数々の最多記録を打ち立てた平成の大横綱だった宮城野親方(38)に、日本相撲協会から厳しい処分が下された。今後の展開次第では角界追放もあり得るようだが、いったいコトの背景には何があるのか。土俵の外で繰り広げられている両者の死闘を掘り下げた。

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【写真を見る】「殺虫剤のスプレーに点火した炎で弟弟子の体を」 非道なイジメで処分された北青鵬

 1カ月以上も前からくすぶっていた疑惑の真相がついに明らかにされた――。

 2月23日、元横綱白鵬の宮城野親方が、弟子の幕内北青鵬(22)による暴力行為を止めず監督責任を怠ったとして、委員からヒラの年寄へと2階級降格させられるなどの処分を受けたのだ。北青鵬は引退勧告の処分が相当と判断されたが、形式上、自ら事前に引退する運びとなった。

宮城野親方

「この日、協会は北青鵬の暴行の具体的な内容を明らかにしました。彼は宮城野部屋の弟弟子二人に対して2022年7月以降、日常的に暴力を伴ったイジメを繰り返していたとのことでした。顔面や睾丸を平手打ちしたり、指を接着剤でくっつけたり、殺虫剤のスプレーに点火した炎を体に近づけたりと非道のかぎりを尽くしていたようです」(大相撲担当記者)

運転手付きのロールスロイスで場所入り

 本誌(「週刊新潮」24年2月1日号)は北青鵬が1月場所の途中で不可思議にも休場した背景には、素行に関する問題があったことを報じていた。協会はここにきて、ようやく疑惑の真相を明かしたというわけだ。

 宮城野親方と同じモンゴル出身の北青鵬は2メートル4センチと現役最長身を誇った。恵まれた体躯を生かしたスケールの大きな相撲で将来を嘱望されたが、

「とにかく素行不良の評判が絶えませんでした。寝坊は日常茶飯事で、いきなり出稽古に行くと言っていなくなり、何をやっているのか分からないこともしばしばだったと。突然、他の弟子たちの財布からカネがなくなり、北青鵬が疑われることもあったようです」(協会関係者)

 だが、宮城野親方はそんな彼を甘やかし続けた。

「部屋で唯一の幕内だった北青鵬はひとり暮らしを許されていたのですが、他の弟子たちは彼がどこに住んでいるのかを知りませんでした。また、協会がロールスロイスで場所入りしたことを問題視していましたが、トンデモないのは車種だけじゃなかった。彼には自分で雇った運転手までいたそうです。自由な生活を謳歌していたのです」(同)

陸奥部屋の暴行隠蔽問題と比較すると…

 結果として今回、宮城野親方に下された降格処分は、7段階ある処分の中で3番目に重いものだった。

「さらに、宮城野部屋について、3月場所は所属する伊勢ケ浜一門の玉垣親方(59)が師匠代行を務め、4月以降は同一門の預かりとすることが決まりました。宮城野親方には弟子の監督責任だけでなく、暴行の事実を把握しながら協会に報告をしなかったことなど、親方としてのさまざまな資質を問うているからです」(前出の大相撲担当記者)

 しかし、宮城野親方に下された処分が厳しすぎると指摘する声もある。たしかに、本誌(23年5月18日号)が報じた陸奥(みちのく)部屋の暴行隠蔽(いんぺい)問題と比較すれば、その差は明らかだ。

「本格的な死闘に突入」

 陸奥部屋に所属する序二段の元安西(やすにし・22)=現・日煌(にっこう)=は昨年、兄弟子から凄絶なイジメを受けていたことを陸奥親方(64)に相談するも、部屋内で隠蔽を図られてしまった。

 彼が受けたイジメの実態や隠蔽の経緯は本誌が報じた後、スポーツ紙なども追いかけ社会問題となった。

 にもかかわらず、協会が昨年6月、陸奥親方に下した処分は報酬減額のみ。これは7段階ある処分の中で2番目に軽いものだった。

 元安西の実名告発も虚しく、協会は「隠蔽を疑わせる事情までは認められない」と結論付けたのだ。陸奥親方はひとまず協会ナンバー2の事業部長の職を辞任したが、理事の座にはとどまり、今も陸奥部屋は変わらずに運営されている。

「協会は公益財団法人とは思えないほど、露骨な身びいきを繰り返してきました。幹部たちは、仲間については事実を曲げてまで庇うのに、気に入らない相手は徹底的に排除する。貴乃花(51)がいい例です。目下、一番の敵は宮城野親方。最終的な目標は角界からの追放でしょう。今後、両者は本格的な死闘に突入していくとみられています」(同)

宮城野親方が「ヒール」である理由

 なぜ、宮城野親方は目の敵にされるのか。

「かねて批判されてきたのが品格のなさです。17年には元横綱日馬富士(39)が起こした傷害事件に同席しながら止めなかったとして減給処分を、優勝を果たした19年春場所の千秋楽では観客に三本締めを促したとしてけん責処分を受けるなど、横綱にふさわしくない言動がたびたび俎上に載せられてきたのです」(前出の記者)

 また、現役時代の終盤に実力が衰えてくると、

「立ち合いの際に張り手をかましたり、エルボースマッシュのようなかち上げを食らわせたりと、取り口が汚いとの非難も浴びせられるようになりました」(同)

 そして何より、熱心な相撲ファンも口をそろえるのが、記録への疑義だ。

「優勝45回、通算勝ち星1187個という他に類を見ない最多記録が、さほど評価されていないのはなぜでしょうか。数字をもとにすれば白鵬が史上最強の横綱であるはずなのに、あまりそうは言われない。むしろ“ガチンコ横綱”として鳴らした貴乃花と比べて、記録の重みがないといった声が聞こえてくるほどです。宮城野親方が“ヒール”である理由は、決して表面上の品格の問題だけではない」(前出の協会関係者)

断髪式でハサミを入れた中に協会現理事はおらず…

 もちろん、宮城野親方にも言い分はあろう。さる宮城野部屋関係者は彼の気持ちをこう代弁する。

「宮城野親方は10年からほぼ毎年、少年相撲の国際大会『白鵬杯』を開催し、後進の育成に取り組んできました。鳥取城北高相撲部と太いパイプを築き、同高出身ですでに十両経験済みの天照鵬(21)や伯桜鵬(20)など期待の若手を入門させてもきた。日本を代表する企業、トヨタの豊田章男会長(67)とも親交を深めています」

 既得権にしがみつくばかりの協会幹部たちに比べて、自分は誰よりも努力してきたという確固たる思いを持っているのだとか。

 およそ1年前、宮城野親方の断髪式でハサミを入れた面子を見ると、

「政界では森喜朗元総理(86)、鳩山由紀夫元総理(77)、吉村洋文大阪府知事(48)など。芸能界ではYOSHIKI(58)やGACKT(50)など。これらの著名人たちと共に当然、角界関係者もいたわけですが、その中に一人も協会の現理事が含まれていなかったのです。宮城野親方と協会の深い溝を改めて認識せざるを得ませんでした」(同)

「再び不祥事を起こせば…」

 さて、両者の死闘は今後どうなっていくのか。

「近い将来、宮城野親方は理事選に打って出ようとしていましたが、もはやそれどころではなくなってしまった。一方の協会からすれば今が攻め時です。過去の例を踏まえれば、数年の長きにわたって部屋が一門の預かりとなることも考えられます。その間、宮城野親方が再び不祥事を起こせば、協会は可能なかぎりの理屈をこねて、彼を追い出しにかかるでしょう」(前出の協会関係者)

 宮城野親方にとっては同郷のよしみで、幼少期から世話をしてきた北青鵬の存在も懸案事項だとか。

「宮城野親方は現役時代からさまざまな疑惑が取り沙汰されてきました。北青鵬はそんな親方の秘密を握っているといわれているのです。破れかぶれになった彼が秘密の暴露に走らないともかぎりません」(同)

 相撲人生で最大のピンチを迎えた宮城野親方。まさに今、ここ一番の“ガチンコ”を見せる時だといえるだろう。

「週刊新潮」2024年3月7日号 掲載