ユニゾの非公開化をめぐっては、かねてから法的疑義が呈されていた(記者撮影)

「ここまで踏み込んだ発言をするとは思わなかった」。5月9日に開催された、ユニゾホールディングス(HD)の債権者説明会。参加者の1人は、代理人弁護士の発言に驚いた。

その発言とは「前代表者、その他旧役員を含む経営陣に対する関与の度合いの事実関係を調査し、(中略)何らかの問題がある場合、法的請求も辞さないとの姿勢で取り組んでいきたい」というもの。説明会中盤、民事再生手続きについて解説する中で放たれた。

この発言により、ユニゾHDの破綻劇は新たな展開を迎える。直接の原因となった2020年の株式非公開化について、弁護団が手続きの妥当性を調査すると表明したためだ。調査結果によっては、非公開化を主導した旧経営陣が損害賠償責任を負う可能性が出てきた。

「EBO」は適切だったか

発端は2020年6月、ユニゾHDが非公開化にあたって用いた「EBO」という手法だ。従業員一同が自社の株式を買い取る手法で、国内ではユニゾが初めて採用した。

EBOのスキームはこうだ。まず、ユニゾHDおよび子会社の従業員が買収主体である「チトセア投資」を設立する。そして、アメリカの投資ファンドであるローンスターから買収費用として約2000億円を調達し、ユニゾHDの全株式を取得。こうして2020年6月、ユニゾHDはチトセア投資の完全子会社となった。

問題は、非公開化後にユニゾHDが買収費用の返済に走ったことだ。2021年3月期の有価証券報告書によれば、ユニゾHDはチトセア投資に対して2571億円の貸し付けを行っている。巨額の貸付金はチトセア投資を経由後、ローンスターへの返済に回された。

貸し付けする資金を捻出するために、ユニゾHDは不動産を多数売却することになった。財務も著しく悪化し、2021年3月末時点での現預金は412億円と、1年間で1200億円以上も減少した。

チトセア投資はユニゾHDの親会社である以外何らの事業も行っておらず、返済余力には乏しい。2000億円超の貸付金が焦げ付いていると考えれば、ユニゾHDは実質的に債務超過の状態にあった。

チトセア投資の返済能力に対しては、債権者からも疑義が持たれていた。ユニゾHDの社債権者である香港ファンドのアジア・リサーチ&キャピタル・マネジメント(ARCM)は2021年2月、ユニゾHDに対して質問状を送付。文書の中では、「(チトセア投資への貸し付けが)ユニゾの債権者に対する支払い能力を損なうものであったのではないか」と指摘していた。

対するユニゾHDは、ユニゾHDが不動産売却やホテル運営で上がった収益を配当金としてチトセア投資に支払い、チトセア投資はそれを原資に借入金をユニゾHDに返済することは可能だとしてきた。

倒産後の債権者集会で代理人弁護士は「チトセア投資の保有資産はほぼユニゾHDの株式のみで、貸付金はほぼ回収の見込みがない」としている。ARCMの懸念が的中した形だ。

反故にされた合意

チトセア投資への貸付金をめぐっては、別の火種もくすぶっている。EBOに先だってユニゾHDが結んだ債権者保護に関する「合意」が、反故にされたという事実だ。

2020年2月、ユニゾHDはチトセア投資との間で合意書を結んだ。ユニゾHDからチトセア投資に対して資金の移動を行う場合、借入金や社債に対して「担保差入れその他の方法により債権保全を図るか、又は、期限前弁済を行うことに合意する」という内容だ。チトセア投資への貸し付けによってユニゾの財務が悪化し、既存債務の返済に支障をきたせば、合意に反する。

合意書違反についても、すでに債権者から指摘が挙がっている。

2021年2月、ユニゾHDに対して一通の内容証明郵便が送付された。送り主は香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメント。保有するユニゾHDの社債について、期限前償還を求める内容だ。いわく、ユニゾHDがチトセア投資に貸し付けを行ったことで、「期限前弁済を行うことに合意する」という前述の合意書の内容が成就。社債権者は期限前償還を求めることができるという主張だ。

ユニゾHDは「合意書は債権者保護を(ユニゾHD自身に)尊重させるものであり、債権者に対して具体的な権利を取得させることが目的ではない」として、要求を拒否した。その後も議論は平行線をたどり、2022年11月、オアシスはユニゾHDに対して、訴訟提起時点で保有していた25億円の社債の期限前償還を求める訴訟を提起した。

訴状の中でオアシスは、「証券市場に本件合意書を開示して債権者保護施策の存在をアピールしておきながら、買収が実現するや、かかる債権者保護施策を実行しない被告(ユニゾHD)の態度は、市場に対する信用を裏切り、原告(オアシス)らのように開示を信頼する立場にある者を騙すに等しい」と指弾している。

旧経営陣はユニゾを去ったが

すでに複数の疑義が呈されているEBO。9日の債権者集会では、債権者から「(チトセア投資への貸し付けが)関係法令に照らして妥当だったのか、回収可能性がないといつ分かったのかは重要な問題だ」と指摘があった。代理人弁護士も「しかるべく進めて参りたい」と応えた。


債権者向け資料には、旧経営陣を含む関係者の責任所在を調査する旨が明記されている(記者撮影)

今後、弁護団はEBOにまつわる金額や契約関係、意思決定プロセスについて調査し、損害賠償請求の可否を検討する構えだ。ユニゾHDの小崎哲資前社長を含む当時の取締役に加えて、弁護士や監査法人、買収費用の拠出やユニゾHDに役員を派遣していたローンスターも調査対象となる可能性がある。

ユニゾHDおよび子会社の取締役、監査役、執行役員は、2020年に全員が辞任・退任している。EBOを決議した当事者としての説明責任がどこまで果たされるか、債権者は固唾をのんで見守っている。

(一井 純 : 東洋経済 記者)