子役として、『あっぱれさんま大先生』のかなちゃんとしても、人気を集めた中武佳奈子さんですが、次第に仕事が減っていくなかでショックな出来事に直面し、芸能界を引退します。大きな決断をした彼女の胸の内は?(全5回中の1回目)

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人気に陰りが出てきたタイミングで…

42歳になった中武佳奈子さんの現在

── 『あっぱれさんま大先生』の第一期生として、「かなちゃん」の愛称で親しまれていました。

中武さん:4歳のときに姉の勧めで子役の事務所に入り、6歳で『あっぱれさんま大先生』のオーディションを受けました。もともとおとなしくて挨拶ができないくらい内弁慶だったんです。ただ、オーディションの基準が素人っぽい子で、「まったく何もできない子を採用した」と、後に聞かされました。『あっぱれさんま大先生』のオーディションには、タレントとしてのちに有名になられた方もたくさんいらしたとか。番組には8年間、出演させていただいたので、私にとっては学校のようなものでした。みんな子どもだったので、よく楽屋でケンカしていました(笑)。

── ドラマやCMなどにも引っ張りダコでしたね。

中武さん:忙しくて、小・中学校は、ほとんど学校に行けませんでした。友だちと遊んだ記憶もあまりないです。運動会は毎回不参加で、修学旅行にも行っていません。いま12歳になる子どもがいるのですが、林間学校やお別れ遠足など、意外と学校っていろいろ行事があるんだなと知りました。私が子役だったころは、「生放送は20時まで」といった労働時間のルールはあったものの、通常の収録ではとくに制約がなかったみたいで、ドラマや映画の撮影では、日をまたいで仕事をしていた記憶がありますね。

── 18歳のときには、写真集と歌手デビューも果たし、20代前半で『世界ウルルン滞在記』でも活躍されました。順風満帆な芸能活動から一転、28歳で突如、引退に至ったのは、なぜだったのでしょうか。

中武さん:子役時代は、ただ事務所に与えられた仕事をやっていたのですが、だんだん自我が芽生え、やりたい仕事をつかみに行くという気持ちが強くなっていったんです。子役時代のイメージのまま売りたい事務所と、自分の目指す方向性が違ってきて、悩み始めていました。徐々に仕事が減っていき、事務所を変えたりするなかで「脱ぐ仕事」、つまりセクシービデオへの出演話なども出てきて。ショックでした。そうした仕事の方たちを否定するつもりはありませんし、れっきとした職業だと思っていますが、自分が望んでいないのに脱ぐのは違うと、怒りがわいてしまって。

当時の私はレギュラー番組も終わって、仕事は下降傾向。事務所としては話題性があるうちに、商品としてなんとかしたいと思ったのでしょうね。「1本でいいから!絶対売れるから!」と、強く言われました。

ショックで引退「すぐに結婚もしたんですが…」

── きっと、「『あっぱれさんま大先生』のかなちゃんが…」みたいなタイトルで売ろうというもくろみがあったのでしょうね…。

中武さん:まさしくそうでした。ちょうど事務所がゴタゴタしている時期で、急にマネージャーと連絡が取れなくなって番組の収録を飛ばすトラブルも発生。さすがに「もうムリだな」と思って芸能界をやめました。

── 芸能界の引退を決断するほどだったんですね。

中武さん:「私はもうタレントして価値がないと判断されたんだ、落ちぶれたんだ」と思って、そんな自分を情けないと感じて、ほとほと嫌になってしまったんですね。そこから心機一転、頑張ればよかったのかもしれませんが、芸歴が長くてプライドも高かったので、自分の置かれた状況を認められませんでした。

── 「自分にガッカリしてしまった」という感じだったのでしょうか。

中武さん:そうでしたね。芸能界でのことは消し去って、これまでの人生をリセットしたい気持ちで、逃げるように引退し、その後、結婚したんです。相手は芸能界を辞めて友人の店を手伝っていたときに出会った男性でした。いまは離婚したので、元夫になりますが、10歳くらい年下で世代が少しずれていたので、私が『あっぱれ』などテレビに出ていたことも知らない人でした。だから、リセットするにはちょうどよかったんです。

芸能界を引退した後悔「逃げる人生はその後もつらい」

── 引退の裏には、そんな事情があったのですね。佳奈子さんは、タレントとして、どんなふうになりたかったのですか?

中武さん:後にイモトアヤコさんがバラエティ番組で世界を旅するコーナーを観て、「自分がなりたかったのは、こういうポジションだったんだな」と感じました。出演したことがある『ウルルン』で秘境ロケに行くことが多く、自分に向いていると思っていたんです。皆さんを笑顔にできるようなタレントになりたかったのですが、結局、逃げてしまった。プライドを捨てて、踏ん張ればよかったんですよね。

── でも、そんな話を持ちかけられたら、逃げたくなる気持ちもわかります…。

中武さん:でも、やっぱり「逃げたらダメなんだな」と痛感しました。逃げた時点で、過去を捨てたということ。自分のなかで、なかったことにしてしまっているので、振り返って反省したり、その後、行動を正すようなこともせず、後ろ暗い気持ちをずっと引きずって生きることになってしまう。結局、ムリに過去を封じ込めても、なにかの拍子に、そのフタは簡単に開いちゃうんですよね。忘れようとすればするほど、とらわれてしまう。だからもう過去から逃げるのは、やめたんです。自分の人生とちゃんと向き合うことで、ようやく自分のことが認められるようになって、生きるのがラクになりました。

PROFILE 中武佳奈子さん

なかたけ・かなこ。1982年、大分県生まれ。1988年から放送された人気番組『あっぱれさんま大先生』の出演メンバーの第一期生としてブレイク。その後も、ドラマやバラエティー番組、CMなどで活躍。28歳で芸能界を引退。現在は、YouTubeチャンネルで活動中。

取材・文/西尾英子 画像提供/中武佳奈子