大変な話題だった『虎に翼』(NHK総合)放送後のロスで、橋本環奈主演の新作朝ドラ『おむすび』を平常心で見ていられない気持ちはよくわかる。

 でもだからといって、頭ごなしに批判をあびせるのはどうかと思う。仮に橋本環奈に対する思い入れがない視聴者でさえ、『おむすび』は案外面白く見られてしまうからだ。それに本作にはとっておきの“安心材料”的な俳優がいる。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、北村有起哉推しで見たら、本作がめっぽう面白くなる理由を解説する。

◆批判的なコメントが散見されたが

『おむすび』第1週が放送されるや、SNS上ではかなり辛辣というか、頭ごなしに批判的なコメントが散見された。「評価下すの早すぎるけど」と前置きがされつつ、さっそく「#おむすび反省会」のハッシュタグが盛り上がりを見せるなど、これは前作の朝ドラ『虎に翼』への反動なのだろうか。

 確かに『虎に翼』は、近年の朝ドラとしては桁外れに素晴らしい作品だった。同作のあととなると、これは相当やりづらいだろうなと単純に予想していたが、『虎に翼』だって別に非の打ち所がない、完璧な作品だったわけではない。

 序盤から中盤は戦前、戦中、戦後を描く映像の処理が的確で申し分なかった。でも後半は戦後の社会問題をテーマとして単に言葉で説明しているようにしか見えなかった。だから筆者のように後半にノレなかった組は、最終的に『虎に翼』に特別な思い入れも込めず(故にロスにもならずに)、ひとまず次作である『おむすび』をフラットな気持ちで見ることができた。

◆橋本環奈の初主演映画を思い出す

 しかも第1回を見ると、これが案外悪くないのだ。時代設定は『虎に翼』からだいぶ下って2004年。平成真っ只中。高校生になった主人公・米田結(橋本環奈)が、初登校の準備をする様子から始まる。

 熱心に鏡を見つめ、胸のリボンが曲がっていないか、スカートの丈もこれくらいの長さかなと、丹念に調整する。初登校とはいえ、どうしてこんなに制服姿の橋本環奈に対して時間を割くのかと不思議に思うと、そういえば、橋本の初主演映画は『セーラー服と機関銃-卒業-』(2016年)だった。

 あの鮮烈な初主演が記憶させているのは、ヤクザの跡目を継いだ主人公が、堅気の女子高校生に戻るという、可憐な制服姿の力強い物語だった。それを思い出すと、SNS上での「ハシカン(橋本環奈)の無駄づかい」という批判コメントも見当違いだなと思えてくる。

◆『おむすび』第一声は誰か

 とはいえ、筆者は特別、橋本環奈に思い入れがあるわけでもない。『おむすび』に対して意外と悪くない始まり方だぞと感じながら、『虎に翼』ロスを引きずることなく、それなりに楽しめてしまうほんとうの理由は、実は北村有起哉にこそある。

 本作の初登場は、制服を調整する橋本環奈だが、第一声は誰か。北村有起哉である。結の父親・米田聖人役を演じる。結はどれだけ準備に時間をかけているのかと、朝食の席で「結、遅くないか」と第一声。

 北村有起哉と朝食。本作最大の安心材料であり、これだけでもう見ていられる。何だかいつも機嫌が悪そうな仏頂面。ぶつぶつ小言を言いながら、ご飯はちゃんと食べる。あまり健康的ではなさそうなのに、俄然生命力を感じさせる表情。北村有起哉とは、不思議な魅力の人である。

◆食べる系ドラマ作品にしか見えない

『ヤクザと家族』(2021年)での硬派なやくざ役から、いかにもふてぶてしいキャラクターのドラマプロデューサーを演じた『書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜』(テレビ朝日、2021年)まで、役柄の幅が地味に広い。食べることでいうなら、向井理と共演した『先生のおとりよせ』(テレビ東京、2022年)の中田くるみ役は最高のはまり役だった。