[画像] 連続強盗「狙われた4つのエリア」に"闇名簿"の存在


あえて在宅時を狙い、住人に危害を加えることも厭わない暴力性が最近の連続強盗の特徴だ(撮影:今井康一)

東京と埼玉で相次ぐ強盗事件に、不安を抱いた人も多いのではないだろうか。

住人の在宅中に自宅に押し入り、危害を加えたうえで金品を奪う手口だが、さいたま市、所沢市、練馬区、国分寺市と、比較的狭いエリアで同じような事件が起きている。これにより同じ犯罪グループによって行われたとの見方もある。

犯人の一部は逮捕されているものの、残りは逃走中であることから、同じような事件がまた起きる可能性も否定できない。一連の事件を振り返りつつ、一般家庭でできる対策について考えてみたい。

4つの事件を結ぶ「四角いエリア」が狙われた理由

最初の事件は9月18日に埼玉県さいたま市西区で発生した。男が住宅に押し入り、60代と80代の母娘2人に怪我をさせたうえ、現金およそ10万円などを奪った。

一部報道によると、逮捕された34歳の会社員だという男は、身分証のコピーを送付して闇バイトに応募しており、犯行の直前に指示内容が変更されたという。そして、募集時の内容より過激な犯行を実行させられた、と供述している。

9月28日には東京都練馬区で、 50代と20代の父息子が複数の男たちに襲われて金品を奪われる事件が発生。2日後の30日には、東京都国分寺市で一人暮らしの60代女性がハンマーで殴られる事件が起きた。

さらに、今月1日には、埼玉県所沢市の住宅で高齢の夫婦が被害に遭い、3人が逮捕された。容疑者たちは住宅に押し入って男性の腕を刃物で切り付け、現金約8万円を奪ったとされている。

約20km四方のエリア内で、2週間に4件も、住宅を狙った同じような強盗事件が起きていることになる。この4つの事件を結ぶ四角いエリアは、なぜ狙われたのか。

事件の特徴を探してみると、「高齢者」「自宅に現金があった」「一軒家を標的にした」といった点が見つかる。事件の起きたエリアは、実際に歩いてみるとわかるのだが、駅前の限られた場所を除けば、一軒家が多く、比較的高齢の人が多い。

一軒家に対し、空き巣ではなく、あえて在宅時間帯を狙ったのは、住民を脅してタンス預金を手間なく入手できるからであろう。

マンションと違って戸建ては上下左右に他の住民がいないことから犯行に及びやすく、戸建てを狙ったことも計画の一部だったと考えてよさそうだ。下見したうえで、こうした計画を立てやすい地域が狙われたと言える。

個人情報を握られてしまう「闇バイト」

さて、一連の強盗事件は、先述の逮捕された男の供述からも、いずれも実行犯が何者かからスマートフォンで指示を受けて犯行に及んだ「闇バイト」の可能性が高い。また、標的を選ぶ際には「闇名簿」が使用されているとみられる。

「闇バイト」は、SNSなどで「高額バイト」などをうたって実行犯を集め、強盗などの犯罪を実行させる、ネット社会の「闇」である。

闇バイトの存在が知られ出した当初は、募集で「タタキ(強盗の隠語)」などの直接的な表現が使われていて、重犯罪に加担してでもお金が欲しいという人が集まっていた。

しかし、世間の注目を浴びるに従い、言い表し方も変遷していて、「人やモノを運ぶだけ」「ホワイト案件」などの当たり障りのない言葉を選ぶなど、悪質化している。

闇バイトにはいくつかの特徴がある。

まず、連絡手段として、アメリカのシグナルやロシアのテレグラムなど、秘匿性の高いメッセージングアプリが指定されることだ。

そして、連絡の中で運転免許証などの個人情報を渡すように要求されることが多い。ここで、不自然さと危険性を感じてほしい。提供した自分の個人情報を、誰がどのように管理するのか、確認しているだろうか。

次の特徴として、具体的な仕事内容が書かれておらず、報酬が異常に高額な点が挙げられる。

仕事内容が「人やモノを運ぶだけ」なのに報酬が高額な点は、「おかしさを認識すべきポイントだった」と逮捕された犯人のひとりが供述している。

仕事内容や会社の詳細を言わずに、わざわざ「ホワイト案件」などとうたって、やましさや正体を隠そうとしている。具体的な情報の乏しい募集に応募しないことが大切なのは言うまでもないが、もし応募してしまっても、犯罪行為だとわかったら可能な限り早くグループから離れて警察に逃げ込むことだ。

指示内容が犯罪行為だと気づいたら、たとえ個人情報を渡してしまっていても、自分が犯罪者にならないように行動しなければ、一生を棒に振ることになる。

「闇名簿」に情報を載せないためには

一方、潜在的な「ターゲット・リスト」である闇名簿には、どのように対処するといいのだろうか。

闇名簿の存在は、厄介である。犯行グループは闇サイトで売買されている闇名簿を手に入れ、訪問販売やアンケート調査を装った情報収集で名簿を更新していく。

筆者はある番組の取材に立ち会って本物の闇名簿を見たが、自宅住所や電話番号はもちろん「電話に応じる」「最近配偶者が死亡」「自宅内事務所に金庫有り」など、質問に応じたり自宅に立ち入ったりしなければわからないような情報が記載されていた。

つまり、怪しい連絡や訪問に応じてしまうと、闇名簿で「狙いやすい標的」として更新されてしまう。

対処のポイントは、ここで「更新させない」ようにふるまうことだ。

ハッキングされて個人情報が盗まれたり、悪意のある個人や企業が個人情報を漏洩したりすることは、一個人には止められないものの、訪問販売やアンケートには迂闊に対応しないことで、情報を更新させない努力はできる。

筆者が見た闇名簿には「携帯電話をすぐ切る」「アンケート回答に応じず」といった記載もあった。

次に、犯行の「予兆」を捉えて対応することだ。犯行グループは、必ず下見や不審な連絡をして、標的を定め、犯行計画を立てる。

本文冒頭に述べた地理的な範囲は、犯行グループにとって、こうした「下見」をし、犯行計画を立てやすい場所だっただろうと筆者は考えている。彼らは、住人の構成や内部を調査しやすい方法で「下見」する。

たとえば、作業員を装い、「台風シーズンになりますので屋根の点検をしましょうか」と訪問する、といった方法だ。余談だが、10年以上前には、こうした手法は詐欺に使われており、今ではより暴力的な犯罪に転用されるようになったのだろう。

“急がない110番”「#9110」の活用方法

重要なのは、自分が呼んでいない業者には対応しないというルールを決め、徹底することだ。自宅に他人を入れなくてはならない問題が起こったら、まずは信頼できる人に相談をしよう。障子の修理などでも、見る人が見れば、家族構成や経済状況はすぐわかってしまう。

住宅に、地域と関係がないナンバーの車が訪問してきたり、長く止まっていたりしたら、「#9110」か管轄警察署に情報を入れるようにしてほしい。

“急がない110番”と言われる警察相談専用電話の「#9110」は、まだ事件になっていなくとも、生活の安全に関する不安や悩みを相談できる。緊急用の110番回線を塞いでしまうことなく、不審情報を警察に集積することができる。

ただし、本当に緊急である場合や訪問者がしつこい場合は110番通報をすべきだ。

「環境防犯」という言い方もあるが、周囲より「一段高い」防犯を目指すのも重要である。予算の許す範囲で、環境に合った何らかの対策を取ってほしい。

たとえば、窓ガラスを強化ガラスに換えたり、玄関ドアや窓ガラスを二重ロックにしたりするなど。扉や窓の不自然な振動を知らせるサービスを導入するという手もある。

犯行グループによる下見の段階で「狙いやすい」と認識されないよう、周辺の住宅以上の警備措置を整えるのだ。

家の中に「逃げ込める場所」を

「最後の砦」の用意も考慮しよう。

何者かが侵入してきた場合に備え、「逃げ込める場所(「パニック・ルーム」「セーフ・ヘブン」などという)」を決めて、整備しておくのだ。

筆者は外務省などの研修で、特に危険な国や地域に赴任する者には、こうした「逃げ込める場所」を設定するよう勧めてきた。

具体的には、たとえば寝室を「逃げ込める場所」とした場合、扉を頑丈な素材にし、二重ロックにする。サイレン機能付きのメガホンを用意する。警察が駆け付けるまで、襲われても耐えられるようにしておくのである。あわせて、在宅中も極力携帯電話を持ち歩く、携帯電話の充電はなるべく「逃げ込める場所」で行うなども重要だ。

昨今の「闇バイト」による強盗の手口を考えると、日本でもこうした、「危険地域」並みの措置が必要になってきている。従来の「空き巣」中心の家屋の防犯から、意識を切り替えるようにしてほしい。

(松丸 俊彦 : セキュリティコンサルタント)