言うなれば、サイズの合わない服を着せられて、どこか窮屈そうだ。正直に言えば、今ひとつ、パッとしない。

 ポジションは4-2-3-1のトップ下。攻撃の中心的役割を担う一方、守備時はCFと横並びになり、自陣での秩序だったブロック形成に加勢する。

 物足りなさを感じるのは、後者の時間が長いことだ。相手のボールの動きに合わせて、不用意にスペースを空けないよう、前後左右に足を動かす。プレスバックも精力的だ。時には、長い距離を走ってのハイプレスもこなす。

 要は、ボールを握ってのプレーが少なすぎる。昇格組の横浜FCで、どうにも中村俊輔は“らしくない”。そんな印象が拭えないのだ。

 もちろん、守備で手を抜いているわけではない。「(守備は)苦手、というか嫌いかも」と言うわりには、ピッチ上では懸命に相手ボールを追いかける。走り出す前、一度下に向けた顔をグッと持ち上げ、両手を思い切り振って、加速する。今に始まったことではない。横浜F・マリノス時代も、トリコロールに彩られたユニホームの白いパンツは、後半の途中からよく汚れていた。身体を張って守っている証拠だ。
 
 チーム戦術の遵守。その組織的かつ献身的な振る舞いがもたらす貢献は決して小さくない。ただ、『ファンタジスタ』としての生き方を極めようとしている希代のレフティが、本来の持ち味を発揮し切れないまま時間が経過していくのは、あまりにももったいない。

 6月には42歳になる。現役として残された時間は限られているはず。守備面の奮闘もいいが、やはり俊輔に求めたいのは、ゴールに直結する創造性溢れるプレーだ。

 そんなこちらの勝手な願望をよそに、俊輔は以前、こんな風に語っていた。そこに、一プレーヤーとしての引き際の美学も見え隠れする。

「自分にできること、求められることは、全部やる。ガンガン走って、サッカーを全力で楽しむ。そのほうが“やりきった感”で選手を辞められる。そういう想いがベースにあるから、どんな要求をされても、不満なんてひとつもない」

 守備のタスクが多くても、さらにはポジションがどこだろうが、今の俊輔には些末な問題でしかないのかもしれない。雑念にとらわれず、全身全霊でサッカーに打ち込む。スパイクを脱いだ後、後悔しないためにも。

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 とはいえ、『ファンタジスタ』としての自分を過去に置き去りにしたわけではない。「自分のプレーを“探す”というか。あの時、こんなプレーをしていたな、って。そういう自分を、確かめたい」とも俊輔は言う。

 サッカーに関しては、とにかく貪欲な男だ。「他の人の良いプレーもいっぱい見て、そうやってイメージして練習しておけば、あとは試合で実践すればいいだけ。そんなことを寝る前とかもずっと考えている。でも楽しいからね」という言葉にも精気がみなぎる。

 チームのために、自らが黒子役に回ることもいとわないが、ギラギラした部分もその胸の内に秘めている。

 今季の広島とのルヴァンカップ初戦、その日はベンチ外だった俊輔も会場の三ツ沢に足を運んでいた。スタジアム入りするジャージ姿の俊輔を捕まえて少しだけ話を聞けば、意欲に満ちた表情でこう言った。

「記録を作りたいよね」
 ジーコ(元鹿島、現・鹿島テクニカルディレクター)が保持する41歳3か月12日のJ1最年長ゴール。それを塗り替えたい、と。

 チームメイトには「53歳」のカズという強力なライバルもいるが、俊輔も燃えている。記録そのものに強いこだわりを見せないアスリートもなかにはいるが、俊輔は清々しいまでに、“新記録樹立”への野望を口にする。

 得意のFKか、精緻なミドルシュートか。いずれにしても、ゴールという決定的な仕事でJ1に爪痕を残そうとしている。その想いが、原動力になっているはずだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、Jリーグは延期が続き、チームも活動休止中だ。難しい状況が続くが、再開に向け、俊輔は今の立ち位置でいかに輝きを放つか、そのイメージを膨らませて、着々と準備を進めているに違いない。

文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)