都内のファミリーマート店舗では、PB商品である豆腐や納豆などの陳列が増えている(記者撮影)

都内のとあるファミリーマート。店内を歩くと、緑色のパッケージに入れられた豆腐や納豆、こんにゃくが目に飛び込んでくる。

同社のプライベートブランド(PB)商品である「お母さん食堂」では、豆腐などの賞味期限が短い素材系の食品が緑色のパッケージで、ビーフシチューやハンバーグなど調理済みの料理はえんじ色のパッケージで展開されている。

豆腐などのPB商品は以前から店頭に並べられていたが、ここまでの存在感はなかった。この店舗では9月に入り、うどんやサンドイッチなどを減らし、緑色の「お母さん食堂」の陳列を増やしている。

冷凍食品と総菜に商機

新型コロナウイルスの感染拡大後、コンビニ各社は商品戦略や売り場の変革を加速させている。

セブン-イレブン・ジャパンの高橋広隆商品本部長は、「コロナ前の感覚を(感染が拡大した3月ごろから)2、3カ月経つうちに捨てた。芽が出ている分野には集中的に水をやって、すぐに花を咲かせる」と話す。

高橋氏の言う「芽が出ている分野」とは冷凍食品と総菜だ。7月には冷凍食品の1店舗当たりの売上高は前年同月比で1.5倍に、サラダやカップに入った総菜は一部地域で同2倍にまで伸びた。以前から進めていた冷凍食品売場の拡大などのレイアウト変更とあわせて、冷凍食品や総菜の商品開発と改廃を一層強化する構えだ。

コンビニの顧客はこれまで、自宅そばや駅の近く、職場付近など複数の店舗を利用していた。よく購入される商品は、移動中でも食べやすい、おにぎりやサンドイッチが主力商品だった。

しかし、新型コロナウイルスが拡大した3月以降、コンビニ各社の既存店売上高は減少傾向が続いている。2009年から「近くて便利」を掲げ、ファミマやローソンとの差をつけている業界首位のセブン-イレブンですら前年同月比マイナスが続いている。

既存店売上高の減少は客数の減少が原因だ。外出自粛によりまとめ買いをする顧客が増えて客単価は伸びる一方、通勤途中にコーヒーを買うといった需要がなくなり、来店頻度が減少した。ローソンのPonta会員のデータで2020年2月と6月を比較すると、店舗から半径354メートル以内(徒歩5分圏内)に居住する人の来店数は2%増加しているが、店舗から自宅の距離が離れるほど来店頻度が落ち込んでいる。

客単価を上げる取り組みも

都心部のオフィス街や観光地での販売減少が大きく、住宅地での売り上げ増加ではカバーできなかった。詳細な数字は非公表だが、コロナ後は売れ筋商品も変化しており、各社ともおにぎりやパンなどの販売減少によって打撃を受けている。

セブンは客単価を上げる取り組みも進めており、グラタンのサイズを小さくし、サラダと組み合わせて購入してもらえるような販売実験を行っている。新型コロナで節約志向が高まるかと思いきや、ハンバーグなどの高単価PB「セブンプレミアムゴールド」の販売も増えている。

セブンの高橋商品本部長は「外食は控えるが美味しいものを食べたい層は一定程度いるので、(コンビニでもとにかく安価な商品を求める)価格競争にはならない。家で消費するための買い物ではバスケットサイズ(客単価)が広がっており、1回で買い物を完結できる陳列や商品提案をしていく」と話す。

ファミマとローソンは、高価格おにぎりなど中食商品のテコ入れに加え、コロナ禍で伸びている冷凍食品、豆腐や納豆などの日配品や総菜の強化を進める。

ローソンの藤井均商品本部長は「コロナ前はコンビニらしいおにぎりなどに注力し、(日常使いをイメージさせる商品に)あまり力を入れていなかったが、顧客の望んでいる商品が(新型コロナが拡大してから)変化している」と分析。生鮮野菜の販売や冷凍フルーツ、冷凍野菜などを強化していく。

こうした売れ筋商品の変化に伴い、コンビニの売り場も陳列商品が大きく変化している。

ファミマでは9月7日から順次、日常使いされる店づくりを目指して売り場の構成変更を進めている。冒頭の都内の店舗のように、「お母さん食堂」ブランドやオクラやナスなど調理前の冷凍食品売り場を拡大する一方、調理麺や調理パン、雑誌売り場などを縮小する。

ローソンは、家飲み需要が高まるチューハイやハイボールなどの陳列量を増やす実験を一部店舗で開始した。東京都足立区のある店舗では、飲料売り場でソフトドリンクとお酒を4対3の割合で並べていたが、9月に入りその割合を逆転させた。ペットボトル飲料のほかにも、チルド飲料を減らしてお酒の陳列量を増やす実験をしている店舗もある。

難易度が上がるコンビニ勝利の方程式

加盟店の中には自主的に先行してお酒の陳列量を変えた店舗もある。ローソン全体では新型コロナの感染拡大以降、チューハイの売上高が前年同期比で1〜2割増えているが、陳列量を意図的に増やした店舗では同5割増にのぼったという。

新型コロナにより、オフィス街の立地でも近隣にある高層マンションの住民の利用が実は多いなど、店舗ごとの細かな違いが判明した。セブンの高橋商品本部長はコロナ前から考えていたが対応は遅かったとしたうえで、「(店舗運営を)マネジメントしやすいワンフォーマットにすることでセブンは成長してきたが、住宅地や周辺人口の年収、地域など多様なものさしで立体的に考えていく。コロナで意識を変えざるをえないと覚悟が決まり、これまでの社風からバチッと音を立てて変わった」と話す。

今後コンビニ各社が見据えるのが、買った商品を持ち帰って食べる中食市場だけでなく、家で調理して食べる「内食」市場、さらには「外食」市場との競合だ。

セブンの高橋商品本部長は「新型コロナによるニューノーマルで、『来るぞ来るぞ』と言われていたものが一気に来た。デリカ(総菜)や豆腐、納豆などを増やしていなかったらセブンはだめになっていた。内食、外食の受け皿となり新しい客を呼びたい。内食、中食、外食の全部を取り込まないと生き残れない」と危機感をあらわにする。

ファミマの佐藤英成商品・マーケティング本部長は外食大手の朝昼でのテイクアウトの動向を注視している。飲食店がデリバリーを拡大するとなれば、消費者の手元まで届ける「ラストワンマイル」の配送でコンビニは劣勢になりかねない。総菜の品ぞろえ強化を続けてきたスーパーだけでなく外食が中食市場と重なってきたことで、「食全部が競合になる」(佐藤氏)。ローソンの藤井商品本部長も「小売りはいかに顧客にアジャストするか(が勝負)。需要をより早くキャッチして売り場に生かしたい」という。

これまで得意としてきた通勤途中などの利用が減ったうえに、内食、中食、外食の境界が薄くなっている。業界外のライバルが増え、従来作り上げてきた成功の方程式も通用しない。「コンビニが勝つ」難易度は、コロナ前よりも高くなっている。