[画像] 他社が縮小するなか ウォルマート がメタバース事業に投資を続ける理由。売上に寄与する戦略はあるのか?

90年代のショッピングモールがデジタル化された世界を想像してみてほしい。幻想的な雰囲気が漂い、カートゥーンのアバターがいて、鮮やかな色彩が配されたなかには、近所のウォルマート(Walmart)で売っていそうなモノが並ぶ。それがウォルマートレルム(Walmart Realm)だ。世界最大の小売業者であるウォルマートが、5月22日にローンチしたこの新しいeコマースプラットフォームでは、不思議な架空の世界のようにデザインされたバーチャルバザーで、同社の実店舗で販売されている商品セレクションのデジタル版を見て買い物ができる。そこには水中の世界「So Jelly」、西部開拓時代とゴシック美学が融合した新天地「Y'allternative」、宇宙空間の真ん中にあるようなメタリックな環境の「Go Chromatic」といったスペースがある。現時点でのウォルマートレルムは、デスクトップか携帯電話でアクセスできるウェブサイトだ。買い物をするために、ユーザーはバーチャル店舗内のさまざまなモノをクリックして「カートに入れる」ボタンを押す、そしてWalmart.comに移動するチェックアウトリンクをクリックする。

ウォルマートが発表した「Walmart Realm」

仮想世界への投資を拡大するウォルマート

4000店舗以上の実店舗を構える巨大企業として知られるウォルマートは、ベビーブーム世代の白人女性が平均的な買い物客となっているが、近年はメタバースを通じて買い物客の注目を集め、収益を上げようとしている。メタバースはゲーミングやソーシャルメディア、eコマースが交差する未来のインターネットとでもいうべき場所だ。ほかの企業が人工知能(AI)などの話題のトレンドを重視してメタバース戦略から後退しているにもかかわらず、アーカンソー州ベントンビルに本社を置くウォルマートは仮想世界への投資を拡大している。その最新の兆候が、ウォルマートレルムのローンチである(とはいえ、ウォルマートもAIを無視しているわけではない)。「当社はまさに没入型コマースの将来の状態をテストし、学習する場にいる。それがコマースの未来になると信じているからだ」と、ウォルマートのブランドエクスペリエンスおよび戦略パートナーシップ担当ディレクターのジャスティン・ブレトン氏は語る。「それがウェブサイトやアプリに代わることはないだろうが、補完的なものとなるだろう」。

売上をより意識した取り組み

ウォルマートがメタバースに進出するのはこれが初めてではない。2022年、メタバースというコンセプトが米国の産業界を席巻していた頃、ウォルマートもまた、フォートナイト(Fortnite)やRoblox(ロブロックス)のような仮想世界にスペースを確保して若い顧客とつながろうとしていた多くの企業のひとつだった。たとえばウォルマートは、Roblox上でウォルマートランド(Walmart Land)とウォルマートユニバース(Walmart Universe)という2つの没入型体験を発表した。そこではユーザーがバーチャルアバターのために商品を購入することができた。それから2年を経た今も、ウォルマートはメタバースへの投資のペースを緩めてはいないようだ。ウォルマートは4月29日、Robloxのバーチャルプラットフォーム内で買い物客に物理的な商品を直接販売する計画を発表した。ウォルマートレルムは、Roblox内での同小売業者のデジタル体験であるウォルマートディスカバード(Walmart Discovered)とは異なり、バーチャルショッピング会社であるエンペリア(Emperia)上に構築された、ウェブアクセス可能な独立した自社プラットフォームとして存在する。エンペリアは、ロクシタン(L’occitane)やブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、ボス(Boss)といった小売業者やブランドのデジタルストアを構築してきた企業だ。メタバースが盛り上がっている割には、こうした仮想世界で実際に収益を上げる方法を見出した企業はほとんどない。デジタルコンサルタント会社CI&Tのリテール戦略担当ディレクター、メリッサ・ミンコウ氏にとって、ウォルマートレルムは、ここ数年で展開されたデジタル対応版をより完全に実現したeコマースのバージョンとなっている。「ウォルマートレルムは、メタバースの概念的価値と戦略的要素を活用しているが、結果的に生まれたものは最終的にはeコマースだ」とミンコウ氏は言う。「ウォルマートレルムが示しているのは、Robloxを通じて期待したほどの売上を促進することができなかったため、コンセプトをより受け入れやすく、また従来のeコマースに近いものにしたということだ」。

ターゲットはZ世代

パンデミックの後、従来の店舗での買い物体験を超えて消費者を惹きつける方法を小売業者が試行錯誤するなか、バーチャルストアの人気が急上昇した。だがJ.クルー(J.Crew)のバーチャルビーチハウスストアや、エリザベス・アーデン(Elizabeth Arden)の歴史的な5番街のサロンをモデルにしたデジタルショップのような先行企業のデジタルプロジェクトとは異なり、ウォルマートの取り組みは現実世界の風景にはあまり根ざしていない。またウォルマートは、このプラットフォームの商品セレクションにマイ・ファム氏、ナヴァ・ローズ氏、マケンジー&マリア・ファウラー氏といったインフルエンサーのチームを起用し、ソーシャルトレンドにインスパイアされたおよそ100点もの美容・ファッション・インテリア用品をキュレーションしている。明確なターゲットはZ世代だ。陳列された商品のほとんどは50ドル(約7870円)以下、もっとも安価な商品は3.88ドル(約610円)のフェイクパールのイヤリングである。だがこのプラットフォームは、気前よく金を使う人も除外してはいない。たとえばフェイクレザーのメタリックジャケットは106ドル(約1万6680円)である。ウォルマートレルムで一番高価な商品は、800ドル(約12万5890円)のタグが付いた白い布張りソファだ。ウォルマートレルムは、オンラインショッピングにビデオゲーム風のひねりを加えており、これもまたウォルマートがZ世代を念頭に置いてこのプラットフォームを設計したことを示唆している。たとえば「Go Chromatic」では、テトリスにインスパイアされたミニゲームで100ドル(約1万5700円)の懸賞が当たるチャンスがある。さらにウォルマートレルムのすべての空間を探索しながらウォルマートのシグネチャーである黄色い星のロゴの形をしたトークンを集めると、20%オフクーポンなどの特典を獲得できる。こうした発想は、店舗で買い物をするのと同じような方法でユーザーがプラットフォームに長居する動機付けとなる。

インフルエンサーチームを活用した集客

ウォルマートレルムが直面する潜在的な障害のひとつは、そもそもまず顧客に訪れてもらうことだ。そこで登場するのが、ウォルマートのインフルエンサーチームである。TikTokだけでもチーム合わせて1100万人を超えるソーシャルメディアのフォロワーを活用し、ファンにウォルマートレルムを試してもらい、できれば商品を買ってもらいたいとウォルマートは考えている。ウォルマートのブレトン氏によると、同社のインフルエンサーチームはローンチから数週間にわたってソーシャルメディアチャネルにレルム関連のコンテンツを投稿し、買い物客にまずはこのプラットフォームを試すことを勧めたり、初めて利用した際に見逃したかもしれないものを再度チェックするよう促したりするという。「たとえばナヴァ(ローズ氏)が『このミニゲームはもうやった?』と言えば、人はサイトに戻ってきてゲームをプレイし、もしかしたら賞品をゲットするかもしれないし、それでまた翌日に再びサイトを訪れるかもしれない」とブレトン氏は述べた。ブレトン氏は今後の展開について、ウォルマートレルムとRoblox内でのウォルマートのeコマースの推進は、同社のオンラインショッピング戦略の次の段階を表していると楽観的である。同氏は、ウォルマートの没入型eコマース体験が、フォートナイトやマインクラフト(Minecraft)のようなほかのプラットフォームへと拡大することも期待している。「リアルワールドコマースを採用するプラットフォームがさらに増えるにつれ、それをコミュニティに導入するパートナーとして当社が選ばれることを心待ちにしている」と、ブレトン氏は述べている。[原文:Walmart’s 3D e-commerce platform Realm is the retailer’s latest metaverse bet]Allison Smith(翻訳:Maya Kishida、編集:戸田美子)