女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのことなどを写真と文章でつづります。今回は、「離れて暮らす高齢親の見守り問題」について。80代の母の入院に際し、ひとり暮らしをすることになった90代の父。川上さんの地方出張時に、父と連絡が取れない事態が発生し…。

【写真】川上麻衣子さんと90代の父

58歳の誕生日に起きた雪の日の痛いサプライズ

私にとっての生まれ月2月は、なかなかどうしてにぎやかな月となっています。誕生日の5日は恒例のサプライズ企画で、なじみの寿司屋に仲間たちが集合。

仲間のそれぞれの誕生日にサプライズと称して集まり(もはやサプライズとは呼べませんが…)、毎回うれしい宴となります。ちょっとぜいたくな宴を仲間の誕生日を理由に味わえるのも、40代を過ぎてからの大人の楽しみとなっています。

今回は、東京に珍しく大雪が降ったその夜のことでした。夜が深まるほどにシンシンと雪が降り積り、ぼた雪となってアスファルトを白く埋めていきます。

いつもよりは早い解散を余儀なくされましたが、変わらずに仲間たちに会えた喜びと感謝にひたり雪道を歩いていたそのとき。見事な「スッテンコロリン!!」をやってしまったのです。

誕生日は意外と事件が起きやすい!?

降り積もった雪道の脇にあった金属製のなにかしらに足を取られたらしく、立ち上がろうとしたものの、さらにスッテンコロリン! コントであれば見事でしたが、情けないやらお尻は痛いやら…。

朝目覚めたときに、なんとなくではあるのですが、「誕生日は意外と事件が起きやすいから気をつけよう!」などと考えていたことがまんまと的中してしまいました。

尾てい骨の打撲らしく、ほかに骨折やケガがなくすんだことは不幸中の幸ではありますが、なんとも年齢を感じる切ない誕生日となりました。

そしてこの尾てい骨の打撲というやつは、転んだ当日よりも翌日からの方がじわじわと効いてくるものらしく、些細な動作であっても鈍痛がくるので厄介です。日頃は早足で歩く私ですが今回ばかりは「トボトボ、トボトボ」とつぶやきながら、おばあちゃんになった気分でゆっくりのんびり歩いています。

80代母が入院、残される90代父も心配で…

そんな私に新たな事件が勃発かと思われたのはスッテンコロリンから2日目の朝のことでした。

じつは昨年末に両親と行った「実家じまい」などハードな作業が立て続けにあったこともあり、エネルギッシュで通ってきた母(今年86歳)ではありますが検査を兼ねてということから先月より入院となっていました。

年齢のこともあり当初は心配しましたが、どうやら3食昼寝つきの入院生活は思いのほか快適だそうで、滅多に味わったことのない暇な時間を楽しんでいるようです。

問題は母の入院に伴い、ひとり暮らしとなってしまったもうじき94歳になる父です。

頑固な「昭和一桁世代の父」の元へ3日に一度通う毎日

私はひとりっ子で、わが家は3人家族。18歳で家を出てからは、電車で行ける距離ではありますが、2人暮らしの父母とは離れて暮らしています。母もひとりっ子なこともあり、近くに住む親族も少ない状況です。

昭和一桁の父はその世代らしくとても頑強で、しっかりといまだ自立した生活をしています。しかしそうは言っても足腰は弱くなり、転ぶことを恐れて、外出はほとんど難しくなっています。

母と暮らしていれば買物や食事の世話に心配はありませんが、ひとり暮らしとなるとそうはいきません。

3日に一度は様子を見がてら、つくりおきの料理をしに父の元に通い、毎朝8時には必ず電話で連絡を取り合う約束をしているのです。

その父との連絡がその日、初めて途絶えました。なにしろ毎朝7:59から8:00ちょうどになるその瞬間におもしろいほど正確に連絡がきていただけに、5分連絡がないだけで、なにか血の気が引く悪い予感。

こちらから発信してみるものの、呼び出し音が鳴るだけで応答がありません。まさかとは思いながらも、部屋のどこかで転倒したのではないか、あるいは眠りから覚めていないのではないか…。

考えるのは悪いことばかり。しかもその日私は地方に出張が決まっていたために、様子を見に行くことができません。

父と連絡が取れない!多くの人の力を借りることに

連絡が取れない状態が30分過ぎたところで意を決して、常駐の管理人さんに電話を入れました。「大変申し訳ないのだけれど、確認をお願いできないか」と依頼。とても親切に対応してくださり、インターホンを押してくださいました。ところがやはり応答はなく、いよいよ室内に入っての確認となると、警察の介入がなければ勝手に鍵をあけるわけにはいかないとのこと。

なにやらおおごとになってしまいましたが、仕方ありません。警察の地域課担当の方に事情を説明したところ、素早い判断で安否確認の手続きを取ってくださいました。警察が住居に着いて確認を取るまでの約45分ほどは腰が抜けそうな心地で、スマホを握っていました。

おかげさまで、父は少し熱っぽい体調のせいか時間の感覚が薄れて熟睡していただけの事とわかりました。警察官の方のスマホを通じて聞こえてきた父の元気な声に、ホッとすると同時に周りの方々になんとお礼を言えばよいものか感謝が言葉になりません。

高齢親との向き合い方に介護…さまざまな問題に直面

翌日出張から戻り父の元へ行くと、いつもと変わらぬ元気な様子で、「孤独死と間違えられてしまったな…」などと苦笑いしていました。

母の入院をきっかけに、高齢の親をもつ、ひとりっ子の現実的な問題点が次々と露わになってきました。近々には要介護認定の審査も立ち合います。

しっかりとしてはいる父ではありますが、介助を必要としたい場面も数々とあります。審査となるときっと「大丈夫です。自分ですべてできます」と半ば見栄を張ってしまいそうな父の姿が今から目に見えるようです。