残尿感や頻尿を引き起こす前立腺肥大症に、罹患数トップの前立腺がん――男性を苦しめる悩みはいつも、前立腺から漏れ出てくる。前編記事『1日10回トイレに行く、尿漏れパッドなしでは外出できない…男性を悩ませる「前立腺トラブル」の深刻な実態』に引き続き、男の沽券ならぬ「男の股間」に関わるこの問題を、今こそ根本から解決しよう。

103℃の水蒸気を噴射

TURPやHoLEPといった前立腺肥大症の手術は、かなり大きくなった前立腺でも切除できる反面、電気やレーザーが発する熱が尿道周囲の筋肉や神経にダメージを与えるのは避けられない。そのため術後に勃起障害や射精障害を引き起こす事例が報告されていた。

その点で期待が高まっているのが、アクアブレーション治療だ。電気メスやレーザーの代わりに内視鏡から放出する高圧水流で前立腺を切除するため、周囲の組織に与える悪影響を抑えられる。最先端の手技でまだ実施している病院は限られるものの、手術そのものの時間は5分程度で済むのもポイントだ。

これらはあくまでも前立腺を切り取る治療法であり、どれだけ気を配っても麻酔や出血のリスクは避け難い。患者が高齢でそのような危険をも回避したいならば、低侵襲手術療法(MIST)が選択肢に上がるだろう。30〜80mL程度の早期の肥大症にしか適用できないものの、侵襲性は従来の手術よりも格段に低い。

「体力が落ちている患者さんなら、MISTの一つである経尿道的水蒸気治療が候補に入ります。内視鏡から前立腺内に103℃の水蒸気を5回ほど噴射して細胞を死滅させる方法で、患者さんの体にかかる負担が軽い点がメリット。一回の噴射が数分で済むので、従来の手術より短時間で終わるのも魅力的でしょう」(日本大学医学部附属板橋病院泌尿器科部長の高橋悟氏)

また外科的な手技ではあるものの、原因となる前立腺をまったく切除せず排尿障害のみを治療する方法も注目を集めている。MISTの一つで、2022年から保険適用となった経尿道的前立腺吊り上げ術だ。

「前立腺の中に特殊な糸を埋め込んで前立腺を吊り上げ、尿の通り道を広げる手法です。切除や加熱が必要ないため体への負担が軽く、高齢の患者さんでも行える。また性機能を温存できる点も評価されています」(順天堂大学特任教授の井手久満氏)

放射線治療よりもパワフル

新たな治療法が次々と生まれ、「スタンダード」が塗り替えられているのは前立腺がんでも同じだ。手術のやり方ひとつとっても、大きな変化が起こっている。

前立腺がんは転移するリスクがあるため、前立腺を全摘するのが基本的な治療方針だ。このような局所にとどまっているがんを切除するならば、「ダヴィンチ」などの手術ロボットを利用するのは、もはや「常識」と言っても過言ではない。

「技術の発展にともなって、ロボット手術もかなり低侵襲になってきています。かつては1500ccほど出血していたケースでも、最近では100cc程度で済むことがほとんどですね」(前出の高橋氏)

放射線治療の分野では、ほかのがん治療とは違った手法が臨床現場に取り入れられている。

「その一つが、放射線を発するチップを前立腺に埋め込んで、内側からがん細胞を叩く小線源治療です。手術よりも体への負担が軽いうえ、3泊4日の入院で済む手軽さが魅力でしょう。

また外から放射線を照射する際には、強度変調放射線治療というやり方が広がってきています。コンピュータでコントロールしながら放射線を一ヵ所に集中して照射する方法で、患部が局所に限られる前立腺がんとは相性がいい」(高橋氏)

さらに最近では、より強力な治療法を実践する病院も増えている。

「粒子を高速でがんに照射する粒子線治療です。放射線よりも照射範囲を絞ってがん細胞をピンポイントで叩くことができるため、より高い治療効果が期待できます」(前出の井手氏)

粒子線治療の中でも、水素の原子核を光速の70%程度まで加速させて照射する陽子線治療と、水素より質量が大きくてエネルギーも強い炭素の原子核を用いる重粒子線治療は、2018年から前立腺がんに対して保険適用になった。治療時間も短く、通院が2週間ほどで終わるのは大きなメリットと言えるだろう。

病院選びを間違えて悲劇

前立腺肥大症や前立腺がんの治療法は、このとおり目覚ましいほどの発展を遂げている。しかし最新治療を受けるにしても、肝心な医師の腕がよくなければ元も子もない。都内の大学病院に勤める泌尿器科医が、「ここだけの話」と前置きしたうえで明かす。

「前立腺がんのロボット手術はできても、HoLEPのように高い技術が必要な手技を身につけられない医師は意外と多い。うちの教授なんてろくに練習もせず、『HoLEPは誰にでもマスターできるものではないから……』と最初からあきらめています。

また泌尿器科医は腫瘍を専門とする人が大半で、肥大症治療の技術をきちんと磨こうという医師は限られている。たとえばHoLEPでは、くり抜いた前立腺を細かく砕いて尿道から排出しますが、その際に膀胱に穴を開けてしまったケースもあるそうです」

悲惨な事態になってから後悔しないためにも、本当にいい病院と名医を見極めたうえで受診すべきだろう。前出の井手氏が推薦するのは、uMIST東京代官山だ。

「前立腺肥大の治療に強いクリニックで、院長の斎藤恵介氏はHoLEPなど低侵襲の治療法にとても前向きです。また自由診療ではあるものの、排尿トラブルを改善できる磁気治療など、新しい手法も積極的に取り入れています」

同じく長久保病院の桑原勝孝氏や渕野辺総合病院の設楽敏也氏は、肥大症のレーザー手術の症例数が非常に多く、技術も信頼できる。

また前立腺がんの治療では、国立がん研究センター東病院の評価が高い。とくに泌尿器・後腹膜腫瘍科長の増田均氏はロボット手術の経験が豊富なうえ、陽子線治療を実施している数少ない病院の一つでもある。

西に目を向けると、奈良県立医科大学附属病院が頭一つ抜きん出ている。関西圏では圧倒的な前立腺がんの治療数を誇り、ロボット手術の実施数も首都圏の大病院と遜色ない水準だ。

古い常識にとらわれて、前立腺の病気を放置しておくのは非常にもったいない。名医のもとで正しく治療すれば、よりよい暮らしが待っている。

「週刊現代」2024年4月27日・5月4日合併号より

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1日10回トイレに行く、尿漏れパッドなしでは外出できない…男性を悩ませる「前立腺トラブル」の深刻な実態