[画像] Macintoshの生みの親が開発に関わったユニークなワープロ「キヤノン・キャット」とは?



by Marcin Wichary

1987年にキヤノンから発売された「キヤノン・キャット」は、Apple Macintoshの生みの親であるジェフ・ラスキン氏が開発に携わったPCです。このキヤノン・キャットがいったいどんなPCだったのかを、ビジネス系ニュースサイトのFastCompanyが解説しています。

Meet the Canon Cat, the forgotten 1987 alternate-reality Mac - Fast Company

https://www.fastcompany.com/90380553/meet-the-canon-cat-the-forgotten-1987-alternate-reality-mac

キヤノン・キャットを開発したジェフ・ラスキン氏はAppleのパブリッシュ担当マネージャーで、「一般大衆にとって扱いやすく手頃な価格のデバイス」というコンセプトのもと、Macintoshの開発プロジェクトを立ち上げた人物です。ただし、Macintoshの開発プロジェクトがスティーブ・ジョブズ氏主導で本格的に進められる頃には、ラスキン氏はAppleを退職していました。

ラスキン氏はAppleを去ったあと、「Swyft」というテキスト編集用のユーザーインターフェースを開発しました。このSwyftの大きな特徴はキーボードの下に設置された「Leap」という2つのキーで、このLeapキーを組み合わせたショートカットを駆使することで、マウスを使わずにカーソルを文章内の目的の位置に素早く移動できました。



by Grant Hutchinson

実際にLeapキーを使った操作は以下のムービーを見るとわかります。

Leap Technology - YouTube

このSwyftを採用したPCが、キヤノン・キャットでした。キヤノン・キャットは9インチ・672×344ピクセルのモノクロディスプレイを搭載し、非常にシンプルなデザインのマシンでした。CPUはモトローラ MC68000、メモリ(RAM)が256KBで、256KBの3.5インチフロッピーディスクにデータを保存することができました。



GUIも非常にシンプルで、メニューやアイコン、ウィンドウを排除し、電源を入れるとすぐに文書作成を始められるようにデザインされていました。また、文書内に表や計算式、コードを埋め込むことが可能で、ボタンを押すだけでそれらを実行できました。

以下のムービーは、キヤノン・キャットの電源をオンにして操作する様子。

Canon Cat - YouTube

また、Internet Archiveにはブラウザからキヤノン・キャットを体験できるエミュレーターが公開されています。

Canon Cat Emulation : Jef Raskin : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive

https://archive.org/details/canoncat

キヤノン・キャットはユーザーフレンドリーで効率的な文書作成に焦点を当てた、独自のコンセプトを持つコンピューターでしたが、普及には至りませんでした。販売台数はわずか2万台といわれており、すぐに市場から姿を消してしまいました。ラスキン氏はキヤノン・キャットが売れなかった理由について、マーケティングの失敗だとコメントしています。

また、FastCompanyによれば、キヤノン社内でキヤノン・キャットの開発チームと従来のワープロ開発チームで対立していたことも原因であるという説を紹介しています。他にも理由は不明ですが、キヤノン・キャットを発売した当時すでにAppleを離れてNeXTを創業したスティーブ・ジョブズ氏が、キヤノンにキヤノン・キャットを廃番にするように強く呼びかけたというウワサもあったそうです。

キヤノン・キャットは失敗しましたが、ラスキン氏はその後もSwyftのアイデアを発展させ続けました。ラスキン氏は2005年に亡くなりましたが、息子のエイザ・ラスキン氏が引き継ぎ、Windows向けランチャーのEnso LauncherやEnsoというLinuxディストリビューションを開発しましたが、記事作成時点でプロジェクトは休止状態となっています。

FastCompanyは、今もSwyftのようにキーボード操作主体の入力で文章執筆を行う人はいることは認めながらも、「たとえSwyftやLeapキーがデスクトップではるかに大きな成功を収めたとしても、今日に見られるようなモバイルの世界ではうまくいかなかったでしょう」と評価しています。