能登半島地震から10カ月。未だに復興が進まないなか、能登の食材をアピールするため、地元のパティシエ・ショコラティエが世界最大級の祭典に挑戦した。
【画像】地震で2万本のワイン流出、能登素材の「4粒のチョコレート」に復興への思い■復興願い…能登の食材で世界に挑戦パティシエ・ショコラティエ 辻口博啓シェフ(57)
「輪島の朝市というと石川を代表するマルシェなんですけど、あの日から9カ月経っても、まだこのような状態なんですね」
洋菓子の世界大会で幾度も優勝しているパティシエ・ショコラティエの辻口さん。石川県七尾市出身の辻口さんは、能登半島地震の直後から、炊き出しやお菓子の配布などを行い、支援を続けてきた。
その辻口さんが能登復興のため、新たな挑戦をするという。
辻口シェフ「能登の素材というものに焦点を当てることによって、能登の復興に少しでも一筋の復興の光を照らすことができればなと」
フランス・パリで行われる世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」の品評会で能登の食材を使い、受賞を目指すという。
9月、辻口さんが向かったのは、未だに倒壊したままの建物が多く見られる地元・七尾市にある一軒。創業98年の老舗醤油店は震災で店の軒先や店内が大きく崩れ、一時、休業に追い込まれたというが…。
辻口シェフ「復興に向けて第一歩がスタートしたんだなと、少しほっとしましたね」鳥居醤油店 店主 鳥居正子さん
「ありがとうございます。奇跡のもろみがちゃんと生きていたので」
醤油の前段階のもろみが入った木樽が奇跡的に被害を免れたため、醤油づくりを再開することができたという。能登復興のためのチョコレートに使用する最初の素材は、地震に耐えた「奇跡の醤油」に決まった。
実は辻口さん、七尾市にある自分のスイーツ店も大きな被害に遭い、再開のめどは立っていない。それにもかかわらず、なぜ能登復興のために奔走しているのか。そこには、高校時代の恩師のある言葉があった。
■恩師の教えを守り復興支援辻口さんの高校時代の恩師・四柳嘉章さん(77)から、ある教えがあった。
辻口シェフ「『能登半島の文化・自分のルーツを大事にしないと、根無し草になってしまうんだ』と18歳ごろからずっと教えていただいて」四柳さん
「応援団長やったりとか生徒会長をしたりとか、一本気なところがあって何でもやる」
「自分のルーツを大事にする」という思いから「能登の食材を使ったチョコレートで復興を支えたいと考えた。
新たな食材を求め、辻口さんが訪ねたのは穴水町にあるワイナリー。
辻口シェフ「(地震発生後)どういう状況だったんですか?」能登ワイン 丸山敦史さん
「玄関開けた瞬間からワインの香りが立ちこめていて」
ブドウから育て、大切に作ってきたワイン。それが地震によって年間生産量の3分の1に当たる約2万本分が流出する被害を受けた。辻口さんは「今回、被害を免れたワインをチョコレートの材料にしたい」と考えた。
辻口シェフ「本当に感動ですね。ブドウの香りが強くて、飲むとさらに重厚なテイストが後から来る。能登じゃなければ、この味わい、風合い、余韻だったりとかは生まれないんでしょうね」
次に訪れたのは、能登町にある創業155年の酒蔵「数馬」。地震により地盤沈下が発生し、酒蔵や商品に大きな被害が出たが、知り合いの酒造会社の協力で1万5000リットルは無事出荷できたという。
数馬酒造 数馬しほりさん「改修工事もできないまま8カ月過ぎているんですけど、当時は足の踏み場もない状態で」
醤油・ワイン・日本酒。はたして、どのようなチョコレートができ上がるのだろうか。
■試行錯誤のチョコレートのできあがりは…素材を集めてから3週間後、辻口さんはコンテストに出品するチョコレートの最終チェックを行っていた。
辻口シェフ「能登素材と向き合った時に自分のルーツは改めて能登なんだと、より強く感じることができた」
試行錯誤の末、完成させたのが能登の素材で作った4粒のチョコレート「C.C.C. 能登の大地のめぐみ」。
「No.1 テロワール能登」、ワインには能登のイチジクを合わせ、素材の香りと食感、余韻を楽しむ一粒に。
「No.2 ふきのとう」、醤油は「能登のふきのとう」と合わせることでキャラメルのような味わいと、ほろ苦さを演出した。
「No.3 能登ヒバと酒」、日本酒は能登ヒバの香りを抽出したガナッシュと合わせることで、マスで日本酒を飲むような香りが楽しめる。
さらに、能登柚子とハーブで柑橘系の香りを際立たせたチョコレート「No.4 能登柚子とレモンマリーゴールド」も用意した。
先月30日から始まった「サロン・デュ・ショコラ」。世界各国から集まった腕自慢のショコラティエのなかで、能登復興を祈り、作り上げた辻口さんのチョコレートはどのような評価を得られるのか。
■品評会 能登素材のチョコの評価は審査の結果、辻口さんのチョコレートは最高評価であるゴールドタブレットを獲得した。
辻口シェフ「僕自身がパティシエとしてショコラティエとしてできること、それはまさに、こういう場でしっかりと能登を伝えることだと思っている」
パリのショコラ愛好家はこう話す。
試食したフランス人「素晴らしかった。とても味わいがあって風味が繊細で、被災した人々への思いも感動した」
フランス人からも大絶賛された辻口シェフのチョコレート。辻口さんは復興への思いをこう語る。
辻口シェフ「能登の復興が全く進んでいない状況を見て憤りを感じる。いろんな生産者たちが悲鳴を上げている。僕は食の観点からじゃないと応援できないので、少しでも生産者たちに寄り添いながら応援できたらいい」
チョコレートは1月中旬から辻口シェフの店やバレンタインの催事などで販売され、売り上げの一部は能登半島地震復興支援の義援金として寄付される予定だ。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年11月4日放送分より)