新型コロナウイルスによる外出自粛で始まった採用でのウェブ面接。オンライン上でのやり取りで、応募者の資質を見通す方法を紹介する。
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■面接で、ヤバい人は「たった2つの質問」で見抜ける!

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年は合同説明会や企業説明会、対面での採用面接が相次いで中止となり、就活市場は大混乱に陥った。企業は感染防止の観点から説明会をオンラインに切り替え、採用活動も新卒・中途を問わず、ウェブ面接にシフト。これまで一部のビジネスマンの間で活用されていたウェブ会議サービス「Zoom(ズーム)」などを、採用現場で活用する企業が相次いだのである。

採用担当と応募者、双方ともに慣れぬ環境のなか、企業がウェブ面接で失敗しないためには、どんなポイントに注意すればいいのか? 独自の組織マネジメント理論でコンサルティングを行う識学の新規事業開発室室長・冨樫篤史氏と、武蔵野学院大学で「就職率100%」のゼミを12年もの間率い、日本パーソナルコミュニケーション協会代表理事も務める行動分析心理学者の吉井伯榮氏に話を聞いた。

まず吉井氏は「通常なら経済団体連合会が告知している3月1日に説明会が解禁になり、東京ビッグサイトなどの大規模な会場で始まるのですが、20年はそれができなくなりました。そして、企業も戸惑いながら、いきなりオンラインを導入することになったのです。当初、試行錯誤はあったものの、瓢箪から駒ではないですが、使い勝手がいいことに気づきました」と話す。

一方で冨樫氏は、ウェブ採用は自社の求人に興味や関心を持っている学生を集める「母集団形成」に大きな効果を発揮したと分析。これまでの母集団形成のツールは就職サイト・SNS、合同説明会、学内セミナー、大学・研究室訪問などだったが、年々減る働き手のなかからどうやって優秀な人材を見つけ採用していくかは企業の大きなテーマだった。ここにウェブ採用が加わって、意外な効果をもたらしたという。

■日本の各地にいる応募者が気軽にエントリーできる

「ウェブでの説明会や面接で、日本の各地にいる応募者が気軽にエントリーできるようになり、募集範囲が一挙に広がりました。そして、密度の濃い母集団形成を効率的に行うことができることから、多くの企業の人事部がウェブ採用をポジティブに捉えています」(冨樫氏)

実は、遠隔地にいる応募者にとってもウェブでの就活は、交通費、宿泊費、時間などの節約や効率化に役立っている。

「北海道から九州まで、就活で彼らが出費する金額は、飲食代も合わせると11万〜23万円もかかる。これがほとんどいらなくなるので、応募者にも利点が大きい。採用のグローバル化が進めば、世界中の応募者にウェブでアプローチできるようになり、企業にもメリットが大きいのです」(吉井氏)

ウェブでの面接で人数をこなせるようになった点も見逃せない。近年は大企業でさえ人事部は10人規模のところが多く、その人数で数千〜1万人以上の応募者に対応しなければならない。

「この時期の人事部の残業時間は相当なものです。これがウェブになり1次面接でズームを取り入れたら、効率が段違いで良くなったと言います。通常であれば1人で1日・10人の面接がマックスでしたが、ウェブでやると30人まで可能になった。面接コストが確実に下がったわけです」(吉井氏)

また、対面だと面接時間は1人につき30分から1時間弱だが、ウェブだと1人15分から20分と短く、双方にとって時間の節約にもなる。

「1次面接は1人の面接官が1人の応募者に対応します。すると判断が迷った場合、自分では決めきれないので、とりあえず2次面接に回すことになりがちです。しかし、ウェブ面接になってズームの録画機能を使うと、もう1度、採用担当者全員でチェックできるので、甘い選考を排除しやすくもなりました」(吉井氏)

■ウェブのほうが有利なマインドセットの測定

百戦錬磨の採用担当者でさえ、採用してから「なぜこんな人材を採ってしまったのか」と後悔することが多々ある。ウェブ面接で注意すべき点について見ていくことにしよう。冨樫氏は、ウェブ面接でも対面と同様、採否を決める際は「スキルセット(職務遂行に必要な技能、経験、専門知識、コミュニケーション力)」と、「マインドセット(ヤル気、コミット力、雰囲気、人柄、企業文化へのフィット感など)」の2つの評価軸を重要視してほしいと訴える。

「スキルセットは、対面もウェブも変わらず割と簡単に評価できます。問題はマインドセットです。『この人、入社前に言っていたことが全然できてない』という不具合があったりしますが、それは面接で応募者一人一人のマインドセットを見抜くのが難しいからです。ただ、意外かもしれませんが、ウェブ面接のほうが個々人のマインドセットを見抜きやすいという側面があります。対面だと、ジェスチャーや醸し出す雰囲気から『ヤル気がありそうだ』と判断してしまうなど情報過多になるんです。一方、ウェブ面接だとそういう情報が削ぎ落とされるんですね」

マインドセットについては、冨樫氏の識学では、正確に評価するため、8つの要素で全体像を把握することを推奨する。それが図にある「自己評価」「組織内位置認識」「結果明確」「成果視点」「免責意識」「変化意識」「行動優先意識」「時感覚」。そのなかでも特に注意深くチェックしたほうがいいのが、「自己評価」と「組織内位置認識」なのだという。

自己評価は「自分の評価は自分が決めると考える意識」のこと。端的に言ってしまえば、自己評価の度合いが強いと、自分を客観視できず、主観に基づいて自己を評価してしまいがちになる。「その自己評価の強い人は年齢を重ねるともう治りません。私たちの臨床的な経験から見ても、自己評価の強い人を面接で弾くだけで、入社後の不具合はミニマイズできます」との冨樫氏の指摘にはぜひ耳を傾けたい。

■潜在的な問題児は見解を述べる

では、自己評価が強い人を見抜くにはどうすればいいのだろう。中途採用なら「これまでに全力で取り組んだ仕事とその達成度を教えてください」という質問で見抜けると冨樫氏は言う。

「40歳の応募者の面接で、これまでに頑張った仕事を聞いて、『お客さまに喜んでいただけたことです』と返答があったとします。でもこれは単なる自分の『見解』にすぎず、自分を客観的に評価できていません。逆に客観的に評価できる人は『毎月何件成約しました』といった『事実』を示します。答えが見解にすぎないのか、それとも事実を正確に示すのかを見ていくだけで、自己評価の度合いを測定できます」

確かに自分の能力を客観視できず、揚げ句の果てに「自分のプレゼンを理解してくれないお客が悪い」と言ってのけるような部下がいたら上司はお手上げだろう。そして「なんでこんな人材を採用したのだ」と人事部にクレームをつけてくるはずだ。それだけにウェブ面接でも、この設問でふるいにかけておく必要があるのだ。

一方、吉井氏は過去についての質問を中心に面接することを勧める。

「たとえば失敗したときに、どうやって這い上がってきたか、そのプロセスをきちんと分析して自分の記憶のなかに留めておける人は、しっかり自己認識ができています。つまり今後何をするにしても、折れずに克服する胆力が備わっているということです。『失敗したときの心境はどうだったか、なぜ自分にとってその失敗が大きな痛手になったか、どのように頑張って克服し、心が強くなったのか』ということを尋ねられたときの分析ができているのです。ところが表面を取り繕っていて口先だけが上手い人は、過去の質問をされるとフリーズしてしまいます」

そして、あまり耳慣れない「組織内位置認識」は、簡単に言うと序列意識のようなもの。この組織内位置認識が弱い人には、自分は賢いと勘違いしていたり、自社の批判や批評を繰り返したり、上司を上司として認めず指示を聞かないなど、とにかく厄介な態度や、勝手な考えをする人が多い。

また「スキルセット」が優秀で一見いい人材に思えても、組織内位置認識が弱いと、組織全体にはマイナスになる可能性が高い。過度な上司批判や自社批判などを繰り返して、周囲の人間のモチベーションを下げてしまうからだ。新卒の場合は、通っていた大学のいい点・悪い点という質問で、批判の割合を測るとわかりやすい。批判のほうが一方的に多ければ要注意だ。

「中途採用の場合は、転職理由を深掘りしていくのに尽きます。面接の攻略本を読んできて、最初は優等生的なことを述べますが『ということは?』『つまり?』と切り込んでいくと、次第にネタが尽きて自社批判になっていきます。そこで組織内位置認識の弱さが露呈するわけです。新卒の場合は『大学のいい点、悪い点を言ってください』や『地元のいい点、悪い点を言ってください』という質問を投げかけると本音が出てきます。所属してきた集団の批判の割合が多い人には気をつけろということです」(冨樫氏)

■背景の様子も要チェック

これまでの対面の面接では、エントリーシートに沿って質問したが、20年は、最初の5分間は学生が緊張せず臨めるような雰囲気づくりを企業側が行う傾向が多かった。実はそのなかで、どこまで緊張を解きほぐすことができるかによって、応募者の柔軟性をチェックすることも可能になる。

「たとえば、ウェブ面接では緊張気味だと、オドオドした表情が反映されやすくなります。またズームの扱いに慣れていないと、操作ばかりに気を取られて集中できていないのが一目瞭然です。結局、ウェブに柔軟に対応できずに、自分らしさが出せないまま面接が終わってしまう人が少なくありません」(吉井氏)

また、いきなりバッテリーが切れたり、画面がフリーズしたりというアクシデントが発生したときも注目だ。

「突発のトラブルに上手く対応できるかどうかを見る絶好の機会です。また、コロナ禍でいきなりデジタルの時代に移行して、どれだけデジタルに慣れているか、使いこなせているかも、企業側にとっても大きなチェックポイントになるでしょう」(吉井氏)

■スマホのズームで面接を受ける学生

最近はパソコンを持っていない学生も多く、スマホのズームで面接を受ける学生もいたという。

「自宅にWi-Fi環境が整っておらず、カフェなどからアクセスしてくる人もいたものの、できれば自宅の落ち着いた部屋で面接を受ける人のほうが、社会人としてのTPOをわきまえた人材に育つと判断できます。また、自宅の部屋からアクセスした面接の際、部屋のなかが散らかっている人がたまにいますが、整理整頓がちゃんとできていないのはマイナスポイントになります。背景にまで気配りができているかどうかも見ておいたほうがいいでしょう」(冨樫氏)

吉井氏はウェブでの会話の仕方も要チェックだという。

「対面であれば、1人が一方的に30秒ぐらい話してもそれほど苦痛ではないと思いますが、ズームだと30秒ほど話し続けると、すごく長く1人でしゃべっている感覚が残ります。自分が言いたいことは15秒程度で完結させるよう気遣っているかどうかも見てください。もう1つは『、』(読点)で話をだらだらと続けてしまうのではなく、『。』(句点)で言いたいことを一つひとつ区切って話す人かどうかです。メリハリのある話をする人なら、物事に対する思考能力も高いと判断できます」

20年のウェブ面接では、ズームの機能を上手く活用した新たなスタイルが登場した。

「エントリーシートをパワーポイントで作らせ、ズームの面接でプレゼンテーションさせた企業がありました。これだと学生のプレゼンの技量やセンスが一発でわかります。私が面接官なら、前に触れたこれまでの人生のなかでの自分の失敗談と、そこからどう這い上がってきたかをテーマにしてプレゼンしてもらいます。そうすればプレゼンの技量やセンスと一緒に自己認識力や胆力も見ることができて、まさに一石二鳥になるからです」(吉井氏)

■ズームも知らない社内の抵抗勢力

20年は仕方なくウェブ面接を実施するところが多かったが、21年からはリアルな対面の面接に戻るのではなく、積極的にウェブ面接を取り入れる企業が増えることも予想される。実際、「戻すべきじゃないものは戻さなくてもいいのでは」という意見も多い。

ウェブの特徴を上手く活用するのはIT企業に一日の長がある。会社の雰囲気を伝えるのに、VR(バーチャルリアリティ)を使い、社内を見られるようにしている企業もある。最終面接は実際に会社を訪問するわけだが、これはオンラインとオフラインを上手く使い分けている例だ。

しかし、企業のなかにはウェブによる面接・採用に対する抵抗勢力が存在しているのも事実で、50代以上の経営幹部たちであることが少なくないようである。

「50代以降だと『話をするときは膝を詰めるのが常識』という感覚があるんです。若い人事担当者は頭を抱えています。まずはそういう部長や役員をウェブの画面の前に引きずり出してこなければなりません。聞いた話で笑ったのは、『ズーム』という単語を聞いて『THE BOOM(ザ・ブーム)?』『なんだ「島唄」のロックバンドの話か?』というやり取りがあり、ガックリしたというものです。ズームとブームとの区別もつかないんです」(冨樫氏)

これからはウェブ採用をモノにした企業が採用で優位に立っていく。逆に言えば、そこに適応できない企業は生き残れないということでもある。

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冨樫篤史(とがし・あつし)
識学新規事業開発室室長
1980年、東京都生まれ。立教大学卒業後、ジェイエイシーリクルートメントに入社し、管理職、幹部クラスの人材斡旋に従事。識学には2015年に参画。大阪営業部を経て現職。著書に『伸びる新人は「これ」をやらない!』がある。
 
吉井伯榮(よしい・はくえい)
行動分析心理学者
1953年、群馬県生まれ。客員教授を務める武蔵野学院大学で、毎年100%の就職内定率の実績をあげる。一般社団法人日本パーソナルコミュニケーション協会代表理事も務める。著書に『Fラン大学でも東大に勝てる逆転の就活』。
 

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(フリーランスライター 篠原 克周)