[画像] オナナ効果にライス対キーン!? アーセナル対ユナイテッドを深掘り

 今月3日にロンドンで行われたプレミアリーグ第4節のアーセナル対マンチェスター・ユナイテッドは、絶対的王者であるマンチェスター・シティへの挑戦権をかけた昨シーズンの2位と3位の対決となった。結局、試合はホームのアーセナルが3−1で勝利したが、見どころ十分な“イベントフル”な試合だったので深掘りしていこう。

■シティへの挑戦権

 昨シーズンの2位(アーセナル)と3位(ユナイテッド)の試合は、リーグ3連覇中のシティへの挑戦権を賭けた一戦とも見られた。無論、復活を遂げたリヴァプールやアンジェ・ポステコグルー新監督の元で躍進するトッテナムなど、他にも挑戦者はいるが、今季すでに勝ち点を取りこぼしているアーセナルとユナイテッドにとってはシティに食らいつくために絶対に負けられない大一番だった。

 試合は、互いの意地がぶつかり合い、白熱の好ゲームとなった。27分にユナイテッドが得意の鋭いカウンターからFWマーカス・ラッシュフォードが先制ゴールを決めると、アーセナルも直後に華麗なパスワークからMFマルティン・ウーデゴールが左足を振りぬいて同点に追いついた。

 後半に入るとVARが勝敗の行方を大きく左右することに。カイ・ハヴァーツがボックス内で倒れて一度はアーセナルにPKが与えられるも、VARとオン・フィールド・レビューの末に取り消し。88分には、再びユナイテッドの高速カウンターが発動してFWアレハンドロ・ガルナチョが決勝点を決めたかに思えたが、VAR検証でオフサイドとなり幻のゴールとなった。

 そして、このまま痛み分けに終わるかと思った後半追加タイム、アーセナルはCKから新加入のMFデクラン・ライスがニアポストを打ち抜いて移籍後初ゴールで勝ち越し。さらに怪我で出遅れていたFWガブリエウ・ジェズスがとどめの3点目を決めてホームチームが勝ち点3を手中に収めた。

 勝利したアーセナルは、唯一の4連勝スタートを切ったシティと2ポイント差の2位集団。一方のユナイテッドは今季2敗目を喫してしまい、11位まで順位を落としている。

■オナナ効果

 90年代後半から熾烈なライバル関係を築いていた両チームの一戦は、超高速テンポの激しい攻防が繰り広げられる…と期待していたサッカーファンには申し訳ないが、ビッグゲームにもかかわらず意外と落ち着いた展開となった。理由は単純明快だ。ユナイテッドのGKアンドレ・オナナがアーセナルのプレスを封じたからだ。卓越したボールさばきと冷静なプレー選択でセンターバックに交じってビルドアップに参加するGKオナナがアーセナルのハイプレスを無効化したのである。決して慌てることなく、ぎりぎりまで敵をひきつけてからパスを回し続けたことで、アーセナルは深追いすることができなくなり、試合のテンポが一気に減速した。

 現代サッカーは、以前のような体をぶつけ合って争う肉弾戦からチェスのような頭脳戦に変わってきたが、それでもフィジカル勝負はプレミアリーグの醍醐味の一つだった。それがオナナの加入により、今まで以上に戦術勝負にシフトするだろう。それが良くも悪くも“オナナ効果”である。

 この試合のアーセナルのファウル数は8回、ユナイテッドは7回だった。単純な比較はできないものの、「ピザ事件」と呼ばれた2004年10月の両者の一戦はユナイテッドが20回、アーセナルが24回もファウルをしており、ファウル数を見ても肉弾戦が減ったのは明白だ。少し寂しい気もするが、高い位置でパス回しに参加するオナナのプレーは違った意味で緊張感を提供している。

■キーンが大変なことに

 少し試合テンポは遅かったものの、それでも白熱したことに変わりはない。どうやらサポーターも熱くなったというか、熱くなりすぎたようで問題を起こしていた。ユナイテッドのOBで英国放送局『Sky Sports』で解説を務めるロイ・キーンに頭突きを食らわす不届き者がいたというのだ。『Daily Mail』紙によると、試合終盤にキーンがピッチサイドに降りるためにスタジアム内のエレベーターを待っていたところ、何者かに襲撃されたそうだ。幸い怪我はなかったが、顎と胸あたりに頭突きを受けたという。

 SNS上には、同じく『Sky Sports』で解説を務める元シティのマイカ・リチャーズが男性を取り押さえている映像が出回っており、警察も調査に乗り出している。ちなみに、この日の放送は彼ら2名以外にも8月に引退したばかりの元アーセナルのセオ・ウォルコットもゲストとして呼ばれていた。

■ライス対キーン

 キーンに頭突きをしたのはMFデクラン・ライスではないが、二人の関係が険悪なのは有名だ。というのも、ライスは過去にキーンの母国を裏切ったことがあるのだ。今はイングランド代表の主力として活躍し、今オフにウェストハムから1億500万ポンド(約190億円)でアーセナルに加入したライスだが、彼はアイルランド代表でもプレーした過去を持つ。祖父母がアイルランド出身のため、年代別代表はアイルランドを選択。そしてA代表でもアイルランドの親善試合に出場したのだ。しかしイングランド代表から誘いを受けて2019年からイングランド代表でプレーしている。

 ロイ・キーンがそれをどこまで根に持っているか分からないが、彼は事あるごとにライスに対して否定的なコメントを残してきた。今年3月には「今季の彼はあまり良くない。ゴールもアシストも足らない」と苦言を呈していた。さらに1億ポンドの移籍については、ライスの能力を認めた上で「アーセナルは払い過ぎだ。1億ポンドの価値はない」と吐き捨てていた。

 だが、二人とも偉大なプロである。そんな批評など気にも留めず、試合後にユーモアあるやり取りを披露した。ユナイテッド戦で決勝ゴールを決めたライスは『Sky Sports』のインタビューに登場すると自身のゴールについて「どうかな、ロイ?」とキーンに意見を求めた。するとキーンは、ボールがDFジョニー・エヴァンズに当たっていたことを指摘して「OG(オウンゴール)だ」と返した。

 さらに、『Sky Sports』が何度もゴールシーンを流すため、ライスが「流すのを止めてよ。ロイがうんざりしているよ!」と冗談を飛ばすと、キーンも笑みをこぼして「あれはオウンゴールだ!」と素敵なやり取りを披露した。

■高評価

 プレミアリーグの公式マン・オブ・ザ・マッチ(MOTM)にはブカヨ・サカが選ばれたが、アーセナルの公式HPの投票ではライスが群を抜いて得票数を集めている。移籍後初ゴールを決めたライスは地元メディアからも高評価を得た。『Football London』は同選手にウーデゴールと並びチーム最高の8点を付けて「前半は高い位置でインターセプトして流れを生み出した。後半は彼の見せ場が減ってチームも動きが遅くなった。だが、最後に肝心なところで仕事をした」と称えている。

 ロンドン紙『Evening Standard』も「堂々としたプレーから最後の最後にゴールを決め、本格的にアーセナルのキャリアをスタートさせた」と賛辞を送って8点を付けている。

 さてさて、今シーズン序盤の大一番はアーセナルが制したが、まだまだ先は長い。果たして、絶対的王者マンチェスター・シティに挑戦するのはどのチームなのか? 今後もプレミアリーグの熱戦から目が離せない。

(記事/Footmedia)