より乗用車的に走れるSUVの台頭で徐々に販売台数が減少

 今はSUVの人気が高いが、その先駆けは三菱パジェロだった。初代モデルは1982年に発売され、洗練された外観や上質な内装によりヒット商品となった。それまで山林で使う作業車だったオフロードSUVの流れが変わり、パジェロ以降、トヨタ・ランドクルーザーなども内外装を上質に仕上げるようになった。

 1991年にパジェロは2代目にフルモデルチェンジされ、1992年には約8万4000台を登録。当時のパジェロは、今のトヨタ・シエンタや日産ノートと同等に売れていた。

 ところが1990年代の中盤以降になると、トヨタRAV4やホンダCR-Vなど、前輪駆動をベースにした乗用車感覚のSUVが続々と登場してきた。パジェロのような後輪駆動ベースのオフロードSUVに比べると、ボディは軽く重心も低い。走行安定性や取りまわし性が優れ、乗り降りもしやすく実用的だった。加えて価格も割安だ。悪路走破力はパジェロなどのオフロードSUVに負けるが、日本では雪道を走行できれば不満は生じない。そこで乗用車感覚のSUVが売れ行きを伸ばした。

 その結果、オフロードSUVは売れ行きを下げた。三菱も他社と同様、前輪駆動ベースのSUVとして2001年にエアトレック、2005年に初代(先代)アウトランダーを発売したから、パジェロの需要をさらに奪ってしまった。2010年頃には、アウトランダーは1か月に約700台売れていたが、パジェロは200台少々で、2018年には50〜60台まで減った。その結果、パジェロは2019年8月に国内販売を終えた。

 三菱の業績不振も影響を与えている。選択と集中が求められ、三菱が100%出資するパジェロ製造株式会社も生産を停止することになった。海外向けのパジェロは、パジェロ製造によって2019年8月以降も生産を続けていたが、いよいよ海外販売も終わる。三菱では「現時点でパジェロの生産をしているのは、パジェロ製造のみ」というから、完全に終了するわけだ。

現行のSUVラインアップではパジェロファンは物足りず……

 そこで三菱の販売店にパジェロの終了について尋ねた。「最近のSUVの主力は、アウトランダーとエクリプスクロスだ。パジェロの売れ行きは大幅に減ったから、販売の終了も理解できるが、保有しているお客様は多い。そこでパジェロのお客さまに乗り替えを提案すると、アウトランダーやエクリプスクロスでは物足りないという。パジェロに代わる悪路走破力の高いSUVが求められている」。

 2020-2022年度中期経営計画によると、2020年度中にエクリプスクロスにPHEV(プラグインハイブリッド)を加え、2021年度には次期アウトランダー、2022年度には次期アウトランダーPHEVも加える。またアセアン向けのエクスパンダーやパジェロスポーツも、2023年度以降に次期型へフルモデルチェンジする予定だ。

 販売店も「2020年の10月から11月に、エクリプスクロスは一度販売を中断して改良(マイナーチェンジ)を行いPHEVも加える。アウトランダーは中断の後、フルモデルチェンジを実施する」という。つまり2021年に三菱のSUVは商品力を大幅に高めるわけだ。

 この勢いでパジェロも復活させてほしいが、無理な相談だろう。それならせめて、次期エクスパンダーやパジェロスポーツを国内にも導入してほしい。アセアン地域のクルマ作りでは安さが重要と思われがちだが、開発者は「この4〜5年でアセアン市場は大きく変わり、価格が少々高くても上質なクルマが求められている。安ければ売れる時代は終わった」という。それはいい換えれば、日本、北米、欧州などに通じる品質のアセアン向け商品を開発することだ。(写真は現行モデルのエクスパンダー)

 とくにパジェロスポーツは、後輪駆動ベースのオフロードSUVだから、パジェロの志を受け継いだ後継車種として国内でも販売してほしい。それは今でもパジェロを使い続ける人達に向けた、大切な配慮といえるだろう。