4月から施行される「改正DV防止法」では精神的な暴力も保護命令の要件となる。加害者の更生プログラムを行うNPO法人に精神的DVの実態を聞いた。

【映像】「カレーに福神漬けが付いていない!」と怒る夫の心理とは?

 警察庁によると、配偶者など、パートナーからの暴力=DVの去年の相談件数は8万8619件。20年連続で最多を更新した。

 そんな中、4月から施行される改正DV防止法。身体的な暴力だけでなく、言葉や態度による精神的な暴力でも、裁判所が被害者に近づくことなどを禁止する「保護命令」を出せるようになる。

 精神的なDVとはどのようなものなのか? DV加害者の更生プログラムを実施するNPO法人「ステップ」の栗原加代美理事長は「『お前のやっていることは普通じゃない』と穏やかに否定していく。あるいは、相手の話を聞かなかったり、無視したり、睨みつけたり、不機嫌になるといった“サイレントモラハラ”も精神的暴力だ。相談者のみなさんは口をそろえて『ささいなこと』と言う。例えばカレーライスに福神漬けを付けなかっただけで夫が『俺が大切にしている福神漬けを忘れるということは、俺は愛されてないんだ』と深読みして怒るようなことがある」と話す。

 自分のことを理解してくれない相手を否定することから始まる精神的DV。「相手との関係を修復したい」とステップを訪れる相談者の多くは、加害者であるという自覚がなく、最初に「自分は被害者だ」と訴えるという。

 また、以前は男性が加害者となるケースが多かったDVだが、時代の変化によって、女性の加害者も増えているという。

 「以前のDVは一方的で日常的な支配関係が主だったが、最近は女性も言い返すことで互いに怒鳴り合い、最後は叩き合うといった“喧嘩状態”になっている家庭が多いようだ。妻たちは身体的には夫に勝てないと思うと言葉で相手を批判するケースが多く、中には夫に小遣いをあげなかったり、『1日1000円で生活をしろ』と言ってお金を渡さないようなケースもある」

 内閣府の窓口に2022年前半に寄せられたDV相談のおよそ6割は精神的DVを含んだ内容だった。「精神的なDVは最終的に身体的暴力につながる」と指摘する栗原理事長は、今回の法改正についてこう評価する。

 「加害者が『精神的なものもDVなんだ』と気づくきっかけになる。身体的暴力や物を壊すといった行為だけがDVだと認識している人が理解できれば、被害を受けてうつ病になる人や PTSDを発症する人が少なくなるのでは」

 4月から施行される改正DV防止法で保護命令が出される範囲となるものについて、内閣府は、相手の自由や名誉、財産などに対する脅迫を例に挙げている。配偶者やパートナーが外出しようとすると怒鳴ったり、仕事を辞めさせると脅したり、キャッシュカードや通帳を取り上げると告げたりするような行為も該当する。

 改正DV防止法と「脅迫」について、精神科医の木村好珠氏は「診察していると、自分がDVをしていると認識している加害者は少なく、なぜ自分のことをわかってくれないのかと思っていることが多い。身体的暴力と違って言葉の暴力などは基準が難しく、けんかした後に無視してしまったりする時にどこからがDVなのかという基準も人によって異なっているため難しい。そのため加害者本人が気づいておらず、むしろ被害者であると認識していることが非常に多い」と、精神的DVを認識することの難しさを指摘する。

 とはいえ、精神的DVで受ける心の傷は大きい。

 木村氏は「精神的DVの被害者も多く来院するが、被害者は精神的にかなり疲弊しており、また脅迫もされているため『自分が悪いんじゃないか』と考える傾向にある。さらに、脅迫の中には『家にいるように』『そんなに遊びに行ってどうする』など、周囲との関係を断つように仕向けるものもある。そうやって対人関係にも影響を及ぼす場合、被害者はどんどん孤独になる。孤独の辛さ、脅迫の辛さ、DVの辛さがあると『相手とコミュニケーションをとって状況を変えよう』という気力はなくなってしまう。状況を打開するような行動を起こせない人が非常に多い」と実情を語った。

 さらに、どこからがDVなのか? という判断が難しい場合について、「暴力であれば殴られたらDVと分かるが精神的DVについては被害者側も『自分が悪いのか、それともDVなのか』と分かりにくいことがある。DVの相談内容のうち、精神的DVに該当するものは64.8%とのことだが、これ以上に、いわば「隠れ精神的DV」もいると思う。さらに、精神的DVが身体的なDVと複合してしまうことも少なくない」として、外部に相談することの必要性を指摘した。

 木村氏は「『これがDVなのか分からない』と思った場合には周囲に相談してほしい。話せる人がいなければ、相談窓口などでSOSを出してほしい。心が消耗している状態では、集中力・判断力が低下してしまうため、まずは外部に『判断を仰ぐ』ことが大切だ」と述べた。

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(『ABEMAヒルズ』より)