11月15日にゲロラ・ブン・カルノ・スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選のインドネシア戦は、前半の強い雨とピッチコンディションの悪さにより、日本のミスが多発し、相手に決定機を与える苦しい展開になった。
しかし、終わってみれば、35分の先制点を皮切りに追加点を重ねた日本が4−0で大勝。決定力とその阻止力の差が表れた試合だった。
ただ、それにしても、苦しんだ。アウェーの環境要因があるとはいえ、なぜこれほど苦しんだのか。
日本のビルドアップはおおむね良好だった。インドネシアの守備はマンツーマンであり、同じ5−4−1で構えても、オーストラリアとは守備の指針が違う。ゾーンで固まってコンパクトにプレスに来るわけではないので、1人を釣り出せば、必ず周囲にスペースが空く。引き付けてパス、引き付けてパスと、この繰り返しで前進が可能だった。
ただし、日本とインドネシアはともに初期配置が3−4−2−1だ。立ち位置が鏡合わせなので、そのままサポートすると、マッチアップする相手に捕まりやすい。そこで日本は流動的にスペースを使った。
マンツーマンの守備には流動が効く。鎌田大地や南野拓実がサイドへ流れたら、入れ替わって三笘薫が中へ入る。鎌田が中へ下りれば、守田英正が入れ替わってライン間へ潜る。再現性の高いポジションチェンジが繰り返された。
インドネシア側の目線に立つと、自分がマークする相手が自分の範囲外へ出て行くため、フリーにしないよう追撃したいが、迂闊に追えば別の選手が入れ替わり立ち替わり、自分のエリアへ侵入して来る。ならばと、マークの修正、受け渡しをしたいが、それを許さないテンポで、日本もパスを回してくる。
マンツーマンは相手の立ち位置が守備の基準点なので、こうして相手がポジションを跨いで大きく動いてくると、振り回されて守備ブロックが歪になり、スペースの穴が空く。日本はそれを狙った、町田浩樹、遠藤航、板倉滉など多くの選手からライン間へ鋭い縦パスを差し込んだ。
特に町田は、相手サイドハーフを引き付ける立ち位置をアグレッシブに取っており、これまでの最終予選では最も積極的なプレーに見えた。
サウジアラビア戦やオーストラリア戦では、日本の3−4−2−1は立ち位置の硬直化という一面が表れていたので、インドネシアはこの日本の流動性に多少驚いたのではないか。
一方、鎌田や守田らが流動、躍動するなか、遠藤は動かない。真ん中に錨を下ろすかのごとく、相手1トップの裏に立ち、パス回しの中継点として君臨した。いくら流動的と言っても、みんなが無秩序に動けばバランスは崩れる。動く選手と、動かない選手。流動的な攻撃に軸を通し、安定をもたらすために、動かない遠藤は重要なピースだった。
こうして流動性を生かしながらライン間を攻略する場面は、幾度となく再現され、あと一歩というところ。前半からチャンスは作れており、攻撃は悪い内容ではなかった。
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ただし、収支を考えると、どうか。時折、インドネシアが繰り出すカウンター、日本のプレスを引き込んでからのロングボールには、背後を何度も陥れられた。9分の板倉など、個人の対応ミスも重なっている。35分にオウンゴールで先制し、その5分後に相手が負傷して1人少ない時間帯に2点目を決めることができたが、難しい前半だったのは間違いない。
この執拗なロングボールをどうにかしなければ、2−0さえ砂上の楼閣だ。ロングボールの対処は、前で出所を抑えるか、後ろで落下地点を埋めるかの2通りしかない。前半はどちらも中途半端だった。これはFWとDFで1人ずつ、負傷によるスタメン変更があり、連係が低下した影響もある。
後半はこの点が修正された。日本は開始直後からハイプレスに行き、明確に相手の出所を抑えにかかった。相手ゴールキック時も、ペナルティエリアのラインを容易に越えさせず、ロングボールを蹴らせる位置も、サイドのタッチライン際へ追い込み、窮屈にする。
ただし、出所を抑えると言っても、遮二無二にハイプレスに行ったわけではない。ボランチは守田が前へプレス、遠藤は後ろに残ってリスク管理。前半は2人ともにプレスに行く場面も見られたが、後半は明確に縦関係に変わった。このハイプレス修正が功を奏し、49分に高い位置でボールを奪った守田のゴールで3−0とし、試合を決定付けた。
日本はそのままハイプレス続行で、出所を抑える対策を続けた後、69分に菅原由勢が4点目のゴール。79分に旗手怜央と大橋祐紀が入った辺りではミドルエリアで構えるようになり、段階的に守備を適応させた。
一方、取り返すしかないインドネシアは、錨役の遠藤にもプレッシャーをかけるために前へ一層アクセルを踏んだ。後半の日本はビルドアップが困難になり、無理をせずロングボールを蹴る傾向が強くなっている。必然、相手に押し込まれる時間も増えたが、前田大然や伊東純也といった起用を見る限り、自陣に引き込んでのカウンター、ロングボールを、今度は日本のほうが主体的に選んだということだろう。先手を取れば、戦略は楽になる。決定力は宝だ。
それにしても、インドネシアはアグレッシブな強敵だった。結果は4−0だが、環境要因もあり、スコアほどの差は感じなかった。連係が深まれば、より強いチームになりそうだ。ここまでの最終予選5試合の中で、一番面白い試合だった。
文●清水英斗(サッカーライター)
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