■昔はサイズも季節感もバラバラだった

お正月の風物詩の1つといえば福袋です。2021年以降はコロナ禍によって販売自体がなくなったブランドも珍しくないようですが、2000年代前半から2010年代半ばまでは衣料品店やファッションブランドの正月の福袋人気は異常ともいえるほどに過熱していました。2010年代後半から沈静化して本当によかったと思います。今回は衣料品店・ファッションブランドの福袋について振り返ってみたいと思います。

正月の福袋販売はかなり昔からどの分野でもあり、衣料品店・ファッションブランドがそれを正月販売に取り入れたのも相当前からだと聞いています。2024年には54歳を迎える私でさえいつから始まったのかも知らないので、相当前からあったと考えられます。

写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

■開けてみてガッカリした人も多いはず

元々の衣料品店・ファッションブランドの福袋というのは、1年間販売してきて売れ残った商品を詰め合わせて格安でお得意さまに正月の風物詩として販売していたものでした。当然、サイズや色柄もバラバラですし、今すぐには着られない季節外れの夏物が入っていることも珍しくありませんでした。

買う側も「運試し」や「おみくじ」のような感覚だったと思います。昔はバーゲン時でも半額程度までしか値下がらないものが、福袋だと1万円や2万円で、売れ残りとはいえブランドの洋服が5〜10枚買えたのですから、お得感があったことは間違いありません。

実際に、私も90年代後半にインポート系ブティックで1万円か5000円かの福袋を買ったことがあります。帰宅して福袋を開けてみると、たしかに洋服が5枚以上詰め合わされていたのでお得だったのですが、サイズはバラバラだし、夏物も何枚か含まれていたので、ビミョーな気持ちになったことを今でも覚えています。

■「売れ残り品の詰め合わせ」から変わり始めた

それでも福袋という商法はある程度消費者に好評を博し、売れ行きも悪くはなかったのでしょう。2000年ごろにはどの衣料品店・ファッションブランドもすっかり福袋を販売するようになっていました。

2000年といえば、そごうの経営破綻やダイエーの凋落ぶりの顕在化、マイカルの経営悪化が如実となり経営破綻直前(2001年経営破綻)という不況感が増していた時期です。そのためアパレル業界では売上高不振が顕著になり始めていましたし、消費者はより一層の「お得感」を求める心理状態に陥っていました。実際、婦人服の売り上げは90年代後半以降右肩下がりの状態が続いています。

そのため、福袋という商材が供給側からも消費者側からも注目を集めたのではないかと思います。注目を集めるようになった福袋はさらなるお得感を提供するために、従来の「売れ残り品の詰め合わせ」というものから変貌し始めます。

福袋(写真=Nesnad/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■なぜ「中身がわかる福袋」が増えたのか

今では当たり前になりましたが、この頃から衣料品店・ファッションブランドの福袋は色柄別・サイズ別にきちんと分けられるようになりました。

もちろん、季節外れの夏物商品なんて入っていません。正月に買って今すぐ着られる冬物衣料ばかりです。そしてそのうちに「中身」もあらかじめ告知するようになりました。例えば「ダウンジャケット1枚、セーター1枚、ネルシャツ1枚、チノパン1枚と長袖Tシャツ1枚入っています」という具合です。店頭でもチラシでも、そのうちにウェブでも告知されるようになりました。

あらかじめ中身もわかって色柄サイズ別に分けられていて、今すぐ着られる冬物が5枚以上入っていて5000〜1万円で購入できるのですから、消費者からするとこんなお得な商材はありません。あっという間に福袋人気が高まりました。

結果、ほとんどの衣料品店・ブランドで福袋は販売されるようになりました。

皮肉なことに過熱した福袋人気が福袋のからくりを広く世間に広めるきっかけとなりました。先述したように、元々は売れ残り品を詰め合わせ、色も柄もサイズもバラバラで夏物が入っていることも普通なのが福袋でした。ですが今は色柄サイズもそろっており夏物なんて入っていません。そこにはからくりがあったのです。

■福袋の中身は「福袋用に作られた商品」

もうご存じの方も多いと思いますが、今の福袋の中に入っている商品は、福袋用としてわざわざ製造したり仕入れたりしているものなのです。もちろん売れ残りの冬物を1着や2着入れる場合もありましたが、整然と色柄サイズをそろえるためには、在庫だけで賄うことは相当困難です。福袋用に製品を製造したり仕入れたりするほか手立てがありません。仮に本当に色柄サイズを売れ残り品だけでそろえられたとしたら相当に販売不振に陥っていて倒産寸前の状態だといえます。

在庫処分品だけで福袋を作ろうとすると、商品ごとの組み合わせも大変ですし、サイズもどうしても偏ります。一部の購入者からクレームもあったことでしょう。とはいえ、「福袋」という形態は消費者にはウケが良かったので、であれば「最初から福袋用の商品を作ってしまおう」となったのです。

■「価格相当」の品物しか入っていない

もちろん、新たに製造したり仕入れたりするわけですから、5枚組1万円で販売してもいくらかは粗利益が残るくらいの原価設定の商品となっています。わざわざ赤字を出してまで福袋用の商品を製造したり仕入れたりするような間抜けな店やブランドはありません。相応に原価の安い商品を製造または仕入れて福袋に詰めて販売しているのです。

家電量販店の福袋には「5万円相当の商品が入って1万円」などという売り文句を見かけます。これは型落ち品が福袋に入っているからこそ可能な表記であり、福袋のための商品が入っているアパレルの福袋には、上記の理由から「掘り出し物」と呼ばれるものはほとんどないと言えます。

福袋は一時期ユニクロでさえ販売していましたが、現在は一部の旗艦店を除き早々に廃止されました。これは福袋無しでも正月の集客も売上高も確保できることがわかったためだと推測されます。

■アウトレット店に「アウトレット専用」しかないのと同じ

また別資本のブランドなのに同じ色柄の服が福袋に入っているというケースがSNSなどで報告されるようになりましたが、この理由は、福袋の中身の仕入れ先もしくはOEM(相手先のブランド名での製造請負)・ODM(相手先のブランド名でデザイン作りから製造まで請負)先が同じであるためです。

ブランド自体は全く別会社でも、福袋の商品の仕入れ先やOEM先、ODM先が同じであれば、同じ商品が入っていることは全く不思議ではありません。アウトレット店に並んでいる衣料品の何割かが「アウトレット店用に製造された新製品」というのとまったく同じ構造なのです。

これらのからくりが広まったことによって2010年代半ば以降は福袋の過熱人気も徐々に沈静化に向かいました。それでも風物詩の1つとして販売が続いていた店・ブランドも珍しくありませんでしたが、コロナ禍による自粛によって随分と多くの店・ブランドが21〜23年正月の福袋の販売を中止することになりました。24年正月は福袋販売を復活させる店・ブランドもいくつかあるようです。

■コーディネートされた洋服をまとめて買いたい人にはお得

「洋服の福袋はお得なのか?」と尋ねられることが時々あります。原価として考えるとそんなにお得ではなく値段相応の商品品質だといえます。

しかし、5枚くらいまとめて安値で服が買いたいという人にとってはお得な商材だといえます。また色・柄・サイズだけでなく、コーディネートも考慮してそろえられていることも多いので、1枚ずつコーディネートを考えながら買いそろえるよりは手間が省けます。

その辺りが理解できるなら決して損はしない商材だといえますが、福袋を買いあさって転売して大もうけができるようなおいしい商材ではなくなったということだけは認識しておく必要があるでしょう。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)