「経済制裁を受けているのが信じられないくらい生活は豊かですよ。店には物資が溢(あふ)れ、欧米のブランド品も”似ている商品”なら何でも手に入ります」

昨年末にロシアの首都モスクワを訪れた、日本人ビジネスマンが話す。

ロシア経済が好調だ。’23年の実質国内総生産(GDP)は、前年比3.6%増の約226兆円。’24年も2.6%増で、主要先進国を上回る成長をみせているのだ。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が語る。

「ロシア経済を牽引(けんいん)する要素の一つが、外国のブランドを模倣する『コピー経済』です。’22年2月に始まったウクライナ侵攻に反発し、多数の欧米企業がロシアから撤退しました。ロシア当局はこうした企業に事業を現地法人へ安価で売却させ、公然とコピー商品を販売。事実上の資産収奪をし、看板を書き換えただけで莫大な利益を得ているんです」

スターバックスを引き継いだ『スターズ・コーヒー』、コカ・コーラの後継『クールコーラ』……。政府がウクライナ侵攻直後の’22年3月に「非友好国の知的財産を保護せず権利者への対価は収益の0%」とする法令を出したため、ロシアではロゴまでそっくりな「パクリ商法」が横行しているのだ。欧米企業が撤退し経済制裁をしても、ロシアの景気にダメージが少ないのもうなずける。

「ロシアはエネルギー資源も豊富です。欧州が依存する天然ガスは制裁対象とならず、石油は友好関係にある中国や『グローバルサウス』と呼ばれる新興諸国が購入しています。利益の多くは軍需産業にあてられている。今年の防衛費は’21年の約3倍になるんです」(松崎氏)

好調な経済を背景に、ロシアはウクライナ戦線へどんどん武器弾薬や新兵器を投入。一時苦戦を強いられていた戦況を、盛り返しているという。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。

「ウクライナは厳しい状況です。米国も欧州も供与できる武器・弾薬のストックが少なくなってきている。さらに米国での国内の政治対立による混乱もあって、支援が滞(とどこお)りがちです。東部戦線の一部では、使われる砲弾数の比率がウクライナ軍とロシア軍では1対5以上にもなっているとか。野砲や戦車があっても、撃つ弾薬が足りないという状態にあります」

欧米の研究所によれば、支援が完全にストップすればウクライナ軍は2〜3ヵ月で崩壊するという見方もある。「パクリ商法」で潤(うるお)い始めたロシアが「勝利宣言」する悪夢が、現実味を帯びているのだ。

『FRIDAY』2024年3月15日号より