日産自動車と仏ルノーによる資本関係の見直しに向けた協議で、主要なテーマとなっていた共同知財利用問題に方向感が出てきた。

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 ルノーは22年3月、EV車事業として「アンペア」、エンジン車事業として「ホース(仮称)」という新会社を設立することを発表。同年9月には、11月に投資家説明会の開催もすると予告していた。社運をかけた一大プロジェクトに必要な資金は、投資家や協業企業から集めるだけでは心許ないから、ルノー自体がその多くを負担する必要に迫られた。

 そこで目をつけたのが、20数年前に日産を支援するために保有した日産の43%もの株式だ。支援した当初はともかく、日産の業態が回復するに従って、日産が保有するルノーの株式が15%だったことが、両社の力関係に歪があると指摘するノイズとなっていた。「関係を対等化するため」という大義名分に違和感はない。

 交渉の糸口を持たなかった日産にとっては、降って湧いた暁光のようなものだ。そこでルノーと日産は、ルノーが保有する日産株式の一部(28%程度か)を、売却するための協議を始めていた。

 日産はルノーが考えていたよりも、ずっとタフな交渉相手だったに違いない。日産が2000年以降に取得したEV関連の特許数が2070件であるのに対して、ルノーのそれは327件止まりだ。日産では、次世代の全固体電池で航続距離を2倍以上に伸ばし、充電時間を現在の3分の1に短縮することを目指した研究開発が進められている。EV車事業を立ち上げるルノーにとっては垂涎のテーマである。

 逆に、ルノーが大胆な業態の変更を可能にするポイントは、中国自動車大手の浙江吉利控股集団からの出資を受けて新会社を設立することだ。予定の新会社「ホース」は、エンジンや駆動装置、ハイブリッド車(HV)を開発、生産することを主要な事業目的としている。

 プライド高い欧州の名門自動車メーカーが、これまで主力としてきた事業で新興の中国企業と折半(ルノー・吉利各50%出資)で設立する。当初は吉利が過半数を超える出資を行うことも検討されていたようだが、経営権を吉利に握られて製造ノウハウがダダ漏れになることを嫌った日産が、押し戻したと伝えられていた。

 時間がないルノーと慌てる必要のない日産の交渉は、2カ月ほどの曲節を経た末に、共同保有するHVなどの知的財産は、新会社ホースでの利用を制限する方向で大筋の合意に至った。

 当てが外れた吉利の思いはともかく、ルノーのプランは大きく進展することになる。22年3月に構想が公表されてから既に10カ月を経過し、投資家募集スケジュールも大幅に遅れているルノーにとって大きな関心事は、日産との合意成立後にどの程度の資金が調達できるかだ。ちなみに、22年9月末の終値が460.2円だった日産の株価は、2023年に入り、410〜420円程度で推移している。