敵地のインドネシアにも、対戦相手としてのインドネシアにも、どこか縁深さを感じているようだ。日本代表DF菅原由勢(サウサンプトン)が12日の練習後、報道陣の取材に対応。2018年のAFC U-19選手権以来となるジャカルタ再訪に「まーーーーーじで懐かしいですね」とにこやかに話し、次の一戦に向けた思いを明かした。

 菅原は2019年10〜11月、U-19日本代表の一員としてMF久保建英らと共にジャカルタで行われたAFC U-19選手権に参戦。グループリーグを突破した上で、準々決勝では6万人アウェーの中で開催国インドネシアを下し、見事にU-20W杯出場権を獲得していた。

 今回の試合会場はそのインドネシア戦と同じ7万8千人収容のゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム。チケットは完売が見込まれる中、菅原は懐かしそうに当時の思い出を振り返った。

「もちろん僕らの時も大アウェーというか、すごくインドネシアの圧力はあったと思うけど、アウェーの選手の僕らとしても気持ちが上がるスタジアムだった。ああいうアウェーの中こそ俺たちが絶対に勝つんだという気持ちにさせてくれたのはあの雰囲気があったからだと思うし、だからこそああいう難しい試合を勝ちきれたというすごくいい思い出もある。インドネシアのサッカー熱はあの時からすごかったと思うけど、僕らもサッカーが好きでやっているので、熱があったほうが気合いが入る。すごく試合が楽しみです」

 また昨季まで5年間にわたってオランダのAZでプレーしていた菅原にとっては、対戦相手のインドネシア代表にも思い入れがあるという。

 群島国家のインドネシアは大航海時代から戦後にかけて、長らくオランダ支配を受けていた影響で、インドネシアにルーツを持つ人々がオランダに数多く住んでいる。またインドネシア生まれの人々の中にもオランダにルーツを持つ者も多く、近年、インドネシア代表はオランダ系の帰化選手を次々と呼び込む形で強化を進めている。

 彼らの多くはオランダのエールディビジでキャリアを送っており、「帰化した選手はほぼ全員知っていたし、対戦したことある選手もたくさんいた。今回だけじゃなくインドネシアの試合も見ていたけど、顔なじみがよくいるなと思っていた(笑)」と菅原。代表戦での再会に向けて「素晴らしい選手たちがいるのはよく分かっているので、そういう選手とやれるのは楽しみ」と口にする。

 もっとも菅原は現在、日本代表で出場機会を得るのが難しい状況となっている。第2次森保ジャパンの発足以降、右SBの絶対的レギュラーとされていたが、今年1月のアジア杯期間中にレギュラーの座を失うと、6月の“攻撃的3バック”導入後はさらに出番が激減。直近5試合連続で出番から遠ざかっており、今回のシリーズも攻撃的な布陣を貫くのであれば厳しい立場が予想される。

 だが、その中でも日々の代表活動では活力を見せ続けている菅原。プレミアリーグという世界最高峰のクオリティーを誇る舞台で戦いながら、代表活動の長距離移動と向き合い、それでも試合に出られないという状況は精神的にも身体的にも厳しい負担があると想像されるが、その苦しみを感じさせないような明るさでチームを支えている。

 特に今回はヨーロッパから遠い地域でのアウェー2連戦というタフなシリーズ。だが、そのことを菅原に問うと、「僕だけじゃなく、プレミアリーグだけの選手だけじゃなく、どのリーグでも連戦はある」と冷静に述べ、日本代表の宿命を背負う姿勢を強調した。

「長谷部(誠)コーチもそうだけど、歴代の選手たちはたぶんもっと過酷な環境でやっていただろうし、もっと難しい最終予選のレギュレーションのなかでW杯の切符を勝ち取っていたことを考えると、歴代の選手たちの偉大さがすごく伝わってくる。僕らはたしかに試合数は増えているけど、チャーター機が用意してくれていたりとか、環境の面で協会側が手厚くサポートしてくれていて、選手にとってやりやすい環境になっている。昔の選手はそうじゃなかったと思うし、選手のために最善の準備をしてくれているのでそこに感謝したい」

 その上で「ヨーロッパからアジアの移動はタフだと思うけど、W杯のため、日本代表のためだったらキツいとか言っていられない。それをエネルギーに変えるしかない」と言い切った菅原。出場機会の少ない中でも、日本代表への熱意、日本を背負う仕事へのやりがいは尽きないようだ。

「サッカーが好きでサッカーをやっているし、そういう中でこうして国を背負えることは光栄で、偉大な立場にいられることにまずは感謝しないといけない。だからこそ、この代表には来る意味がある。来るだけが全てではないけど、やっぱりこのチーム、この代表に貢献したい思いをピッチ上で証明していかないといけない」

「チームでもそうだし、まだまだやることはあるけど、“代表”という意味の重さは重々承知している。それを毎日、この代表期間だけじゃなく、ここに常に居られるように、このチームを勝たせられるように、W杯を勝たせるようにという思いで常にやれている。それを継続していきたいなと思います」

 まずはインドネシア戦までの2日間、これまでどおりに準備を重ね、ピッチに立つ権利を自らの手で掴み取るつもりだ。

(取材・文 竹内達也)