保護者や学校関係者がPTA会費を横領してしまうケースが起きている。

弁護士ドットコムには「PTA会費を横領してしまった」という相談が複数寄せられている。横領した会費の額は100万円前後から500万円をこえるものまでさまざまだ。生活費に困り、手を出してしまったというケースが大半を占める。

多くは、会費を横領した人の配偶者や(義)両親がすでに全額を返済しているという。しかし、たとえ全額を返済したとしても、横領罪で逮捕されるのではないかという不安を抱えている人も少なくない。離婚問題に発展するケースもある。

中には刑事事件に発展するなどして、表面化するものもある。

2019年6月には、元PTA会長が300万円を使い込み、飲み食いやギャンブルに使っていたことが報じられた(埼玉新聞2019年6月21日)。また、学校長や教職員、事務員などの学校関係者が、PTA会費の横領が原因で懲戒免職されたと報じられることもしばしばある。

中には、刑事事件になったケースもある。2018年6月には、PTAの会計を担当していた女性が業務上横領の疑いで逮捕されたことが報じられた。報道によると、女性は約2850万円のPTA会費を「生活費や子どもの学費に使った」という。

●全額返済したとしても、逮捕される可能性はある?

横領したPTA会費を全額返済したとしても、その後に横領罪で逮捕される可能性はあるのだろうか。吉田要介弁護士は、次のように説明する。

「PTA会費を横領した時点で横領罪は成立しています。そのため、横領したPTA会費を全額返済したとしてもその罪が消えることはありませんので、横領罪に問われる可能性はあります。

もっとも、逮捕することの目的は、逮捕後に勾留することを想定していることから、通常は被疑者が逃亡したり、罪証隠滅したりすることを防ぐことにあります。

横領したPTA会費を全額返済したことは、自身の罪を認めているからこその行動であるといえます。そのため、あえて逃げたり、罪証隠滅をしたりする可能性は低いと思われますので、逮捕される可能性は少ないと思われます。

ただし、逮捕されなくとも刑事処罰される可能性がなくなるわけではありません。在宅捜査となり、事件記録などの書類が検察官に送られ(いわゆる書類送検)、在宅起訴される可能性はありえます。

また、横領したPTA会費の全額返済に際し、PTA側と示談が成立し、示談の中でPTA側が刑事責任を問わないという内容が盛り込まれていれば、被害者が刑事処罰を望んでいないことから横領罪に問われる可能性はかなり少ないと思います。

逆に、横領したPTA会費の全額返済がなされていても、被害者であるPTA側の被害感情が強く、刑事処罰を望んでいる場合は、横領額が少額でない限り、横領罪に問われる可能性があると思われます」

●民事上も「不法行為」にあたる

吉田弁護士によると、PTA会費を横領した場合、刑事上の責任だけではなく、民事上も「不法行為」に該当することから、損害賠償責任を負うことになるという。

「PTA側は横領されたPTA会費の賠償を求めて、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。そのため、横領した人に対して、横領したPTA会費の任意の返還を求め、任意に返還されない場合は訴訟を起こしてくることが想定されます。

また、先ほども述べたように、刑事上は横領罪に該当しますので、刑事告訴してくることが想定されます。

刑事告訴された場合、横領したPTA会費が返済されていなければ、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕される可能性もあります」

【取材協力弁護士】
吉田 要介(よしだ・ようすけ)弁護士
千葉県弁護士会所属。日弁連子どもの権利委員会事務局次長、千葉県弁護士会刑事弁護センター委員。法律を「知らないこと」で不利益を被る人を少しでも減らすべく、刑事事件、少年事件、家事事件、一般民事事件等幅広く手がけ、活動している。
事務所名:ときわ綜合法律事務所
事務所URL:http://www.tokiwa-lawoffice.com