[画像] インタビュー:二千花「自分の弱さを相手に分かってもらうのは、すごく美しいこと」

 2月18日、ココリコ田中が出演する読売テレビ・日本テレビ系ドラマ「リセット」の主題歌としてオンエア中のニューシングル「リバーズエッジ」を発売した二千花。「リセット」は人が生きている中で迎える様々な「人生の分岐点」で究極の選択を迫られる一話完結のドラマで、台本を元に書き下ろされた「リバーズエッジ」はアコースティックギターが刻む穏やかなリズムの上に、ヴォーカル・宮本一粋の純粋無垢な歌声が感情の昂りを表現、壮大なストリングスが神秘的な楽曲世界を描き出している。

――今回の「リバーズエッジ」がドラマ「リセット」の主題歌に決まった際にコメントを寄せられてましたが、ドラマの台本に対して楽曲を書き下ろすのは初めての体験で苦労されたようですが、最終的にはどのようにして、この曲は生まれたのですか?

野村陽一郎(以降、野村):20曲ほど書いていたので、最後はできた感じもなく、できていましたね(笑)。どんなことでも本番って、普段できているものがなかなかできないじゃないですか。だから、アスリートが本番で世界新を出すのは本当にいつもすごいなと思うんですけど。それで曲作りも、日常の様なフラットな時にできるメロディーに対して、大概はやっぱり実力の何割か落ちになるじゃないですか。本来、脚本をもらったからといって、あまりそこは関係ないんですけど。「ポップでウキウキするような感じの曲じゃなければいい」という程度の縛りなので、二千花の曲とか僕の癖も基本はそっちの…。

――そんなに、ウキウキした部類ではないかもしれませんね。

宮本一粋(以降、宮本):(笑)。

野村:すごく元気なウキウキした感じじゃないから、むしろ縛りなんか無いぐらいの気持ちで良かったんですけど。でも、メロディーを太く、強くとか、どこかで覚えやすいものにしたいとか、自分でどんどん緊張感を持たせていって書き始めたのが良くなかったのかな?とは。最初3曲〜5曲ぐらいまでは「あぁ書いたる書いたる、俺ならできる」ぐらいのテンションで全然いけてるんですけど。でも段々「ん?なんか違うな」ってなって。一段一段階段を下りてくるんですけど、ズドーンと奈落の底に(笑)。

最後はもう時間も無いし、「もういいや!」と思って楽になって書きましたね。もう諦めがついて、ギリギリに迫ってくると、まず罪の意識で眠れなくなるんですよ。布団に入ったりすると、そんな時間があるなら書けるじゃん、とか。最初は余裕なんですよ。寝てスッキリして書くか、みたいな気持ちが10曲ぐらいボツになって、段々リミットも無くなってくると、よく分からないモードになっていくんですよね。起きて書いて、ちょっと仮眠を取って、また作ってみたいな。その時は1日1曲ペースだったので。それで最後に、もう楽になって割り切ってやりましたね。それでできたというのは確かにあるなと。

――歌詞については、ドラマの台本に対して書き下ろした部分もありつつ、二千花の楽曲として意識された部分はありましたか?

野村:人間の業みたいな所の、不思議なお話じゃないですか。ヒューマンドラマじゃないけど、「もう一度やり直したい」みたいな。ドラマのストーリーに基づいてという書き方はしていないですけど、ドラマの脚本ありきのお話なので、ドラマのコンセプトというか、人間が誰しもやり直したいということの弱さみたいなものだったり、それに対してリセットする、2度チャンスがあるみたいな所から、人間の柔らかい部分だったり、強さだったり、業の部分だったりをテーマに、というような雰囲気では書きましたね。

宮本:本当にメロディーが導いてることだったり、思い浮かんだ景色だったり。人間臭さみたいな所を表現したいというのは、みんなの中にあったので、そこは自分だけじゃなく、「ボクたち」という、またその外に向かっている感じとかも、前作の「A Happy New Day」から引き継いだりして。内にも外にも発信できているような歌詞にしたいな、というのはありました。

――二千花は、音から映像が思い浮かんだり、想像をかき立てられるような楽曲を作られているなと感じるんですけど、「リバーズエッジ」のインストゥルメンタルを聴いた時に、幸せな世界をイメージしたんですよね。



宮本:うんうん、なんか優しい。

野村:うん。

――でも、歌詞を見ると冒頭から「ボクはいらない?」と始まるから、二千花らしいなって。

宮本:そうですよね(笑)。私も最初にデモを聴いた時、今まで一番っていうくらい、すごく優しいメロディーだなと思ったんですけど、それだけじゃない強い芯みたいなものを感じていて。優しくて気持ちいい感じだけじゃない曲にしたいというのがすごくあったので、歌詞にはそういう影みたいな部分を落としましたね。

――「頑張れ!」って直接的に背中を押すのではなく、「もっと弱く生きてみてください」という逆説的な歌詞も二千花らしいなと。

宮本:とにかく、自分の弱さとかを相手に分かってもらうのは、人間としてすごく美しいことだというのを言いたかったので。すごく熱い応援ソングとか、「頑張れ!頑張れ!」という曲にはしたくなかったですよね。もちろん、頑張って欲しいんですけど(笑)。でも、どちらかが上に立ってるとかでもないし、本当に一緒に同じ目線で、自分の弱さだったり、相手を受け入れたり、人間にしかできない行動というか。そういう根本的な所を忘れていたり、忙しくてできなかったりする人が多いんじゃないかな。そういう懐かしいものを表現したいなと。

――個人的な好みで言うと、ギターソロがすごく好きなんですけど、あれは簡単に録れるものなんですか?

宮本:よくぞ聞いてくれたね(笑)。

野村:ありがとうございます。あのギターソロは、すごく時間が掛かりました!(苦笑)。僕、家で録ったんですよ。実際いつの時代からなんだろう?90年代のグランジブーム以降って、ギターソロというパートがあまり無くなってません?いわゆるギターをリードでガッツリ弾くみたいな曲は、ブリティッシュの方でもあまり無いじゃないですか。多分、二千花の中でもギターソロはあまり弾いてないんですよ。それで、「A Happy New Day」の時に「たまには弾くか」と思って弾いたんですけど。今回もヴォーカルをレコーディングしている時ですら、あそこは空白だったじゃない?

宮本:うん、無かったので。

野村:だから、ミックスの日に初めて全員ギターソロを聴いているんですよ。オケはあるんですけど、ギターソロのパートだけが無いないまま、スタジオの作業も完パケみたいな感じだったので。それで、家で何本も弾いて、なんかメロウな方向にいくのがすごく嫌で、拍もズラしてみたり、上の方で弾いたヤツが急に下に来たり、そういうことをしているので、だいぶ広く音を使ってるんですけど。なんか嬉しいです!ギタリスト冥利に尽きます(笑)。

――対して、2曲目の「Nowhere Cowboy」は歌の表情だったり、ファーストアルバムにも無かった雰囲気の曲で。予想しなかった方向からの不意打ちを食らったような、新たな二千花を知ることが出来たので、すごく面白かったです。

宮本:ありがとうございます(笑)。

野村:その20曲ぐらいのボツ曲の1曲なんですけど。そう思うと、その時の俺はあのドラマのタイアップとしてこの曲を使おうとしてたのか?という噂も(笑)。どういうつもりで書いてたんだろう?多分、おかしくなってたんじゃないかな。頭を切り替えようと思って、例えば「二千花らしさ」みたいなものとか、勝手にどんどんハマっていくようなものを壊したくて作ったんですけど。絶対にこういうアレンジでリードシングルにはしないでしょうけど、これだったらウケるよね(笑)。

宮本:確かに。でも、可能性はゼロではなかったという。

野村:アルバムを一枚出し切って、「愛情」も出しましたけど、「愛情」はアルバムの延長沿いに生まれた曲なので。それを思うと、「A Happy New Day」からが、アルバムを出し切った後のタームなんですよ。メロディみたいなものも、歌詞の詞世界みたいなものもそうですけど、アルバムを作って見えた所も多分にあるので。自分で、その可能性をもっと先まで見たかったというのがあるんですよね。メロディというものは、メロディに対してリズムも、拍があるじゃないですか。そこの新しいものを二千花としてやりたかったんですよね。それで、ちょっとラフな跳ねるビートだったり、面白い感じのものをやってみたかったんですよね。それは、宮本一粋が歌う「ABC」みたいなものが彼女の中の、そして二千花の中の原点の一つじゃないですか。そういうリズムのものは何気に日本のポップスの中にも少ないかもしれないし、あるのかもしれないですけど二千花の中ではあまり表現している方ではなかったので、やりたいなと思ったんですよね。

――アレンジにも遊び心が溢れてますよね。

野村:まぁ、突貫工事でしたけど。でも、その良さがちょっとあるのかもしれないですね。

――みんなでアレンジのアイディアを出し合って、作業を進めて行ったんですか?

野村:いや、もう全然。一人で家にこもってやりました(笑)。そういう時にいつも、バンドって羨ましいよなって思うですよね。まぁ、二千花はバンドなんですけど、ドラムがいてベースがいてということですね。それだと、ベースが「ベースラインは、例えばこういうのが面白くない?」とか、ドラムが「リズムをこうしたら?」とかがあるじゃないですか。それが無いのって…(笑)。

――うがいの音や口笛とか、ボイスパーカッションが入っていたりするのも全部一人でやったんですか?

野村:うがいの音だけは、エンジニアの高山さんがふざけてしてくれたんですけど。全部、家でやりましたね。最初「10・9・8…」ってヤツは何かのCDの音に入ってたんですけど、「待てよ」と思って。「これ、権利問題ヤバくね?」って言ったら、ちょうどディレクターが僕の家に来たんですよ。「おぉ!いい所に来た」って、マイクを繋いで、「ハイ!」って言って。その音を全部加工して、劣化したサンダーバードみたいな音に変えて。それにしても変ですよね。でも、いい感じには出来たなと。

――「Nowhere Cowboy」の歌詞は、どうやって作ったんですか?

宮本:陽一郎くんのデモを聴いて感じた、リズムとかメロディはすごく跳ねて、ポップで楽しげだったんですけど、歌がちょっとけだるそうで、作り笑顔な主人公が歌っているようなイメージがあったんですよ。だから、楽しいメロディに楽しい歌詞、という感じではないと思って、そこはまたちょっと変えて。楽しいメロディでウキウキしてるんだけど、実は傷心旅行に行っているような、新しい哀愁さがすごくあるかな、というのを歌詞で。

野村:アルバムの5局目に「パラレル」という曲があるんですけど、「ミックスナッツならべて聴く」という、その歌詞の延長に近いのかなと。二千花なりのコミカルさみたいな、ギャグソングというか(笑)。

宮本:「ライ麦で朝食を / Sugar Cube」とかね。

――コミカルで、シニカルな。

宮本:うんうん。野村:でも、「エーデルワイス」とか「あたらしい水」とか「愛情」とか「リバーズエッジ」と、ああいうものを出してきて、だいぶ深い世界を歌ってきたので、その逆をやりたかったんですよ。こうやって「リバーズエッジ」みたいに二千花を知ってもらえる、そういう時にカップリングで「いきなりコレかよ!?」みたいな感じの、全く逆の違うものを(笑)。いいタイミングかな、と思うんですよね。

――方向は違うんですけど、それはそれでクオリティはすごく高くて、本気で遊んでる感じが伝わりました。

野村:ありがとうございます。

宮本:本当に一日とか二日でやったので、それも逆に良かったんだと思う。遊びの時の集中力というか。

野村:最後のミックスをするために、データをエンジニアの高山さんにメールで送る時に、もう「リバーズエッジ」は出来上がっていて。「リバーズエッジ」をミックスしてもらっている間に、この曲をアレンジしてたんですよ。リミットだったんで、多分40時間ぐらいぶっ通しでやっていて。その日に送ればもう全て終わり、これが終わればビールが飲める、みたいな気持ちばかりで(笑)。普通だったら僕は多分すごく詰めていくと思うんですよ。「Cream Soda」とかもそうなんですけど、「ツチッ、ツチッ」って鳴る音とかも、「今、右!ハイ!次は右だから、次は左」とかいうことを細かくやっちゃうタイプなんですよ。今回も実際に、最初のハンドクラップとか分けてたり、ちょっと細かいことをやってるんですけど。いつもそのパターンをこだわるんですけど、段々「もう、いいや」って(笑)。別によくないんですけど、そんなことよりももっと、「違うだろ!?」みたいな感じでやっていって。最後は大分いい加減なというか、詰めきらない状態。「いい加減」と言うと、別に音楽をいい加減に作っているつもりは一切無いので、「いい加減」という表現はしたくないんですけど。僕がプロデュースしないことというか、やりすぎない感じはいい方向に働いたのかな、と思うんですけど。

――レコーディングって、テイクを重ねるほど良くなるとも限らずに、先ほど言われていた瞬間の集中力だったり、一発目が結果的に一番良かったので採用みたいなことってよくあるじゃないですか。そういう感じのラフさというか、いい具合の肩の力の抜け具合がありますよね。

野村:そう。アコースティックギターも、スタジオで「じゃあ、録りまーす」と言って、一回弾いて「終わりまーす」と言って。口笛も一回吹いて、「終わりまーす」と言って。家でエレキギターを録ってるんですけど、エレキギターも一回しか弾いてないんですよね。そう思うと、全部ファーストテイクというか。もう「リバーズエッジ」を作っているタームの後半なので、制作のモードにはどっぷり入っているから、そこに「さぁ!制作をするから、ヨーシ」という気持ちを上げていくみたいな作業は一切必要無かったんですよ。ずっと曲作りから、最後の出口の時ですからね。だから多分、テイクを一発で決めるみたいなものを自然と出来るというか。「ヨシ、今日はレコーディングだ!弾こう」というよりは、「もう、やっちゃおう」という感じの。ギターを持って、もうクッ!とその世界に入って、ガッ!っと弾けたので。もしかしたら、今から二日間でそういうものを作るとなると、ちょっと出来ないかもしれないですね。制作の最後だから、もう重要なストレッチも余裕で出来て、体もほぐれまくってる時の新記録を出すみたいな感じかもな(笑)。

――レコーディングで歌入れの際などに、スタジオの環境作りなど、いつもやっていることはありますか?

宮本:緊張感は絶対に必要だと思うので、あまり録る前にしゃべりすぎたり、リラックスしすぎるムードというのは避けたいので。割と集合時間に来てお互いに、私は発声したり陽一郎くんは色々とイジったり、ちょっと仕事モードじゃないですけど。歌いながらコミュニケーションを取る感じですかね。あんまり最初に色々と 「昨日さぁー」みたいなことはやっぱりちょっと。緊張はどっちもあると思うので。

――普段、日頃から喉のために気を付けていることはありますか?

宮本:もう本当に最低限なことですけど、家では暖房は付けないとか、電車に乗る時にマスクをしたり。私の喉は弱いと思うので、もう「痛い」と思ったら歌い過ぎないというか、無理はしない。

――一粋さんは元から早寝早起きで、健康的な生活ですもんね。

宮本:最近、もう素晴らしく健康だと気付きました(笑)。

――生活面でいうと、野村さんとは間逆なんですかね?

野村:ダメだな、直らないよなぁ。

宮本:でも、一粋を見習って、ちょっと改善しようとした時があったよね。

野村:そんなこと、したっけ?(笑)。多分、記憶に無いぐらいの微々たる。

宮本:多分、2日間ぐらいだと思うんですけど。やっぱりライフスタイルってもう蓄積されたものだから、多分もう変わらないのかなって。

――そう言えば、野村さんのMySpaceを見ていたら、靴下の写真が載っていて。

野村:一粋の「忍耐」(笑)。アホですよね。

宮本:「忍耐」靴下をもう大プッシュしていこうかなと思って。

――何か、忍耐が足りないと感じる出来事でもあったんですか?

野村:一粋は忍耐力が欠落していますね(笑)。

宮本:それを言われたのが、頭に残ってて。とある雑貨屋さんに行った時に「忍耐」という靴下があったんですよ(笑)。即買いして、ライブとかの時に結構履いてますね。

野村:マジで!?(笑)。

宮本:この前のライブも忍耐靴下を履いて歌ったし、ブーツとかの場合は見えないように忍耐で。格好から入るみたいな(笑)。

――若干、縁起を担いでる部分もあるんですかね。

野村:あぁー、ライブの時に別に裸にはならないけど、勝負パンツで挑むみたいなことには近いのかもね。

宮本:そうそう、本当にそんな感じ!

――今後に向けて、やりたいと考えていることはありますか?

宮本:ライブをやって、いつも30分とかのメニューですけど、一時間とかやってみたいなというのがあったり、ゆくゆくはワンマンとかもやりたいなと思いますね。

野村:今年、3年目に突入なので。

宮本:2月14日で3年目。

野村:作品を作って歌うという感じの、もちろん、それが表現方法なんですけど。割とその枠も同じ感じの、そこに慣れてきたというか。多分、宮本一粋の表現も、歌うということがスタジオのレコーディングとステージの上で、ステージの規模がどうであれ、自分達が慣れてきてしまっているというのは感じるんですよね。なので、そのもう一次元上に上がりたいというか、それを表現したいですね。ステージセットを豪華にするとか、そういうことじゃなくて。曲を作って、演奏して、歌うということには何も変わりはないんですけど、もっと高みに上りたいですね。

――「Nowhere Cowboy」で、二千花にはまだまだ新たな一面が隠れているのを実感できたので、楽しみにしています。

宮本:そうですね。七変化で(笑)。


二千花 ニューシングル「リバーズエッジ」特集