多くの企業が6月に定時株主総会を開いている。SNSで注目を集めているのが、キャラクターコンテンツを有する企業の総会だ。

任天堂やカバーなどでは、株を購入したファンから決算や会社経営とは無関係な質問があったと話題になった。コンテンツに対する感想や要望ともとれる質問があったとして、ツイッターでは「ファンであっても総会にくるなら株主として出席しろ」「ファンミーティングではない」などと非難する声もある。

会社の経営や決算内容に関する意思決定が行われる株主総会で、趣旨に無関係な質問をするなど、ファンの株主の行いが何らかの法に触れる可能性はあるのか。J-CASTニュースは2023年6月30日、企業法務などに詳しい今井俊裕弁護士に見解を尋ねた。

任天堂の株主総会で「スプラトゥーン」への「切望」語られる

ツイッターで特に注目を集めたのは23日に開かれた任天堂の株主総会だ。株主を称するユーザーが、スマートフォンのメモ帳をスクリーンショットしたとみられる画像6枚を添えながら、これらの内容を訴えてきたと投稿した。内容は、愛好するキャラクターの「冷遇の改善」を切望するといったものだった。

任天堂が公開した質疑応答にも記録がある。これに対し、古川俊太郎社長は「ゲームの仕様はさまざまな要素を総合的に勘案して決定しており、必ずしもご要望にお応えできるわけではありませんが、貴重なご意見として承らせていただきます」と回答したとしている。

ツイッターでは、会社経営や決算に関係のない内容であるとして、この質問に疑問の声が寄せられている。

そもそも株主総会とはどのような場なのか。取材に対し、今井弁護士は次のように説明する。

「株式会社とは、まず、その会社の経営内容に興味をもって、そして配当や株式譲渡益などの経済的リターンを期待して出資しよう、という株主がいます。とは言っても株主は経営の専門家ではないので、頑張って儲けてもらうように経営の専門家に経営を託します。この託された者が取締役です。このようなシステムをとる場合は、1年の総決算として経営内容について取締役から株主へ報告をしたり、経営者の入れ替え人事や会社経営の根本政策事項などについて、会社の出資者である株主の多数決で決定してもらうための会合が必要となります。これが株主総会です」

趣旨に関係ない質問をすることに問題はないのか

ファンが株主となった場合、株主として決議事項や報告事項について質問する権利は当然ある。ただし総会での質疑応答は、その株主総会の議題に関連することに限定されると説明する。

「特に定時株主総会は決算の報告がなされるので、経営に関することが幅広く質問される傾向にあり、会社側も幅広い質問に対しても誠意をもって説明することが多いです」

任天堂で行われたゲームに関する質問は、議題に関連するのか。また、企業はこれに答える義務があるのか。今井弁護士は「要望」とも受け取れるとして、次のような見解を示す。

「個別のゲームの仕様内容については、デザイナーの考えやマーケティングの結果なども反映されてはいるでしょう。しかしこれが任天堂という会社の決算内容やその他経営内容にどこまで関わってくるかと考えると疑問です。会社法的には説明する義務まで認めることは難しいとは思います。しかしこの質問に対しても、返答した経営者は誠意をもってそれなりに応えているように読めます」

今井弁護士は「株主が、その株主総会の議題とはおよそ関係ないことを質問したり、あるいは、仮に関係するとしても同一事項について繰り返して同様の質問をする、などした場合は、会社側は説明を拒否できる」と説明する。一方、株主がこのような説明義務のない質問を執拗に繰り返した場合については、「会社法にははっきりと明文で規定した条文はありません」という。

「しかし明らかに説明を求める権利の濫用ととれるような態様での行動であり、それが度を超している状況ならば、会議の秩序を守るためにも、何らかの制止措置を受けることもやむを得ないと思われます」

株主総会の抽選制に抗議...法的問題は?

さらにツイッターで物議を醸したのは、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を擁するカバーの株主総会だ。29日に開かれた総会の入場が抽選制で、「門前払い」されたする男性が抗議していたと話題になった。男性はホロライブの元VTuber・潤羽るしあに扮して、株主の入場を要求していたという。ツイッターに投稿された写真によれば、次のようなプラカードを手にしていた

「入れよう。会社を愛する株主を。カバー株式会社は株主総会を望む株主の入場とるしあを排除するな」

抽選制の株主総会に参加できなかったとする株主が、会場入り口で抗議することについて、何らかの法に触れる可能性はあるのか。

今井弁護士は「当日に会場の入り口付近での抗議行動が、どのような認定を受けるかはわかりません」と述べる。一方で、そもそも総会の抽選制が違法となる可能性があると指摘する。

「コロナ禍のもと、株主総会の会場へ入れる人数を制限して総会を開催しようとの動きがみられます。実際に、まず当日会場で出席希望する株主は事前登録を会社に対し行う、仮に事前登録者数が制限人数を超えた場合は抽選で会場入場者を決定する、という制度です。この制度について下級審の裁判例で適法であると判断された事例もあります」

しかし学者や専門家からは様々な意見が出ているといい、「このような扱いが絶対的に適法と判断されるとは現在言い切れない」と指摘。こうした背景を踏まえ、仮に総会の開催方法に問題があった場合、男性の行為はどのように見なされるのか。

「会社のやり方に違法性があったとしても、それに対抗するためならばどのような手段をとっても適法である、ということにはなりません。このあたりのところが法律とはわかりにくく、また、やっかいなところです」

「経営者などの役員からの説明内容をじっくりと聴くべき」

ファンであり株主でもある人が総会に参加する場合、どのような態度で臨むべきか。

今井弁護士は「まずは自分が出資している会社の経営者などの役員からの説明内容をじっくりと聴くべき」だと述べる。そのためには、事前に決算書の内容を精査したり、日常的に経営陣の不祥事問題などについて幅広くアンテナを広げたりすることが大事だという。

また今回は、会社に対する株主の要望や抗議などが話題になった。今井弁護士は総会前にできることがあると述べる。

「株主総会に先だって、他の株主からの理解や賛同を得るために自らが提案する議案を株主の招集通知に事前に記してもらう、とか、株主総会の当日にいきなり質問するのではなく、事前に質問状を会社へ送る、などの手段もあります。これら手段を効果的に使用することも検討してみるとよいと思います」