ディップが昨年開始した新サービス「ビズリアル」が好調だ。同サービスは、クライアントのニーズを汲み取りながら採用や集客、企業ブランディング目的の動画コンテンツをディップが企画・制作し、同社のSNSアカウントで投稿するというもの。つまり、ディップ自体がインフルエンサーとなり、YouTubeとTikTokを使って企業案件を展開していくかたちだ。求人情報サービス「バイトル」を運営することで知られる同社だが、2年前よりYouTubeとTikTok(登録者数:YouTube・約18万人*、フォロワー数:TikTok・約38万人*)を中心に企業SNSアカウント運用にも注力している。企業コンテンツの内容はクライアントのニーズによって変わるといい、クライアントの従業員が出演する職場紹介、あるいはディップの社員インフルエンサーである「バイトル会社員 もも」さんが職場体験をするなど、多様な展開が可能だという。*2024年4月23日時点実績。YouTube「僕らの凸げき日記チャンネル」登録者数・TikTok「バイトル会社員の日常」フォロワー数ビズリアル事業の開始は昨年10月とまだ日は浅いが、同社のSNS運営を統括する寄藤紀子氏は、「ありがたいことにとても反響が高く、想定数を超えた受注をいただいている」と話す。ことし4月時点で案件数はすでに21件となり、売上が約数千万円。計画比1.3倍以上で推進している。同社では、今後もビズリアル事業を成長させる方針であり、より投稿企画の品質にこだわり、中長期的なビジネスへと成長させていく予定だという。SNSの企業アカウントを使った、採用ブランディング目的のコンテンツ提供は、求人業界において類を見ない。テキスト情報だけにとどまらない、新たな求人・ブランディングコンテンツとして躍進しそうだ。

「SNSで企業のリアルを伝えたい」という顧客ニーズを叶える

そもそも、同サービス開始の背景とは何か。寄藤氏は、「SNSを活用したいと考えているものの、リーチ・リソース・ノウハウに限界があり、認知拡大できる場がないと考えているクライアントの課題を聞いた」と話し、「そのうえで、ディップのSNSに対する知見がどうマネタイズできるのかを模索した」と説明する。そのため、クライアントの規模に決まりはなく、上場企業から家族経営の会社まで取り扱う。従業員の人柄や職場の雰囲気の良さ、あるいは清潔管理が行き届いたバックヤードなど、文字情報では伝えきれない要素を、動画情報を使って伝えていくという。「正しくない情報も行き交う世の中で、風評被害など誤った情報を払拭し、企業の魅力とリアルな職場情報を届ける、それぞれの企業が抱える課題解決に貢献できればと思って取り組んでいる」と、寄藤氏は話す。

ディップのSNS力――50万人超の企業オウンドメディア

ビズリアル事業開始の原動力となったのは、間違いなくディップのSNS力だ。4月現在、YouTubeチャンネル「僕らの凸げき日記【仕事図鑑】powered by dip」は18万フォロワー、TikTokアカウント「バイトル会社員の日常」は38万フォロワーを獲得しており、フォロワー数は合計で56万人**。投稿した動画の累計再生回数は2億回***を超えるといい、求人業界で右に出るものはいない。**YouTubeでは「チャンネル登録者数」、TikTokでは「フォロワー数」として計算。2024年4月26日時点実績。***2022年7月6日〜2024年4月26日実績:YouTube・TikTokの視聴回数合算とはいえ、コンテンツの投稿とともに登録者数が右肩上がりになっていったのではなく、寄藤氏によれば、フォロワー数1万人を超えるまで「視聴回数と登録者数が伸びない」「指標が多いSNSで、効果検証の優先度設計が難しい」「毎日投稿できる安定体制が難しい」という課題を抱えていたという。そこで、その3つの課題に対しフレームを作り、一つひとつをマーケティング施策のように実施することで、SNS事業全体を改善していったようだ。まず、「視聴回数と登録者数が伸びない」という課題に対しては、ユーザーの市場を調査したうえで、「TikTok10ヵ条」「YouTube5ヵ条」などのルールを作り、企画のベースとしたという。続けて、「指標が多いSNSで、効果検証の優先度設計が難しい」という課題については、アルゴリズム解析から優先KPIをSNSごとに設定し、ダッシュボードツールで結果の分析を行った。そして、「毎日投稿体制が継続できない」という課題については、重要な企画立案と出演はインハウス化、撮影・編集は外注化と、パートナーとの役割分担を明確にし、クオリティの高い動画の大量制作体制を整備することで毎日投稿を実現した。制作効率化によって、ライブ配信やコメント欄の掲示板化を促し、ファンとのコミュニケーションを大事にした結果、リピーターの維持に成功したという。

SNS事業の課題解決のために作り上げたマーケティングフレーム

ディップ式「TikTok10ヵ条」「YouTube5ヵ条」でバズ再現を

寄藤氏いわく、このマーケティングフレームのうち、とくに大事にしているのが、「TikTok10ヵ条」(下の図)だ。同社ソーシャルメディア課がいくつもの動画の成功パターンをインプットし、検証して作り上げたルールとしており、個人の好みに左右されず、バズを再現できるようになった。この規則の導入で、TikTokでは36万人のフォロワーを獲得している。

自社作成のTikTok10カ条が重要な指標に

一方でYouTubeについては、「YouTube5ヵ条」を作成。「チャンネルコンセプトに合う内容」「15秒で意図的にフックをつける」「コメント誘導できる仕掛け」「ひと目で見てわかりやすいサムネ」「見どころを1分に2回出し、最後まで見てもらう」としており、このルールを取り入れ、現在は18万人の登録者数を抱えている。マスコミ関係やエンタメ業界を除いた企業アカウントでは、トップクラスのフォロワー数だ。

YouTube5ヵ条も作成

SNS上の自社アカウントを育て、さながらインフルエンサーやメディアとして、企業とのタイアップを行う。求人情報サイトを運営するディップだからこそ、本業との相乗効果も大きい。ビズリアルで使われる動画が作成されれば、企業のホームページやSNS、バイトル求人原稿の動画二次掲載も可能だという。SNS、そして動画コンテンツを使ったこの新たなイノベーションサービスは、求人業界の新たな手法となりえるだろうか。※トップ画像はソーシャルメディア課のメンバー。右から寄藤課長、社員インフルエンサーの鈴木ももさん、ビズリアルをメインに担当する伊藤愛莉さん、橋本優也さんWritten by 島田涼平Photo by 三浦晃一