東京大学の学生は日ごろ、どんな本を読んでいるのか。「プレジデントFamily」編集部が、東大生協駒場書籍部に聞くと、『暇と退屈の倫理学』など東大の先生が執筆した書籍のほか、漫画、『すべてはモテるためである』のような“良書”もロングセラーになっていた――。(前編/全2回)

※本稿は、『プレジデンFamily2022年秋号』の一部を再編集したものです。価格などは9月の雑誌発売時のもの。

■最も売れているのは哲学書『暇と退屈の倫理学』

東京大学の学生は、ふだんどんな本を読んでいるのか。学生にとって、最も身近な駒場キャンパスの東京大学消費生活協同組合(東大生協)にお邪魔した。

【駒場生協売り上げランキング】※集計期間:2021/6〜2022/7
1   暇と退屈の倫理学
2   現代思想入門
3   スバラシク実力がつくと評判の微分積分キャンパス・ゼミ
4   ONE PIECE 巻百二
5   呪術廻戦 19
6   すべてはモテるためである
7   TOEFL®テスト英単語3800
8   人新世の「資本論」
9   思考の整理学
10  入門 現代の量子力学
※教科書は除く

まずは東大生協の中核を担う書籍売り場へ。入り口を入ってすぐ目につくのは、東大に関連するコーナーだ。

國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(新潮文庫)

「東大の先生が書いたものや東大をテーマにしたものなど、やはり東大に関係のある本はよく売れますね。『フェミニズムってなんですか?』の著者の清水先生は東大の先生ですし、『暇と退屈の倫理学』の國分先生は昨年、駒場キャンパスに赴任されたばかり。『東大生となった君へ』は新入生を迎える春には、必ず売れる新書です」

そう話すのは、駒場書籍部店長の足立裕太さん。

「『問題解決のための「アルゴリズム×数学」が基礎からしっかり身につく本』(米田優峻・技術評論社)など現役東大生の書いた本も売れています。同じ東大生が著者なので、思考回路が似ているのでしょうね。また数学系の本では、3年前に発売された、学生に馴染みの深いチャート式シリーズ『大学教養微分積分』(数研出版)も最近の売れ筋です」

■『論文の教室』『入門現代の量子力学』が売れ続ける

『東京卍リベンジャーズ』のパロディーである『東大リベンジャーズ』(講談社)という漫画も売れている。

『プレジデントFamily2022年秋号』(プレジデント社)

「東大OBが監修しただけあって、東大あるあるが満載。在校生はもちろん、これから東大を目指す高校生も面白く読めるでしょうね」

実は漫画も売れているのが特筆すべき点。

「ジャンプ派が多く、発売日にはわっと売れますし、『ONE PIECE』や『呪術廻戦』も書籍のランキングの上位に入っています。東大生にも、漫画はよく読まれています」

東大生協らしいのは、内容が評価されている“良書”が売れ続けていること。

「『論文の教室』『すべてはモテるためである』『思考の整理学』などは、まさにそういった本ですね。またTwitterから火がついた『入門現代の量子力学』も発売当初から売れています」

戸田山和久『最新版 論文の教室 レポートから卒論まで』(NHK出版)

そのほか英語関連の本も、コンスタントに売れている。

近年、書籍購入費は減っているといわれるが、東大生協の場合は、そうでもないようだ。

「入門書や概説書などの初心者向けのものだけでなく、しっかりと読めて自分に返ってくる本であれば、1、2年生でも買っているという印象です。必要な本に出すお金は惜しまないし、買うほどでなければ、図書館で借りているようですね。そのあたりは効率よく、お金を必要なところに使っているという気はします」

以下、主な本を紹介していこう。

■AV監督によるモテるための指南書も売れている

●最も売れているのは哲学書1位

『暇と退屈の倫理学』國分功一郎・新潮文庫(新潮社)

暇と退屈について、人類史や経済史など歴史的な視点から分析した、今、東大生協で一番売れている本。「日常、何げなくすっと頭の中で流れてしまうことを深く掘り下げていくと、考えもつかないところにたどり着ける面白さを味わえる本です」(足立さん、以下同)

●毎年、春に1年生に人気の本

『最新版 論文の教室 レポートから卒論まで』戸田山和久・NHKブックス(NHK出版)

初版から20年にわたって親しまれている論文・レポートの書き方手引書の最新版。「主人公の作文ヘタ夫くんが先生の指導を受けて、どんどん論文がよくなっていく構成。悪い文章を理解しながら読み進められます」

●ここ数年で売り上げが伸びた一冊

『すべてはモテるためである』二村ヒトシ・文庫ぎんが堂(イースト・プレス)

二村ヒトシ『暇と退屈の倫理学』(イースト・プレス)

AV監督によるモテるための指南書。「見た目だけでなく、マナーなど人間として大切なこともモテにつながっているとわかります。意外と東大生は気にしているのか、ここ3、4年で売れています」

●英語 TOEFL本が売れている

『TOEFL®テスト英単語3800』神部孝・旺文社

TOEFLテストで出題される3800語を4つのランクに分類した単語集。「TOEICだけでなく、学術的な英語能力をはかるTOEFL 関連本が売れていることから、留学を見据えて、学問としての英語力を高めようという学生さんたちの姿勢が見られます」

●数学 大学数学の定番解説書

『スバラシク実力がつくと評判の微分積分キャンパス・ゼミ』馬場敬之・マセマ出版社

「効率的に点をとるための参考書です。講義口調で書かれた解説は丁寧で、2色刷りで視覚的にも見やすいですね。同じシリーズで演習編もあるので、セットで買う学生さんも多いです」

■安定して人気『ONE PIECE』『呪術廻戦』

●コミック 一番人気の漫画はジャンプ!

『ONE PIECE 巻百二』尾田栄一郎・ジャンプコミックス(集英社)

海賊王を目指すルフィを主人公に、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をめぐる国民的人気の海洋冒険漫画。「巻数が多い長編は、最新刊とはいえ売れ行きがにぶくなりますが、これは安定的に売れています。『呪術廻戦』も人気です」

●物理 ツイッターから火がついた!

『入門 現代の量子力学 量子情報・量子測定を中心として』堀田昌寛・講談社

量子力学の基礎から、量子技術の応用まで網羅。「著者の量子力学や物理に関するTwitterのつぶやきや、それに関するやりとりを踏まえて生まれた一冊。SNSで情報を得ている学生も多く、想像以上に売れました」

●東大関連

田坂広志『東大生となった君へ 真のエリートへの道』(光文社新書)

『フェミニズムってなんですか?』清水晶子・文春新書(文藝春秋)

フェミニズムにおける性や結婚などをトピックごとに学べる。「東大では、フェミニズムやLGBTに関する理解を深める授業が学生に人気。この本にはフェミニズムをニュートラルにとらえて理解することの大切さが書かれています」

『東大生となった君へ真のエリートへの道』田坂広志・光文社新書(光文社)

真のエリートとしてどう歩んでいくか、実社会における優秀さとは……。東大卒の著者による現役東大生におくる本。「大学入学がゴールではなく、今後どう生きていくかをあらためて考えてほしくて、春には必ずおすすめしています」

(プレジデントFamily編集部 文=池田純子 撮影=榊水麗)