに脱帽である。


さて、今週の軍配は新潮に。

【これまでの取り組み結果】

文春:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

新潮:☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(谷川 茂)