2024年から始まった政府肝入りの「新NISA」。節税のメリットがあるなど一昔前は敷居の高かった投資がどんどん身近なものになっています。今回取材してきたのは、大学時代に投資デビューを果たしたという新入社員が起こしてしまったとんでもないエピソードです。
◆かつてないタイプの新入社員

 今回話を聞いたのは、老舗の食品加工会社で営業企画部長の川口さん(仮名・38歳)。川口さんの会社では新製品の開発に力を入れていて、積極的に新卒採用をしています。

「実は、定番商品の売り上げがここ数年右肩下がりで、現代のニーズに合った新商品の開発が課題でして、従来の採用方法などを見直すことにしたんです。福利厚生や待遇の見直しを行い、幅広い学部への訴求も積極的に実践した結果、今年はかつてなかったタイプの人材が集まってくれました」

 入社した中でもMくん(23歳)という男性は、今まで会社では見かけなかったタイプで、大学では心理学を専攻し、所属していた株式投資サークルでは、株関連の情報誌から取材を受けるなど、川口さんも期待していたそうです。

◆少し気になる言動と行動

 予想通り、Mくんの仕事ぶりは目を見張るものがあったといいます。ただ、少し気になる点もあったようです。

「彼は仕事について、気になったことや改善点を積極的に提案してくれるんです。ただ、やたらと新製品情報や、商品のリニューアル情報を聞いてくるんですよ。先日も、一緒にランチを食べた時に他社の類似商品について勝手に語り出して『川口さん、ウチの会社は対抗しないんですか?』ってね」

 それ以外にMくんは勤務中にもかかわらず、時々社内、特に会議室の辺りを徘徊していることがあるそうです。特に最近は、用もないのに会議室に入っていく姿を川口さんは目撃していて、なんとなくイヤな予感がしていたそうです。

ボイスレコーダーの忘れ物

 Mくんに対する見方が少し変わってきた川口さん。その日は午前中から月例の商品企画会議があり、新製品の検討会も兼ねているため数名の役員が出席していました。

「会議は滞りなく終了し、下っ端の私がマイクやプロジェクターの撤収を行っていました。すると、ワイヤレスマイクの受信機が設置してあるラックの片隅にボイスレコーダーを発見したんです。しかも録音状態でした。変だと思いましたが、とりあえず気味が悪いのでそこから取り出して会議室を後にしました」

 川口さんが会議室を出て自分のフロアに向かっていると、前から歩いてくるMくんと出くわしたといいます。

「もしやと思い、席に戻ったふりをしてMくんの後方から気づかれないように見張りました。すると、トイレでもなく自販機でもなく、彼が向かったのは会議室だったのです。後から気付かれないように急いで追いつき扉の隙間から様子を見ると、ワイヤレスマイクの受信機の周辺をゴソゴソと物色していたんです。これはクロだなと直感しました」

◆とんでもない行為が明るみに

「探しているのはこれ?」と、会議室の奥のほうでゴソゴソしているMくんに尋ねた川口さん。びっくりしたように振り向いてオドオドするMくんは「はい。すみませんでした」とだけ答えます。

 川口さんが「なんのために盗聴していたのか聞かせてほしい」と聞くと、予測した通りMくんは新製品の情報をいち早く入手し、自社株を購入するという魂胆でした。しかも、自分ではなく大学時代のサークル仲間に代理購入を依頼したとのこと。

「商品開発の情報だけなら株価に大した影響はありませんが『一歩間違えれば、犯罪だからな!』と注意しました。盗聴行為はともかく、たとえ他人が代理購入しても、重要情報であればインサイダー取引になることを強い口調で伝えました」

 インサイダー行為を未然に防いだ川口さん。Mくんは反省の色は見せたものの、要注意人物だとし、当分は厳しい監視下に置くと語っていました。しかし、その問題発覚から数か月後、会社に居づらくなったMくんは自主退職したそうです。

<TEXT/ベルクちゃん>

―[すぐに辞めた新入社員]―

【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営