[画像] 「要介護の親が住むゴミ屋敷」4時間で迎えた結末


2階には2部屋の和室があるが、モノであふれており、足の踏み場がない(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

一人暮らしの親が要介護者になった。しかし、仕事の都合で子どもはどうしても実家に戻ることができない。気付けば実家はゴミとモノであふれかえっている。いったい、どうすればいいのだろうか。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

要介護者がいるゴミ屋敷は最終的にどのような結末を迎えるのか。ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長に聞いた。

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80代の要介護者が住む、ゴミであふれかえった一軒家

関西地方の郊外に建つ一軒家。ここには80代になる女性が一人で暮らしていたが、介護が必要な身体になり、部屋を片付けられなくなってしまった。

もともとモノが多い家だった。本人や親族が時間をかけて不要品を選別していったが、家の中はモノだらけだ。

1階にある和室とキッチンスペースを見ると、ここに住んでいた女性の性格がよくわかる。とにかくこまごまとした雑貨が多く、それらが無造作に詰め込まれたカゴがいくつもある。空いているスペースがあるとそこにモノを置いてしまい、その上にまたモノを積み上げていってしまう。


1階和室の玄関につながるスペースには、雑貨類が積み上がる(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


現在は一人暮らしだが、キッチンにも大量の食品や調味料があった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

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キッチンには中身が入ったままの調味料類が大量にある。手に取ってみると、封が開いていなかったり、中途半端に中身が減っていたりする。

モノが多い人によくある傾向だが、家に何が揃っているか把握できていないまま、次々に買い物をしてしまうのだ。同じ用途の調味料が家にあるのに買ってしまい、そのうち消費期限が切れる。捨てることができずにどんどんたまっていき、何が家にあるのかさらにわからなくなってしまう。

2階に2つある和室は足の踏み場がなかった。介護が必要な身体になってから、階段を上がることがめっきりなくなったのだろう。大きなタンスがひとつあるだけで高齢者の家にありがちな「無駄にサイズの大きい婚礼家具」といった類いは少なかったものの、布団、クッション、服、モノを詰め込んだダンボールに袋などが床いっぱいに並べられていて、物置部屋になってしまっていた。


大きい家具類はないものの、何年にもわたり積み上がったモノたちでいっぱいだ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


押し入れには必要以上の枚数の布団が収納されていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

誰かに相談する気力さえ失っていた

イーブイに片付けの依頼をしたのは、この家に住んでいる80代の女性本人ではなく、女性の娘の友人である明子さん(仮名・50代女性)だった。明子さんが片付けの経緯を話す。

「(80代の女性は)病気で今入院されていて、もう一人では生活できないということでそのまま介護施設に入らないといけなくなったようです。この家は引き払うことになるんですが、私の友人である娘さんも“何をどうしていいのかわからない”と困っていたので、私からイーブイさんに連絡しました」

娘から相談されたわけではなく、明子さんが自分で行動を起こしたのだという。それは、自身も過去に親の介護で苦労をした経験があったからだ。明子さんが続ける。

「私自身、過去に母親が要介護になり、住んでいた賃貸の家を引き払った経験があるんです。実家の問題に介護が絡んでくると、役所の手続き、お金のこと、家の片付けなど、やらなきゃいけないことや考えなきゃいけないことが山盛りで、頭も心も体も本当に疲れてしまうんです。それがどれだけ大変なことかわかっていたので、困っている人がいたら力になりたいと思っていました」

娘はかなり精神的に疲弊している様子だった。まだ50代なので健康体だが、気持ちの問題で体が思うように動かない。誰かに相談する気力も失っていたが、友人が困っている自分を見つけてくれたので助かった。


1階の片付けから着手。生活していた和室は生ゴミはないものの、多くのストック類や雑貨が所狭しと並ぶ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


キッチンで気をつけたいのは、中身の入った調味料類。液体などが飛び散らないように段ボールに詰めていく(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

親への愛情があっても介護はしんどい

現場に入ったスタッフは全部で6人。4人が仕分けに回り、残りの2人でゴミを外に停めてあるトラックまで運ぶ。午前中は1階部分の片付けに専念していく。

要介護者が住む家には2つの種類がある。介護をする親族が同居しているパターンと、要介護者が一人で住んでいてヘルパーが出入りしているパターンだ。仮にゴミ屋敷化してしまった場合、それぞれどんな問題が出てくるのか。二見氏に聞いた。

まずは、介護をする親族が同居しているパターンから。

「この場合、家の中にあふれているゴミは介護をしている親族のモノであることが多いんです。というのも、親族は要介護者の世話でいっぱいいっぱいになっているので、介護ベッドの周りは片付いている一方で自分のことがおろそかになってしまっているからです」

二見氏の祖母が介護施設に入所する際、母親が言っていたことが今でも忘れられないという。

「私、何のために貯金してたんだろう。自分の老後のために貯金してたのに、お金ばっか飛んでいって」


1階が片付いた後、2階の和室に取り掛かる(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


不要なモノを手際よく袋に詰めていくスタッフたち(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

決して薄情なわけではなく、親への愛情は間違いなくあった。ただ、それを上回るしんどさが介護にはあるのだと、二見氏も再認識したという。

ゴキブリが老人の体を這い、糞尿にまみれた部屋

次は、要介護者が一人で住んでいてヘルパーが出入りしているパターン。ヘルパーが週に何度も訪問しているのであれば、部屋も散らかることはないと思ってしまいそうだ。ただ、そううまくはいかない。

「私たちもこの仕事を始めたばかりのときは、ヘルパーさんが出入りしているのにゴミ屋敷化している家を見て、 “なんで片付けてあげないんだろう?”と疑問に思っていました。でも、ヘルパーさんは家政婦ではないので、勝手にゴミを捨てたりモノを片付けたりすることはできないんですよ」(二見氏)

要介護者に「片付けてほしい」と頼まれたとしても、応じられないという問題がある。そもそもサービス外の作業であるし、よって部屋を片付けるための時間は確保していない。次の家に訪問する時間も迫っているので、スケジュール的にどうしても無理なのだ。

生ゴミが散乱しているなど業務に支障をきたす場合は、現場のヘルパーがケアマネジャーに報告し、ケアマネジャーからイーブイに依頼の連絡が来る。ただ、それも介護支援事業所の個々が判断することだ。


ベランダにも不用品がたくさんあった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


玄関を塞いでいたゴミ袋をどけ、置物類を片付ける(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

二見氏が以前、一人暮らしの高齢女性から片付けの依頼を受けて大阪市内にある団地の一室へ見積もりに行った際、こんなことがあった。

「チャイムを鳴らしても誰も出てこないので扉を開けたんです。そうしたら、玄関におばあちゃんが横たわっていて、“暑くてしんどい”って言うんです。家の中は生ゴミだらけで、おばあちゃんの体には何匹もゴキブリが這っていました。人工肛門で生活されている方で、家の中は糞尿だらけでした。ヘルパーさんも出入りしていたみたいですが、状況は改善されず、耐えきれなくなって自分で連絡してくれたんです」

これには別の問題もある。介護報酬目当てで契約先を増やし、一件あたりのサービスの質を著しく落とすことで利益を出しているような業者も中にはある。


すっかりきれいになった1階和室(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


キッチンやその隣にある洗面やトイレも見違えるようにきれいになった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

ゴミ屋敷清掃は、終わりではなく「始まり」

昼休憩を挟み、午後は1階に残った冷蔵庫などの家電を搬出し、2階の作業に取りかかる。困っているから片付けを依頼したのに、家の中が空になってくるとなぜか寂しさが込み上げてくる。作業時間が4時間に近づいてきた頃、依頼者の明子さんが話し始めた。


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「ゴミ屋敷清掃の動画を見ていると、誰かのお母さんでも、どこかで働いている会社のお偉いさんでも、その人生がいったん別の形になるから、“お疲れさまでした”っていう気持ちになります。次の段階に進まれるわけですから。知らない方でもそういう気持ちになる。

今回はひとりでバイクに乗ってお買い物に行っていた頃から知っている方(この家に住んでいた80代の女性のこと)なので、寂しいですね。

逆に忙しくて部屋が汚くなってしまって、もう一回人生やり直すために引っ越しする方には、“頑張ったね”って気持ちになるんです。だって、新しいスタートじゃないですか。今までは悩んだり下向いたりしていたけど、イーブイさんに来てもらってみなさん声が明るくなったり、力が入ったりしているじゃないですか。門出ですよね」

部屋に住んでいた人の歴史が徐々になくなっていく。しかし、その後には新しい生活が待っている。ゴミ屋敷の清掃は、終わりではなく、始まりである。


2階の和室もすっきり片付いた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)


元の姿を取り戻した2階和室(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)

【写真】「どうやって生活していたのか…」足の踏み場もない実家が4時間で片付いた!【ビフォーアフターを見る】(43枚)

(國友 公司 : ルポライター)