部下への指示が曖昧になっていませんか? 具体的に指示を出すためのタスク管理方法を紹介します(写真:PIXTOKYO/PIXTA)

「しっかりと気合を入れろ」「積極的にいけ」「スピード感を持て」――。部下に対してそんな曖昧な指示を出していないだろうか? こういった昔ながらの精神論や心がけ、そして「ぼかし表現」では、いつまでたっても業績も部下のモチベーションも上がらないと指摘するのがコンサルタントで『優れたリーダーは部下を見ていない』の著者である横山信弘氏だ。

これらの曖昧な指示の代わりに必要な“タスク分解”スキルについて聞いた。

リーダーの指示が曖昧すぎる

とくに部下の数が多い場合、1人ひとりの様子を細やかに把握することは不可能に近く、その結果、リーダーは「部下たちが思うように動いてくれない」、部下たちは「上司が現状を理解してくれない」と不満を募らせる結果になります。

そんな問題を解消するのが、「人」から「タスク」への視点の転換です。
タスクとは、仕事をチームの目標(ゴール)からブレークダウンし、スケジュールに記入できるほどの作業や課題の最小単位に分解したもの。

部下たちの様子を気にするよりも、この“タスク”に目を向けることで、業績と部下たちのやりがいの両方をアップさせることができるのです。

この“タスクをサクサク片づけるチーム”、略して「サクタスチーム」と対極にあるチームを、私は「グズタスチーム」と名付けています。

ぐずぐず言って、タスク処理を先延ばししてばかりいるチームのことです。あなたのチームはサクタスチームですか? グズタスチームですか?

まず、グズタスチームとはどんなものか。次の会話例を読んでみてください。

これは、リーダーが新規のお客様の開拓に関してメンバーとディスカッションしている様子です。

リーダー:「今期の方針は新規開拓だったよな。目標管理シートにも書いてあるけど、いったいどうなってるの? 先月も全然ダメだったじゃないか」
メンバーA:「それはわかっていますけど、なかなか簡単じゃありませんし」
リーダー:「簡単じゃないと言ったって、Cを見ろよ。ちゃんと目標達成しているだろ」
メンバーA:「Cとは管轄エリアが違いますし」
リーダー:「管轄エリアの問題か? それにしては残業が多いじゃないか。いったい何をしてんだよ、新規のお客様が増えないのに」

メンバーA:「既存のお客様の対応に追われてるんです」
リーダー:「何のためにアシスタントがいるんだよ。アシスタントを雇ったのに、全然残業が減ってないじゃないか」
メンバーA:「そんなこと言われたって……。いろいろあるんですよ」
メンバーB:「ちょっと待ってください。そもそも私は目標が高すぎると思うんですけど」
リーダー:「何だと?」
メンバーB:「昨年だって目標達成できなかったし、にもかかわらず昨年対比10%アップって、意味わからないんですよ」
メンバーA:「私も同じ意見です。みんなそう言ってますよ。目標が高いって」
リーダー:「よく言うよ、お前ら。今期こそは達成しますと年初に宣言してたじゃないか」
メンバーA:「でも、今どきノルマ主義って、おかしいですって」
メンバーB:「そうですよ。ノルマ廃止にしたほうが業績がよくなったという会社もあるそうですから」
リーダー:「そんなに文句あるんだったら、俺に言わず、社長に言えよ。とにかく、いつでも相談に乗るから、最後まで諦めんなよ」

どうでしょうか。読んでいて苦痛だったかもしれませんが、この会話文でもう明らかでしょう。

グズタスチームの特徴は、無駄な会話がとにかく多いということです。ですから、例文を書こうとすると、このようにだらだらと長くなります。

リーダーの指示は曖昧ですし、メンバーもやるべきこと(タスク)がわかっていません。

ですから、こういうチームだと、だいたいメンバーは次のような愚痴をこぼします。「目標が高い」「そもそもこの目標って、やる意味があるのですか?」と。

チームである以上、必ず目標があります。目指すべきゴールがあります。目標がないのであれば単なる「集団」であり「群集」です。

本来の目的を忘れ、自らの存在意義さえ否定してしまうから、グズタスチームは厄介です。「ぐずぐず」がいっこうに収まりません。

スムーズなタスク処理を阻む「ぼかし表現」

タスクをサクサク片付けるためには、仕事を具体的なタスクに分解するスキルが必要です。しかしながら、私どもが支援した企業の多くの中間管理職、チームリーダーたちは、初めはそれができませんでした。昔から「ぼかし表現」を使うことに慣れていたからでしょう。

精神論や心掛けはもちろんのこと、「ぼかし表現」ばかり言っていては、いつまでたっても具体的なタスクに落とし込むことができません。

それではここで、グズタスチームがよく使う表現9つを列挙してみましょう。

〈代表的な精神論〉
● 気合を入れろ
● 根性で乗り切れ
● 固くなるな、力を抜け

〈代表的な心がけ〉
● 感謝する気持ちを持て
● 日々精進だ
● 謙虚さを忘れてはならない

〈代表的なぼかし表現〉
● 徹底的に……
● 積極的に……
● スピーディーに……

これらを組み合わせると、次のような感じになります。

「10月から新しい期がスタートする。今期は目標未達成に終わったが、来期はしっかりと気合を入れて目に見える結果を出していきたい。部内のコミュニケーションをもっと活性化して、何事も積極的にいこう。いいな」

このようなことをリーダーが言うと、「はい!」と部下たちは返事をすることでしょう。

訓示だけではマネジメント機能を果たしていない

そしておそらく、次のように言っても、

「じゃあ、鈴木君の課は、新規の顧客開拓を徹底するように。佐藤君の課は、商品開発だ。もっとお客様に評価されるような商品をつくり、テコ入れしていこう。企画部の部長も全面的に支援すると言ってくれている。10月からはスピード感をもってやっていこう。頼んだぞ」

きっと、また「はい!」と返されることでしょう。どこにでもありそうなリーダーからの訓示ですよね。

しかし訓示だけでは、マネジメントの機能を果たすことはできません。もちろん目標が達成されることもないでしょう。

先述の例でいうと、1カ月が経過しても、コミュニケーションは活性化せず、新規開拓も全然進まず、日々の業務の忙しさもあり、商品開発も停滞し、企画部の部長はいつもどおり「最近どう?」と声をかけてくれるぐらいで「全面的な支援」とはほど遠い体たらくです。

私は企業のリーダーたちに、「抽象的なぼかし表現ばかり使わず、タスクに分解してください」とアドバイスします。すると必ず戻ってくるのが、「そこまで言わないと、今の子は理解できないんでしょうか?」という反論です。なるほど、そう反論するなら私も尋ねてみましょう。

「それなら部下の方々にそのような表現を使わなくてもいいですが、あなたが期待している姿を具体的に私に説明してもらえますか。まず『お客様に評価される商品開発』というのは、具体的にどんなプロジェクト、タスクで構成されていますか?」

さあ、これを読んでいるあなたも考えてみましょう。どうでしょうか? このように詰め寄られると、ほとんどの人が返答に窮します。

「新規の顧客開拓の徹底とは、具体的にどういうことですか? どのような定義の企業に、どれぐらいの回数、どのようなアプローチをすることで『徹底した』と言えるのでしょうか?」

具体的に言えないリーダーがほとんどです。「ニュアンスでわかるじゃないですか」と言う人もいますが、いや、なかなかそうはいきません。難しいでしょう。

分解されたタスクが正しいかどうかは別の話です。ぼんやりしたものを「具体化」するのにはストレスがかかるということを、私は知ってほしいのです。

「抽象的なものを具体化する」ということは、まるでお気に入りのコーヒーカップを壊すようなもの。ストレスがかかるのは当然ですよね。

タスク分解にはトレーニングが必要

具体的には、どういうことでしょう?

タスクは「インプット→処理→アウトプット」という単純な手順で表現できます。なので、どのような成果(アウトプット)を出すために、どのような情報(インプット)が必要で、どのような判断基準で処理すればいいのか。

これがわかれば、最小単位の作業(タスク)に落とし込むことも容易にできます。あとは慣れですね。

例えばスペイン料理の「パエリア」を作ろう!と思い立ったとします。しかし一度もパエリアを作ったことがない人なら、何から始めるでしょうか。

まずはインプットする情報が必要ですよね。ではどんな情報が必要でしょう? 必要なのは「パエリアのレシピ」という入力情報です。ですので、「パエリアのレシピを調べる」という具体的なタスクに落とし込むことができます。

この後、「サフラン」という香辛料が必要だとわかったとき、その香辛料を手に入れるという成果(アウトプット)を手に入れるには、どんな情報が必要かを考えれば、次のタスクが明らかになります(サフランがどこに売っているのかという手がかりさえわかれば、期待する成果が手に入ります)。

最小単位のタスクに落とし込む習慣を意識する

タスク分解することは「スキル」ですから、当然のことながら日頃からのトレーニングが必要です。


教えられてすぐにできることではないので、どんなことでも、「タスクに落とし込むとどうなるのかな? いくつのタスクが発生するだろうか?」と考えるクセをつけておきましょう。

そうすれば、結局は突き詰めると、「インプット→処理→アウトプット」の3つでタスクは構成されていると“分かって”きます。昔から「分(わ)けると分(わ)かる」と言われていますが、まさにそのとおりですね。

みなさんも、今一度ご自身が「ぼかし表現」を使っていないか自問自答し、最小単位の作業(タスク)に落とし込む習慣を意識してみてください。