[画像] 「とにかく質推し」だったセブンを変えた切実背景


セブンーイレブンに国内での成長余地は残っている?(撮影:今井康一)

カナダのコンビニ企業から買収提案を受けるなど、何かと話題のセブン&アイホールディングス(HD)。10月10日の中間決算発表の際には、イトーヨーカ堂やセブン銀行などの「非コンビニ」事業を子会社から分離する構造改革方針も打ち出した。今後の注目点について、小売業界担当の冨永記者に聞いた。

※記事の内容は東洋経済の解説動画「【セブン&アイHDを解剖】カナダ企業が「7兆円」買収に前のめり/コンビニ大手の中で目下「一人負け」の理由/構造改革でイトーヨーカ堂・セブン銀行「分離」の背景」から一部を抜粋したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。

制作:田中険人

買収提案をはねのけるならば

――今回セブン&アイHDが新たな構造改革として、コンビニ事業に絞って成長を目指していくプランを打ち出した狙いは?

会社側はそうとは明言しませんが、業界では「買収提案」が背景にあると受け止められています。カナダのアリマンタシォン・クシュタールという、日本人にとってもなじみ深い「サークルK」を世界で展開するグローバルコンビニ企業から買収提案を受けています。

セブン側は「(買収提案を受け入れるかどうか)オープンに議論をします」と言っていますが、取材を進めるとやはり、外資に買収されることへの危機感は現経営体制の中にあるようです。

であるなら、買収提案をはねのけるために、「われわれセブンは、今後も独立路線で経営していくからこそ株主の期待に応えられるんだ」という姿勢と根拠を示さなければなりません。

その1つが不採算事業の切り離しです。イトーヨーカ堂をはじめとするスーパーストア事業は売上高が1兆円を超えている一方、事業内には赤字を出している会社も多く、グループの足を引っ張っているといわれています。

それらの赤字会社をグループの子会社から外せば、まず数字上の見た目をキレイにできます。そしてやはり、井阪隆一社長や経営陣の時間と思考を、よりコンビニ事業に集中させることができるようになります。投資、お金の面でも同様ですね。

その点を明確にして、「買収提案(で提示された額)より高い株主価値を、独自路線で実現できるんだ」と株式市場に示す目的がありそうです。

「値段がちょっと高い」という印象

――国内のコンビニ事業の現状は?

足元はかなり苦しい状況です。国内については店舗数がここ数年伸び悩んでいますし、中長期的に考えても、10年前のような出店によるシェア拡大は今後ほとんど見込めないでしょう。

それに加えて、国内のセブンーイレブンは長らく、「品質はいいけど値段がちょっと高いよね」という印象を多くの消費者に与えてきた面があると思います。それが今、インフレという長らく日本経済の直面して来なかった状況下で数字にも如実に表れるようになり、ファミリーマートやローソンが(売り上げを)伸ばす中、セブンは苦戦しています。

お客さんから敬遠されていることには経営陣も課題を感じているようです。ここをどう乗り越えられるかというのがセブンーイレブン・ジャパンとしては課題ですね。

――具体的にどんな策を講じていますか?

先ほど申し上げたように、出店によるシェア拡大とか事業拡大はなかなか見込みづらい。その状況下で再成長するには、お客さんがセブンに持っている「割高」というイメージを拭うことが喫緊の課題です。


セブンーイレブンの店頭で目にするようになった「うれしい値!」のPR(編集部撮影)

最近、お近くのセブンの店舗に行かれた方はわかると思いますが、「うれしい値!」というピンク色のPOP、セブンで今まであまり見なかったビビッドな色のPOPがたくさん目につきます。「実は値頃感のある商品もたくさんあるんですよ」というPRを前面に打ち出していると。

これはセブンを知っている人からすると、結構驚きです。「とにかく質」で推してきたイメージのセブンが価格を押し出しているという点に、業界関係者からも注目が集まっています。

もちろん「高品質」という点は譲れないと会社は言っていますが、それとは別に「低価格」という点にフォーカスし始めたというのは、セブンーイレブンとしてはすごく大きな挑戦をしているのだな、そこを最大の課題と感じているんだろうな、というのが見て取れますね。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)