業界最大手のセブン‐イレブンは大規模な加盟店支援策を打ち出した(記者撮影)

猛威を振るった新型コロナウイルスは、コンビニエンスストア業界の慣習も大きく変えようとしている。

百貨店や外食などと同様に、コンビニ業界も新型コロナの影響をまともに受けている。4月の既存店売上高については、業界首位のセブン-イレブンが前年同月比5.0%減、ファミリーマート14.8%減、ローソン11.5%減と、各社そろって前年実績を割った。住宅街での需要は大きく変わらないものの、政府の外出自粛を受けて観光地やオフィス街で客数が激減したことが響いた。

フランチャイズ(FC)方式で全国に店舗網を広げてきたコンビニ業界にとって、店舗の売り上げ減少は加盟店オーナーの収入に直結する死活問題であり、ひいては運営元の本部の経営に影響を与える。政府の緊急事態宣言は解除されたとはいえ、感染防止を意識しながらの日常生活が続くため、消費意欲が早期に急回復するのは見込みにくい。

そこでコンビニ各社では現在、加盟店支援の取り組みを強化している。中でも、最大手のセブン-イレブンを運営するセブン-イレブン・ジャパンは大規模な支援策を打ち出した。

セブンが打ち出した2つの支援策

5月12日、東京・千代田区にあるセブン-イレブン・ジャパン本社で開かれたFC会議(加盟店に経営コンサルティングを行う本部社員に向けての連絡会議)で、同社は新型コロナでダメージを受けた加盟店支援の追加策を2つ発表した。

1つ目は、加盟店の減収幅に応じた本部からの支援金の給付だ。4月以降の月次売上高が前年同月よりも10%以上下がった店舗に対し、最低10万円の支援金を加盟店に支払う。支援額は減収率に応じて変動する。

もう1つは融資面の支援である。セブン&アイ・ホールディングス傘下でリースなど金融事業を手がけるセブン・フィナンシャルサービスから、希望する加盟店に対して最大500万円の融資を行う。運転資金が枯渇する緊急事態に備えて、加盟店が迅速・スムーズに運転資金の支援を受けられる体制を整えた。

セブンが新型コロナ対策として大規模な加盟店支援策を打ち出すのは、4月28日に続き2回目だ。4月に発表した支援策は、以下の5つだった。

まず、「特別感謝金」として、加盟店1店舗あたり10万円の給付金を全国約2万900店の店舗に支払う。2つ目に、従業員向けの「従業員特別感謝手当」として、1店舗当たり6万円分のクオカードを支給する。3つ目は、感染者が現れて休業した店舗への「見舞金」として、休業日数に応じて1店舗あたり5万〜10万円を支払う。それぞれの支給は5月中に実施した。

また、弁当など商品を仕入れる際などの一時立替に伴って発生する利息も、4〜12月の期間限定で免除する。

オーナーの生活費対策も実施

最後に、売り上げが厳しいオーナーの生活費対策も設けた。セブンでは、加盟店が一定額を引き出せる「月次引出金」という制度を採用している。この制度により、加盟店オーナーは毎月安定した生活費を確保できる。

ここに、新型コロナウイルスの拡大を受けた特別対応として、自己資本の範囲で追加の引き出しを行えるようにした。通常、加盟店は自己資本を150万円以上に保つ必要があるが、それを下回る加盟店も当面の間は自己資本の範囲内で追加の引き出しを行えるようにした。

【2020年5月29日20時00分追記】初出時、生活費対策の内容に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

これら加盟店支援にかかる本部の負担は、巨額なものとなる。総額は非公開だが、4月の支援策のうち全店への10万円給付とクオカードの支給だけでも、33億円以上もの費用が圧しかかる。

今までも特別な事態が起きた際には、加盟店への支援は行われてきた。例えば、2011年の東日本大震災や2019年に東日本を襲った大規模な台風被害の際には、グループ会社を通じての運転資金融資や支援金給付を実施してきた。

ただ、それらは被害を受けた地域限定の措置であり、今回のように「全店規模での支援策を打ち出したのは、初めてのケースではないか」(セブン&アイHDの広報担当者)という。

今回、過去最大規模の手厚い支援策を掲げた背景には、コンビニ経営の急速な環境変化がある。

これまでコンビニは出店を加速し、規模の拡大を追求してきた。だが、出店網が広がりすぎ、1店舗あたりの売上高が頭打ち状態にあるため、各社とも過度な出店計画を見直している。セブンも2020年2月期における国内出店数は782店、退店数703店で店舗純増数は79にとどまった(2019年2月期は純増616)。


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硬直的な運営スタイルにも批判が高まっていた。人手不足が深刻化し、アルバイトの賃金が上昇する中で、時短営業など加盟店ごとの柔軟な運営を認めてこなかった。2019年2月に大阪府・東大阪のセブン加盟店オーナーが独自の判断で24時間営業をやめると、契約違反だとして契約解除を通告。こういった本部の姿勢が「高圧的」と問題視され、経営が厳しくなる加盟店オーナーからの反発も日増しに高まっていった。

このように経営を取り巻く環境が変わってきたところに、新型コロナが直撃。営業努力にかかわらず売り上げが大幅に落ち込む店舗が多数現れた。こういった危機的な事態を受けて、セブン&アイHDは「本部と加盟店が一体になってこの事態を乗り切るために支援している」(広報)と強調する。

コロナで変わる加盟店とのかかわり方

大量出店を前提に、全国一律の硬直的な運営姿勢で業容を拡大してきたセブンだが、今後は加盟店や地域事情に寄り添った柔軟な運営スタイルを模索する可能性がある。

都内でセブンを経営するあるオーナーは、「本部が加盟店に本気で向き合い始めた第一歩として、今回の支援策を高く評価している。今までのセブンは本部の利益を最大化することを目標にしていたが、加盟店を苦しめてはいけないと気づいたのではないか。コンビニ業界の大きな転換点になるかもしれない」と語る。


ファミリーマートも独自の支援策を打ち出した(撮影:今井康一)

競合のファミマやローソンも、新型コロナ対策として加盟店への支援策を打ち出している。

ファミマは加盟店オーナーの収入が減少した店舗への見舞金などで、総額20億円の支援策を公表した。ローソンは感染した従業員が現れて休業した店舗に見舞金を給付するなど、加盟店支援に8月までの間に総額31億円をかける計画だ。

ただ、コンビニ経営に詳しい業界関係者はセブンの加盟店対策について、「既存店売上高の落ち込みが最も少ないのに、手厚い支援策を公表している」とその内容を評価する。

環境変化に加えてコロナ危機が後押しした形となり、本部と加盟店のかかわり方を抜本的に見直し始めたセブン。とはいえ、コロナ収束後は消費者の購買行動が変化し、これまで好立地とされてきた店舗ロケーションも見直される可能性が高い。国内で独自進化を遂げたコンビニ業界を牽引してきたセブンは、難しい局面を迎えることになる。