[画像] 「すべてのステークホルダーがインターネット空間を健全な場にする責任を担っている」:自民党衆議院議員 デジタル社会推進本部事務総長 小林史明 氏

「デジタル広告に関わる人たちが、この産業を良い構造にしようという取り組みは、もはや民主主義を良いものにすることと直結している」と、自由民主党の小林史明衆議院議員はDIGIDAY[日本版]に語った。6月18日、政府はなりすましSNS広告詐欺などへの対策を含めた「国民を詐欺から守るための総合対策」を決定した。同対策にはSNS事業者に対する広告への事前審査の強化や詐欺広告の削除対応などに関する要請が盛り込まれている。対策決定の背景にあるのが、小林議員が自民党・同議案のワーキンググループの幹部としてとりまとめ、提出した提言だ。デジタル市場の再考を促す、DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「REFRAME―デジタルの再考―」。今回は小林史明議員にデジタル広告の課題に関する危機感、そして現状について政府の見方を聞いた。

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――被害額450億円に及ぶ詐欺広告被害は看過できない事態だ。今回の提言をまとめた過程はどのようなものだったのか?

今回のような広告産業における問題は民間同士の取引であるため、基本的には民間の市場原理のなかでビジネスが行われるべきだと考えている。政府の介入は本来無い方がいい。ただ、SNS上の詐欺広告被害をみれば、年間450億円を超える被害額が算出されており、急増していることも明らかだった。これは、日本に住む人が犯罪被害を受ているということであり、絶対に見過ごすことはできない。今回ワーキンググループとしては、とにかく「犯罪者を逃さない」「誰も被害に遭わせない」「被害を広げない」という3つを軸に提言をまとめた。 残念ながら「有名人なりすまし詐欺」や「ロマンス詐欺」が横行している状況を見ると、SNS広告の世界は現状健全だとはいえない。そう捉えると、やはり構造の健全化のためには政府の介入が必要だと考えた。 問題は詐欺広告などを出稿している犯罪者が捕まっていなかったということだ。法律違反ならば取り締まらなければならない。グレーゾーンであるならばグレーの部分が白なのか黒なのかを明確にする必要がある。また、犯罪を意図した広告をそのまま掲載しているSNS事業者にも課題があると考えた。詐欺広告の場合は、SNSにおける広告の事前審査(掲載前に広告枠を運営する事業者が行う審査)が適切に行われていないと考えられた。SNS事業者の大きな収益源のひとつに広告収益がある。つまり、消費者に情報を届ける目的で出稿した多くの民間事業者がSNS事業者の収益に貢献することで、結果的に、意図せず犯罪行為までをも支えてしまっていることにもなりかねない。

――SNSの広告審査プロセスはブラックボックス。政府の働きかけで何が変わるのか?

提言にあたり、世界的なSNS事業者とコミュニケーションを取ってきた。Meta(メタ)のサービスに詐欺広告が目立っていたがこのワーキンググループの働きかけにより大きく減少した。日本で事業展開をしているほかのSNS各社に話を聞くと、広告審査については日本の文化や習慣を理解する担当者を一定数配置して対応しているケースもあった。日本の文化や消費者動向を踏まえたうえで、きめ細かく広告の事前審査を行えば詐欺広告被害を事前に防ぐことができるということだ。 犯罪とつながる傾向にあるのは、クローズドチャットに誘引する広告だ。掲載前の審査で広告のリンク先をしっかりと確認して、リンク先がクローズドチャットであった場合は広告掲載不可にする対応をしているSNS事業者もある。こうしたことから、犯罪を事業者側で防ぐことは十分にできる。政府からの働きかけや対応の要請も必要だと考えている。

――実際に新たな規制による取り締まりは考えられるのか?

民間同士の広告取引に関する法に、2021年から施行されている経産省所管の「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」がある。これはデジタルプラットフォームの透明性、公正性の向上を図ろうというものだ。しかしながら、広告審査に関する規制は明記されていない。先にあげたメタの例で言えば、広告審査体制のなかに、日本の文化や風土を理解できる人、あるいはそれを最適化できるような人員が配置されておらず、日本の有名人を使った詐欺広告が跋扈(ばっこ)していると考えられる。このような状況から見て、広告審査に対する規制は大きな抑止力に繋がるだろう。また、広告審査の基準やプロセスは広告主や利用者に対し、公開されているべきだ。ポリシーに賛同したうえでサービスを使うのが本来あるべき姿だろう。透明性を高めることで、ユーザーがそのサービスを使うかどうかを選択できる。そこに嘘があれば法律上の罰則がある、という構造が望まれる。

――そうした規制はどのくらいで施行されるのか。目処は立っているのか?

追加の法改正が必要だ。これから法改正の議論を始めていかねばならない。とはいえ、SNSなどデジタルプラットフォームに対する対策が何もないというのは誤解だ。「情報流通プラットフォーム対処法」(以下、情プラ法)という法律が国会で今年5月に可決され、施行に向け動いている。これは、SNS等プラットフォーム事業者に対し、そのサービス上の誹謗中傷への削除申出対応や削除基準の策定・公表を義務付ける法律で、誹謗中傷への対応の迅速化と運用状況の透明化を求めるものである。 つまり、SNS事業者やサービス提供者への規制の土台はすでにできているということだ。情プラ法は、EUですでに施行されているDSA法(Digital Services Act、デジタルサービス法)を参考にしており、実行力を持たせるため、同法と比べてさらに厳しいルールとなっている。今年5月に公布されたばかりで施行は約1年後となるが、これを早めたい考えだ。場合によっては、施行時期より早期の対応を、該当する事業者に求める場合もあるだろう。

――SNSは自由な言論空間であるべきで、規制は不要という考えもあるようだ。

前述のように、犯罪が起きているならば取り締まる必要がある。違法DVDを店舗で販売している事業者に対し、違法DVD販売業者であると知っていながら、場所を提供したビルオーナーが捕まった事案もある。インターネット空間であっても、違法な広告とわかっていながら、広告を掲載するならばそれは違法行為だといえる。 サービスが完全に無料で運営されているのであればその理論はまかり通るかもしれない。ただし広告で収益を得ているのであれば話は違うのではないか。それは犯罪の幇助(ほうじょ)にあたりかねないし、そうしたサービスに広告料を払うのは、広告主にとっても果たして正しい行為なのだろうか?

――詐欺広告はもちろん、掲載面の質を問わない広告取引はデジタルマーケティング業界の課題だ。関係者に求められる取り組みは?

改めて言うが、デジタル広告の取引は民間のビジネス上のものだ。民間企業のなかで健全に運営されるものという前提がある。そのため、政治行政からなにかを強制するようなことはしたくない。ただ、前述した法改正や規制が進み、広告事業の透明性を高めるルールが明らかになったとき、広告主は、広告がインターネット上でどのようにユーザーに届けられるのか、改めて考えてほしい。現状の広告審査における透明性の欠如は、大きな課題だと認識している。メディアやSNS事業者は、どういう基準や手法で広告を審査しているのか。それがユーザーにわかりやすく情報として提供されているか。広告主の出稿判断にあたり、違法性のある広告と一緒に掲載されないと言える根拠はあるか、運用型広告の仕組みを使う広告主は、ネットワークされている掲載先までしっかりと認識しているか。要は、ともに消費者に責任を持つ仕組みになっているか、業界全体で見直して欲しい。 このまま、現状への十分な理解を持たず、広告出稿を続けることは、自社のブランドを毀損するだけでなく、違法サイトを真っ当な広告主が買い支えることにも繋がってさえいるのだ。これはかなり重大な問題で、広告主にも責任の一端はあるだろう。広告とは、企業が提供する商品やサービスの重要なコンテンツなのではないのか? 私は、そうしたコンテンツが消費者の購買行動を決める大きな要因になっていると認識している。 今回、さまざまな広告主と話したなかで、SNSが健全になるまで広告を控えるというアクションをとろうという声もあった。ただし、広告を出稿しないと大きく売上に影響があることは言わずもがなで、実行にまで移せていない広告主が大半なのではないだろうか。 こうした歪な関係は、SNSへの依存が非常に高いために成り立っており、広告主は身動きが取れなくなっている。そこにメスを入れ、健全な構造に直すところまでが我々の役割だと考えている。

――この問題を解決に導く主導的立場になるのは誰か?

誰もがリーダーシップを発揮できるはずだ。すべてのステークホルダーが、インターネット空間を健全な場にするということに対し、重要な責任・役割を担っている。そもそもインターネットとは、個人に力を与えてくれるうえ、社会をフェアにしてくれるような素晴らしいテクノロジーなはずだ。それは、私が議員となる前に携帯電話事業会社で働いていたとき、強く感じたことでもある。この素晴らしいテクノロジーを国民のほとんどが使用しており、その恩恵を受けている。そして言わずもがな、多くのインターネット上のサービスは広告収入により、無料あるいは安価で利用者に提供することができる。デジタル広告に関わる人たちが、この産業を良い構造にしようという取り組みは、民主主義を良いものにすることと直結している。デジタル広告の関係者にはこうした認識を持ってもらえると、私は信じている。今回、政府が介入して構造を立て直したとて、また別の場所でプラットフォームにおける新たなジレンマが起こり得る可能性はある。だからこそ、それぞれの視点で皆がリーダーシップを発揮していくことを期待したい。

――政策立案にあたり、参考にしている他国の法律・方針はあるか?

前述のEUのDSA法を非常に参考にしている。グローバルなプラットフォーマー、つまりビッグテックのユーザーは1国家の国民よりも多い。そう考えると、影響力は膨大だ。では、どう対処するべきか? 日本と諸外国が連携して、一緒になって良い制度の設計をしていくことが重要だろう。デジタル広告における課題の根幹は、グローバルなプラットフォーマーによるデータの寡占で、彼らとの依存関係が生まれているということだ。もちろん、問題は広告だけではなく、さまざまな分野で起こっている。昨年5月に行われたG7広島サミットでも、プラットフォーマーに対する議論は行われており、解決に向けた世界を巻き込んだ取り組みを政府としてもやっていくことになるだろう。

――最後に、AIの進化における波及についてお聞きしたい。生成AIの導入で悪質コンテンツの生成など加速度的に犯罪が進んでいるが?

テクノロジーが起こした問題はテクノロジーでカバーするのが望ましいと考えている。いま、注目されているオリジネータープロファイル(Originator Profile)という技術をご存知だろうか。大まかに説明すれば、情報コンテンツの作り手、編集者などを遡ってトレースする技術だ。こういった技術も用いて、違法広告を防止しクリエイター本人に適切な報酬が支払われるフェアな構造を目指したいと考える。一方で、「テクノロジーで解決する」という言葉を逃げ道にしてはならない。SNS事業者とのコミュニケーションで感じたことは、とにかく彼らの方針が「テクノロジーで解決する」との一点張りであることだ。デジタル広告の課題の解決策として、なんでもテクノロジーを逃げ道にするのはナンセンスと言えるだろう。SNS 上のアカウントの凍結や今回焦点となっている広告審査のような重要な決定を、すべてAIに任せてよいのだろうか。テクノロジーの進化には可能性を信じてはいるが、すべてをテクノロジーで解決というのは乱暴に感じる。 いま改めて人間の仕事に、倫理性が問われている。そこに透明性があるのか? 効率だけを追求するのではなく、良質なコンテンツを正しく掲載し、消費者に届ける構造をいま一度考えるべきではないか。

小林 史明/自由民主党衆議院議員(広島第6区)。自由民主党において、現在はデジタル社会推進本部事務総長、新しい資本主義実行本部事務局長を務める。上智大学理工学部化学科を卒業後、2006年、NTTドコモに入社し、法人営業や人事採用担当を務めた。2012年、衆議院議議員選挙にて初当選し、現在は4期目。「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力している。

Written by 島田涼平(Edit by 遠藤祐子)Photo by 中山実華