「こんなことになるなんて」
「3年前にJR大阪駅で、ゆってぃからナンパされてセックスしました。その際に、これまでのセックスの回数など性的なことを聞かれ、セックス中の音声を無断で録音されて、私の同意なくYouTubeで配信されました。
1人で戦おうとしましたが、セックス中の録音を握られているので、リベンジポルノされたらと思うと怖くて不安でたまらなくて……」
そう被害を報告するのは、9月にネット上で自分の性的な音声が流出していることに気づいたAさんだ。流出に気づいたきっかけは、X上でユーチューバーの「低身長ナンパ師ゆってぃ」氏による、執拗なつきまといや不快な言葉での声掛けといった、悪質なナンパ行為を繰り返す動画が拡散されていたことだった。
「知っている顔だと思って、ゆってぃのYouTubeチャンネルを見にいって気づいたんです。まさか自分が録音されていたなんて、まったくわかりませんでした」
その後、ゆってぃ氏の動画が炎上したことで通報者が増えたとみられ、同氏のチャンネルのアカウントは停止、動画は削除された。
Aさんの不安は消えない。
「一度ネットに出回ってしまったから、誰かが保存しているかもしれないし、ゆってぃがまた動画をあげるかもしれない。当時、精神的に安定していなくて、正常な判断ができず、よく知らない人とセックスしてしまった自分に非があることもわかっているけど、こんなことになるとは思いもしなかった」
ナンパマニュアルを販売
迷惑行為をすることで視聴再生数や登録者の増加を狙う「迷惑系ユーチューバー」が増加している中、ゆってぃ氏のような悪質なナンパ師による動画投稿もネット上でたびたび物議を醸している。
こうしたナンパ師は自らの成功体験をマニュアル化し、「ナンパ師育成の商材」としてネットで販売しているケースが多い。マニュアルの購入者などに、ナンパした女性の個人情報を共有することもある。
Aさんはこう語る。
「ゆってぃはYouTubeのほかにも、note(コンテンツ投稿サイト)でナンパのマニュアルを販売しています。購入者特典として、ナンパしてからホテルでの性行為までを録音した音声をプレゼントするようなこともしています。私の音声も、不特定多数の人に共有されているのかと思うと、とても怖いです」
性的な音声流出の違法性は
現行のリベンジポルノ(嫌がらせのため、元交際相手の性的画像などを流出させる行為)防止法では、本人の同意なく性的な写真をSNSに投稿したり、不特定多数の人の目に触れる場所に公表したりする行為を禁止している。違反した場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性がある。
今回のゆってぃ氏のケースは画像ではなく、音声のみになるが、法的に罰することはできるのか。性犯罪問題に詳しい上谷さくら弁護士は、「音声だけでは、リベンジポルノ防止法は適用されない」としつつも、「人物が特定できる音声であれば、名誉毀損や侮辱罪で訴えることができる可能性がある」と指摘する。
また、リベンジポルノの被害に遭わないための心構えについて、こう助言する。
「画像や音声は一度ネットに出てしまえば、すべて削除することは難しく、警察で対応しきれないことも多い。そのため、基本的には『撮らない』『撮らせない』『送らない』で、自己防衛することが重要。最近は、本人の意に反して拡散された性的画像を削除する活動をしている『ぱっぷす』といったNPO法人に相談することもできるので、被害に遭ったとしても、一人で抱え込まないでほしい」
“韓国遠征”で大炎上
こうした日本の悪質なナンパ師は、国内にとどまらず、海外にまで飛び火している。
250人以上が所属しているとされるナンパ師グループ「スタナン一家」は9月、“韓国遠征”と題して、韓国でナンパ行為をしたことをSNS上で報告した。
グループの「副代表」を名乗る人物は、「これガチなんやけど今月、#スタナン一家。女攻略のために、、『韓国遠征』行ってきます。しかも今回参加者、“38”人www」と投稿。現地女性の性的な画像や音声を無断で投稿していた疑惑が浮上し、X上で大炎上した。
その後、グループの代表と副代表は、謝罪動画を配信し、「無期限で活動を自粛する」と報告。事態の沈静を図ったものの、韓国の主要日刊紙「韓国日報」などの現地メディアが騒動を相次いで詳細に報道するなど、国内外で批判が強まっている。
スタナン一家は普段、日本でどのような活動を行っているのか。内情を知る人物が語る。
「コミュニティには30万円の入会金が必要で、ナンパについての講習や自己啓発セミナーに参加したり、日々のナンパ活動をグループチャットで報告しあったりしています。多くのメンバーは20〜30代の一般的な会社員のようです。彼らは主に出会い系アプリを通じて、女性たちを物色しています。グループ内では、出会った女性の性的な画像や、個人情報が無断で共有されています」
さらには、女性を欺くための手段にも余念がないという。
「女性を信用させて、だますためのノウハウを共有していて、元ホストなどが講師をしています。既婚なのに独身と言ったり、勤務先などの情報を偽ったりしているケースもあるようです。女性を妊娠させたまま音信不通になって逃げたり、多額の金を貢がせたり、ひどいやつばかりです。謝罪も形だけでしょう」
巧妙化する手口
なぜ女性らは、こうしたナンパ師にだまされてしまうのか。スタナン一家のメンバーと交際していたBさんが語る。
「コミュニティでは、出会い系アプリに載せる自己紹介の書き方から、写真の撮り方まで、“女性受け"するプロフィールの作成を支援しています。私の元交際相手もプロフィールを見ると、とても誠実そうに見えました。出会ってからも、『女性軽視するような男は許せない』と話していて、大切にしてくれるように見えたんです。だけど、それは本心ではなく、女性を信用させるためにそう言うように教わっていたことだったとわかりました」
スタナン一家の代表が配布している『浮気と不倫の教科書〜バレない為の厳選ノウハウ15選〜』には、「完全犯罪を行うつもりで、一切の証拠を残さない事」などの注意書きもされ、言葉巧みに女性をだます方法が記載されている。
上谷さくら弁護士は、こうしたナンパ師が出しているマニュアルが、近年、巧妙化していることに懸念を示す。
「ナンパの攻略本というのは昔から出ていますが、現在はいろいろな点で巧妙になっている。そういったコミュニティ内で、法律に抵触せずに女性をだます方法を研究していると思われる。ナンパ師にひどい目に遭った女の子たちは、どうしていいかわからず、泣き寝入りするケースも多いのではないだろうか」
「裁判で徹底的に争う予定です」
スタナン一家のメンバーと交際し、妊娠させられた後、音信不通になってしまったCさんは、男性への思いをこう語る。
「交際後に彼がスタナン一家の一員であることを知りました。グループ内では、私の画像や個人情報を勝手に共有していたこともわかりました。彼を追及すると、『これから一生かけて償っていくから別れたくない』と泣かれたため、関係の再構築を試みました。ところが、妊娠が発覚し、結婚を見据えて一緒に住もうと話していた矢先、彼から突然『別れよう』と言われ、音信不通になり、大きな精神的苦痛を受けています。慰謝料をもらうため裁判で徹底的に争う予定です」
さらに、こう続ける。
「ナンパが成功して一時の承認欲求を満たせたとしても、女性を傷つけるような悪いことを続けていれば、結局自分にすべて返ってくる。男性たちには、そんなコミュニティにいても、有益になることなんて何もないと早く気付いてほしいです」
今回、ゆってぃ氏およびスタナン一家の代表者に取材を申し込んだものの、双方とも返答はこなかった。
執拗なつきまといや不快な言葉による声掛け、リベンジポルノ、女性軽視思想を加速させるコミュニティ――。悪質なナンパ師が引き起こす問題は、すでに複数の被害者の心に大きな傷を残している。「男女関係のもつれ」の域を超えた、深刻な性加害につながりかねない行為として、「悪質ナンパ師問題」を厳しく注視していく必要がある。