[画像] もう、ダメ…年金月12万円「老人ホーム」で楽しく暮らしているはずの75歳母のか細い声。新幹線に飛び乗ってきた42歳娘は嗚咽、目の当たりにした〈まさかの惨状〉【FPの助言】

高齢であっても両親ともに健在であれば2人で助け合ってくれる。そう思っていても、もし片方が先立ってしまったら……。高齢親の1人暮らしは、子の心配も尽きないでしょう。そんなときに有力な選択肢となる「老人ホーム」。しかし、「老人ホームに入れば安心」とはいえない現状があります。本記事では、田中クミさんの事例とともに、介護施設の現状について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が解説します。

1人暮らしとなった高齢母を老人ホームへ

田中クミさん(仮名/42歳)は、都内某所で勤務する会社員でありながら、中学生の息子と小学生の娘を持つ二児の母です。

クミさんの母親、ハナコさん(仮名/75歳)は高齢なうえ、4年前に夫を亡くし1人暮らしをしていました。クミさんは母のことが気がかりではあるものの、母の住まいは故郷にあり、頻繁に様子を見に行ける距離ではありません。

「お母さん、そろそろ老人ホームに入ることを考えない? 1人のままでは物騒だし、なにかあったらと思うと心配で……」クミさんは母を気遣う一心で提案しました。娘の気持ちはハナコさんにも十分伝わっています。

「そうね。そのほうが私もさみしくなくていいかもしれないわね」社交的なハナコさんは、新しい友人ができるかもしれないと、期待を胸に老人ホームへの入居を決断しました。

ところが問題がありました。ハナコさんの年金は遺族年金を含め、月額12万円でしたが、入居できそうな老人ホームは月額費用が20万円と年金額を大きく上回っていたのです。

「仕方ないから、もう少し安い老人ホームが空くまで待っているわ」ハナコさんはそう言うものの、クミさんは「これ以上心配し続けるくらいなら」と、夫と相談し、家族一丸となってハナコさんの不足資金を負担することに決めました。都内の老人ホームは故郷よりも相場が高く、なによりハナコさんを馴染んだ地元から離すことを懸念したため、実家近くの老人ホームに入居させることに。

「これでお母さんも安心して楽しく過ごせるはず……」クミさんはやっと安堵することができました。

しかし、待っていた現実は理想とは違いました。入居後ひと月ほど経ったころ、ハナコさんから「もう、ダメ……」とか細い声で電話が。クミさんは慌てて仕事を切り上げ、新幹線に飛び乗り、母のもとへ向かいます。そこで、衝撃の光景を目にしたのです。そのホームは、劣悪な環境でした。

老人ホームの状況

スタッフは明らかに不足しており、疲弊しています。当然ケアの質は落ちるし、設備の老朽化も目立ちます。ところどころ、灯りが取り換えられないまま放置されているところも。掃除が行き届いているとはとてもいえません。

ハナコさんは体調を崩していましたが、適切な対応がされているとは思えませんでした。「こんなひどい環境で母を1ヵ月も我慢させていたなんて」クミさんはすすり泣きます。

多くの人は、老人ホームが安全で快適な環境であることをイメージするかもしれません。すべてが整った環境ではない現実を目の当たりにし、クミさんは大きなショックを受けました。このような問題は、少子高齢化が進む昨今において、多くの方にとって他人事ではありません。いずれ自分が直面する可能性のある問題でもあるのです。

介護施設の課題と現実

総務省 統計局の調査によると、2024年の時点で3,000万人以上の高齢者が存在します。そしてそのなかでも、介護が必要な人の数は増加傾向にあります。しかし、施設の数は追いついておらず、老人ホームに入居したくてもできない「待機老人」が多数いるのが現状です。

現存する施設でもスタッフの数が足りておらず、細やかな対応は難易度が増すばかり。必然的に、老人ホームの費用も年々上昇します。介護付き老人ホームであれば15万円〜30万円程度の月額費用に加え、数百万円の入居一時金がかかるケースもあります。

ハナコさんも老人ホームに入ることをかねてから意識していましたが、この費用の高額さにしり込みしてしまい、入居の決断が遅れた背景があります。

同じように考える高齢者も当然、少なくありません。物価の高騰も嘆かれるなか、年金だけでは賄いきれないケースも多く存在します。このうえ、精神的なサポートも難しくなれば、入居者であるハナコさんの「もう、ダメ」という悲痛な言葉も多大な不安が込められたものと推察ができます。

たとえ運よく老人ホームに入居できたとしても、家族とのつながりや適切なコミュニケーションが取れなければ、高齢者は孤立感や不安を感じやすくなります。

家族と協力することでとれる改善策

こうした問題を解決するためには家族の協力が必要不可欠です。もっと金銭的な余裕があれば、焦って決断する必要もなかったことでしょう。事前にとれる財務的な解決策を考えます。まずは、公的介護保険の活用方法を確認することです。

日本では公的介護保険制度があり、要介護認定を受けた人は、特定の介護サービスを受ける際に費用の1割〜3割を負担するだけですみます。

老人ホームでも、特定のサービスに対して介護保険が適用される場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。特に、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームでは、介護保険が適用されることが多いです。これらの老人ホームは待機老人が多い傾向にあるため、早めの動きが必須です。悩んでから動くのではなく、早いうちから話し合う必要があります。

また、民間の介護保険や年金保険の活用も検討できます。これらの保険商品は、介護が必要になった際に給付金を受け取ることができ、施設入居費用や在宅介護費用の一部を補助する役割を果たします。商品によって給付条件や金額が異なるため、家族のニーズに合わせて選択することが重要です。

資産運用も有効です。たとえば、以下のような手法があります。

・リバースモーゲージ:自宅を担保にして融資を受け、生活費や介護費用に充てることができます。借りたお金は、本人の死亡後に自宅の売却などで返済する仕組みです。自宅を手放すことなく資金を得られるため、高齢者にとって有力な選択肢です。

・投資信託や株式運用:中長期的に資産を増やすことを目的に、家族の資産を投資信託や株式で運用することも可能です。適切なリスク管理を行いながら、少しずつ資産を増やすことで、将来の介護費用に備えられます。

さらに、家族が定期的に面会に行くことも、高齢者の心の支えとなります。老人ホームに入居しても、家族とのつながりを感じられることで安心感が生まれ、心のケアにつながります。

最後に、老人ホームがすべての問題を解決する場ではないことを家族が理解し、適切な選択とサポートを行うことが、高齢者にとっても安心な生活を提供するための鍵となります。

波多 勇気
波多FP事務所
代表ファイナンシャルプランナー