(写真:w_stock/PIXTA)

新型コロナ感染症が5類に移行し、制限のない生活に戻って1年。街は人で溢れ、「格之進」のある六本木界隈も外国人を多く見かけます。そこで気になることが1つ。渋谷や原宿、銀座や東京駅で行列を作っているお店を見ると、どれもハンバーグ専門店なのです。 

コロナ禍4年の内に、じわじわと新しいハンバーグの潮流が動き出していました。東京だけでなく、福岡や神戸、大阪でも、ハンバーグ専門店は大行列だということで、並んで、並んで、並んで、食べて、食べて、食べて! なぜハンバーグ専門店が外国人にも人気なのかを調べてみました。

日本で独自に「進化」したハンバーグ

と、その前にーー。諸説ありますが、ハンバーグが日本で一般的に食べられるようになったのは、昭和の頃、1970年代前後のこと。1971年にマクドナルドが日本に上陸して、挽肉の塊=パティをパンで挟んだハンバーガーが認知されるようになりました。

が、ハンバーガーはその後日本で独自の進化を遂げます。通常ハンバーガーのお肉=パティは、お肉の味をしっかり味わうよう、赤身のお肉(ほとんどが牛肉)100%で作られていることが多い。けれど、日本では、パンに挟まずパティだけを食べる「ハンバーグ(ステーキ)」が定着していったのです。

この日本のハンバーグには、牛肉だけでなく、豚肉との合挽肉を使用することが多く、中には鶏肉も合わせ、玉ねぎや卵、パン粉などで調合、調味したハンバーグが定着していきました。

合挽肉を使ったのは、牛肉の価格が高かったので、豚肉との合挽肉を使用することになったからとか。また、ハンバーガーより早く餃子や焼売など豚挽肉を使う料理が普及したことから、合挽肉を使う発想になったとも思われます。外国発祥の料理を日本人の嗜好に合わせ、オリジナル料理にする文化から生まれたのが、日本のハンバーグなのです。

パン粉がレシピに入っているのは、当初カサ増しのためでした。しかし、このパン粉を入れることで、ふっくら感が出て、パン粉が肉汁を吸って、うま味を閉じ込めておいしくなることがわかり、今でもハンバーグのレシピに加えられているのです。

「オンザライスで食べる」新スタイル

話を戻して、現在のハンバーグの話。

コロナ禍が明け、海外から日本の食を目当てに来日する外国人も増えていますが、彼らの目的の1つにハンバーグがあるそうです。和牛のしゃぶしゃぶやステーキではなく、ハンバーグです。

白米のおいしいご飯とハンバーグをセットにしたお店が、ここ数年続々登場し、どの店も行列ができており、外国人の姿も多数あり!「格之進」の東京駅店「格之進ハンバーグ&バル」でも、お客さまの2割強が外国人で、ハンバーグが人気です。

このハンバーグ専門店人気のきっかけは、2020年に吉祥寺にできた「挽肉と米」。2005年、ワンランク上のハンバーグを目指し、こだわりのレシピでハンバーグに特化した店「俺のハンバーグ山本」(現在は「山本のハンバーグ」)で話題となった山本昇平シェフが中心となって立ち上げました。

「挽きたて、焼きたて、炊きたて」をコンセプトに、牛肉100%のハンバーグを、目の前で焼き上げ、小さめのハンバーグを食事のペースに合わせて3個を上限に、炊き立てのご飯と共に提供。そして、自分好みに薬味(ニンニクふりかけや青唐辛子オイル漬けなど)をトッピングして、ご飯に乗せながら食べるスタイルは、ありそうでなかった、でも誰もが求めていたハンバーグの食べ方で、若い世代の胃袋を掴みました。

その後「挽肉と米」は、渋谷や京都など日本だけでなく、台湾、韓国にも出店し、あっという間に世界的な話題店となっています。

神戸には、和牛と国産牛100%の肉だけで仕上げたハンバーグに、牛脂をトッピングする、「ハンバーグと牛タンとお米 神戸赤ふじ」が、2022年秋に開業し、こちらも行列が絶えず、今年3月に3店舗目がオープンしています。また、福岡の「極味や」では、韓国からハンバーグを目当てに来日する人が多いとか。

これらのお店に共通するのが、炊き立てのご飯と焼きたてのハンバーグを提供していること。和牛や国産牛と、肉にこだわり、野菜やパン粉などは入れず、または極力減らし、ほぼ肉だけで仕上げたハンバーグを提案しているということ。そして、目の前でハンバーグを焼き上げ、仕上げは食べる本人が好みの焼き具合を調整するライブ感が体験できることです。

また、中にはハンバーグの大きさが通常より小さめの60gや90gを2〜3個を提供し、肉肉しい食感を熱々で味わえ、タレを変えて味変できるよう工夫されているお店もあります。

白米の上にハンバーグを乗せて“オンザライス”で食べるのを推奨していることも特徴です。“ハンバーグオンザライス“といえば、グルメエンターテインナーとも呼ばれるフォーリンデブはっしーさんが、おいしいハンバーグの食べ方として、5、6年前くらいから発信していたもの。これが一人歩きして、メニューになったとも推測できます。


白米にハンバーグ、という和食的な食べ方(写真:筆者提供)

ハンバーグは白米で食べる「おかず」に

どの店もご飯にこだわるのは、ハンバーグは白米で食べる「おかず」であることを証明しており、洋食ではなく完全に和食へと認知が変化したと言えます。特に、外国人にとっては、ラーメンやカレーのように和食と見られているのです。

銀座の「挽肉屋 神徳」に至っては、ハンバーグに出汁をかけて食べる「和出汁ハンバーグ」があり、和食濃度濃い目のメニューを展開。ハンバーグ出汁茶漬け、という新しい食べ方を提案しています。牛、豚、羊、鮪や鯛のハンバーグもあり、さまざまな味を複数のタレで味わえるようにもなっています。

どのお店も、1人でも気軽に入れ、サービスもしやすいカウンター席が多いのは、オープン時期が、三密対策が叫ばれたコロナ禍であったからかもしれません。

和牛、国産牛を粗めに挽き(挽肉は劣化しやすいので、当日挽きたて!)、より肉の味を前面に出し、炭火で炙り、熱々のご飯と共に食べる「和定食ハンバーグ」。薬味やタレも何種類もあり、それぞれの味わいが選べる。焼き加減も自分好み。価格も1000〜2000円で十分足りるお手頃価格なハンバーグは、若い世代、海外のツーリストなどに今、支持され、新しいハンバーグの食べ方として定着しているようです。

外国人にも認められる「和食」になった

ほんの10年ほど前は、外国人にとってパンを挟んで食べるハンバーガーが正解で、肉だけ食べるハンバーグは、「ありえない存在」でした。また、海外では挽肉はどんな肉のどこの部位が使われているかわからないため肉としての価値が低く、ハンバーグだけを食べることはなかったのです。

しかし、日本で作られたハンバーグは、独自のレシピ、日本の牛肉を使うことで、海外の人たちの常識を破り、ステーキとはまた違う、日本的な食のスタイルとして認められたのです。やはり日本の食に対する安心感、信頼感は高いのです。

ちょっと前まではハンバーグといえば、肉汁溢れるものが主流で、こだわって作られた店のオリジナルのソースで楽しむものでしたが、今話題のハンバーグは、肉汁よりも肉肉しさ、肉本来のおいしさを味わう傾向に移行。ハンバーグのための肉を厳選し、それぞれのお店の味にこだわり、焼肉のように自分で焼くスタイルが定着しています。

白米の上にハンバーグを乗せ、さらに生卵(または半熟卵)をオンして、丼のようにして食べるもよし、一口ずつ焼きながら香ばしさを楽しんだり、好きな味付けで食べることもできる。店が提案する完成されたハンバーグではなく、自分好みにカスタマイズできる、まさに食べる人の多様性に応える業態となっているのです。


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(千葉 祐士 : 門崎熟成肉 格之進 代表)