お金、好奇心、承認欲求……セクシー女優になる「理由」に比べ、セクシー女優を辞めた「その後」は、あまり大きく語られることはない。
 引退後も知名度を武器にインフルエンサーやタレントとして活躍する者もいるが、それはあくまでもレアケース。セクシー女優としての過去を「なかったもの」とする者も数多くいる。就職、結婚、子育てなど、その後の人生の選択肢を阻む“足枷”になるからだ。

 しかしセクシー女優を辞めても、人生は続く。ふたたび服を着たセクシー女優は、どんな人生を送っているのか。2020年、早稲田大学在学中にデビューして話題を呼んだ「渡辺まお」こと神野藍(25歳)に話を聞いた。(記事は全3回の1回目)

◆ネットで身バレして“現役早大生セクシー女優”として話題に

「今は正社員として働いています。知り合いのツテで就職した会社なんですけど、フルリモートの在宅勤務なのでわりと自由に働いていますね」
 
 六本木の街に夜の気配が漂い始める頃、神野藍は指定した待ち合わせ時間よりも早く到着していた。神野藍、セクシー女優時代の名前は渡辺まお。2022年に引退し、現在は正社員として働くかたわら文筆家としても活動をしている。

就活のときって、身元調査されるっていうじゃないですか。私の場合、本名で検索するとまっさきに『渡辺まお』の名前が出てくる状態だったので、普通に大手企業に就職するのは難しいなって思って就活は諦めました。そんなとき、知り合いに紹介してもらって、今の会社で運良く働けることになったんです」
 
 神野がセクシー女優としてデビューしたのは2020年5月、世間では新型コロナウイルスが猛威を振るい、「緊急事態宣言」が発出された頃だ。

「デビュー当初は『現役女子大生女優』としてデビューしたんですけど、すぐにネット上で身バレして、“現役早大生”としてメディアにも取り上げられるようになりました」

◆常に“見えない敵”と戦っているような状態

 神野は「もともと身バレはある程度は覚悟していました」と語る。業界には“パブ”という慣例があり、女優ごとに露出できるメディアが設定できるようになっている。すべてのメディアに露出できる女優は「パブ全開」などと呼ばれているが……。

「今ってどんなに『週刊誌の取材NG』とかパブの制限をしたところで 『どうせネットやSNSがあるし、バレるときはバレる』と周りの大人たちが言っていました。私としても“どうせやるんだったら全開でいこう”という思いもありましたね。

 でも『現役早大生』という肩書が話題になり、ネット上では毎日のように嫌なコメントが来るようになって。あの頃は『ここで負けたら向こうの思うツボ、ガマンしないと!』と自分に言い聞かせて、常に“見えない敵”と戦っているような状態でした。いま思うとだいぶ無理していたかな」

◆本当は誰かに助けてもらいたかった

 神野の心労に反して、デビュー作はおおいに売れた。

「セクシー女優って、デビュー作の売上が大事じゃないですか。1本目が売れたら、専属契約期間が延長することもあるし。私の場合も身バレしたことで結果的にデビュー作が売れて、商業的には良かったのかもしれない。メーカーの担当者も事務所のマネージャーも大喜びでしたね。

 そしてそんな彼らを前にして『売れたのは話題性があったから。私の力じゃない』とどこか冷静に考えながらも『使える武器はなんでも使おう』とも思っていましたね」

 とはいえ、セクシー女優にとって身バレは最大のリスクだ。プライベートを暴かれる恐怖、次々と書き込まれる理不尽な誹謗中傷……そんな精神的ストレスに苛まれながらも神野は、誰に相談することもなく“明るく”振る舞っていたという。