厚生労働省によると、2024年度の国民健康保険料の上限額は106万円で、2022年から3年連続で引き上げられたそう。このような状況のなか、ジャーナリストの笹井恵里子さんも「自治体から保険料決定通知書を受け取った時、あまりの金額の高さに絶句した」と語っています。そこで今回は、笹井さんの著書『国民健康保険料が高すぎる!-保険料を下げる10のこと』から一部引用、再編集してお届けします。
【表】令和6年度の応益割・減額基準表。当てはまる区分に応じて減額に。計算は収入ではなく所得金額で計算される
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「軽減」「減免」の申し出を
国保料を下げることを考える時、「減額制度(軽減制度)」と「減免制度」がある。この2つは異なるということを頭に置いておこう。恥ずかしながら、私は長いこと一緒だと思っていた。本稿では、減額制度について解説する。
所得ゼロの家族分も申告しているか
国民健康保険法(国保法)に基づき、低所得者世帯に対する軽減制度が設けられている。応益割(収入などに関係なく一律に課す「均等割」「平等割」)についての軽減で、保険料の7割、5割、2割を軽減するというもの。
こちらは自治体が前年の所得に基づいて計算し、自動的に計算するので申請する必要はないのだが、あくまで“所得がわかれば”の話である。
杉並区議会議員OBで、社会保障関連の多数の著書をもつ太田哲二氏が解説してくれた。
「所得税の確定申告や住民税の申告、あるいは国民健康保険料に関する申告書を提出していればいいのですが、かなり大勢の人がそれを実行していないでしょう。私の推計では100万人はいると思いますね。所得が一定基準以下なら応益割が減額されます。ところが所得税ゼロだから確定申告しない、住民税の申告もしない。
そうなると市区町村は国民健康保険料を計算することが不可能になってしまい、応益割全額を請求されてしまう。大雑把に応益割はどの市区町村でも年間4~8万円あります。仮に応益割5万円とし、7割減額されるような所得だった場合、所得を申告すれば1万5000円の支払いでOKになるのです」
「世帯全員の所得」をきちんと申告する
前年中の所得について、世帯全員の所得をきちんと申告しているだろうか。
もちろん確定申告をしているならOKだし、アルバイトの給与所得のみで勤務先で年末調整を受けた人も所得の申告は必要ない。
『国民健康保険料が高すぎる!-保険料を下げる10のこと』(著:笹井恵里子/中央公論新社)
しかし、2か所以上のアルバイトをかけもちしている人や、アルバイトとは別に業務委託で得ている収入がある人、勤め先で年末調整されていない人、年内に退職した人などは自身で確定申告をする、つまり所得を申告する必要がある。
また公的年金(国民年金、厚生年金、企業年金、恩給など)所得のみの人は申告する必要はないが、税法上所得申告が不要(給与収入103万円未満)の人でも、国保加入者は申告したほうがいい。
筆者居住地の区役所・K職員もこう補足する。
「日本年金機構から税部門への法定の報告がありますので、年金収入のみの方の申告は基本的には不要です。ただし例えば夫婦2人世帯でどちらも国保加入者で、どちらかは年金収入を得ているけど、もう1人は年金を得ておらず所得ゼロの場合、『私は所得がないから税申告をしなくていい』と思ってしまいがちですよね。でも少なくとも国民健康保険加入者の方はゼロならゼロと、各自治体の市町村の税係に申告してください。ゼロの方がきちんと申告することで保険料の減額が適用される可能性があります」
「収入」と「所得」は異なる
減額基準表を下の図表に記す。
あくまで世帯の総所得であるため、国保加入者が低所得者あるいは所得なしでも、国保に加入していない世帯主に所得がある場合、減額されないことがある。
もし親子の世帯で、親が年金収入のみ、子どもが年収を得ている場合「世帯分離」をして親が単身世帯になったほうがこの減額基準に該当する可能性が高い。「収入」ではなく「所得」である点に注意が必要だ。
ざっくりと「収入−必要経費=所得(事業所得、給与所得、不動産所得、利子所得など10種類)」である。厳密には「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」は異なる。
ただ一般的にそこまで理解する必要があるとは思えないので、最低限「収入」と「所得」は違うことを認識しておけばいい。ちなみに高齢者の公的年金等控除は大きい。
さかのぼって減額もあり得る
そして見落としがちなのが「高齢者特別控除15万円」と太田氏。
「所得税や住民税を計算する時の年金所得は、年金収入−公的年金等控除=所得ですが、65歳以上で国保料の減額制度の場合(年金収入のみ)は、国保法に基づき『年金収入−公的年金等控除−15万円(高齢者特別控除)=所得』となります。例えば年金収入120万円のみの場合、120万円−110万円(公的年金控除)−15万円(高齢者特別控除)=マイナス5万円=所得ゼロとなります。応益割(均等割)7割減額の適用になるでしょう」
国保料決定通知が来た際、計算式のどこかに世帯所得が記載されているはずなので、自分が申告しているものと同一かという確認をしておきたい。
さて太田氏のもとに時折、国保料滞納で相談に訪れる人がいるという。所得無申告で減額制度が適用されていないような場合は、自治体窓口に行かせて「さかのぼって適用してくれませんかと言うように」とアドバイスしているそうだ。
「地域によって国保料でなく国保税といわれることがありますが、一番の違いは『時効』です。保険料なら2年、保険税の場合は5年、さかのぼって減額適用してもらえる可能性がありますよ」
※本稿は、『国民健康保険料が高すぎる!-保険料を下げる10のこと』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。