国が国民1人あたり最大5000円分のポイントを配る「マイナポイント」が来年9月に始まる。受け取るにはマイナンバーカードと2万円分のチャージが必要だ。この施策は消費にどれだけの影響を与えるのか。経営コンサルタントの竹内謙礼氏は「3つの問題点が解消されるかがカギを握っている」と指摘する――。
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■銀行口座に振り込まれるのとはわけが違う

私は経営コンサルタントとして、この12年間、年末になると翌年の小売・流通業の消費動向を見越した「予測カレンダー」を制作している。2020年の予測カレンダーを作るうえで、最大のカギとなったのが「マイナポイント」である。

マイナポイントとは、マイナンバーカードの保有者のキャッシュレス決済に対し、国が最大5000円分のポイントを付与するものだ。ポイントが配られるのは、2020年9月から2021年3月までの7カ月間。少なくても12の決済サービスが対応する見通しで、スイカやナナコ、ワオンなどの電子マネー、LINEペイやPayPay、楽天ペイなどのスマホ決済が対応予定だ。

ポイント還元率は25%。付与されるのは最大5000円分なので、適用されるチャージや買い物の額は1人2万円が上限となる。現在、国が行っている「キャッシュレス・ポイント還元事業」は最大5%なので、還元率はそれよりはるかに大きくなる。

「たった5000円でしょ? それならずっと5%還元されるほうがいいよ」

そう思った人がいるかもしれない。しかし、よくよく情報を精査すると、このマイナポイント、非常によくできた制度だといえる。2万円をチャージして、国から受け取る5000円を加えると、ICカードやスマホの中には2万5000円のお金が貯まることになる。つまり、もらえるのは5000円だが、使えるお金は2万5000円になるのだ。

しかも、入金したお金は、否応なしに使っていくしかない。銀行口座に振り込まれる国からの手当は貯金に回される恐れがあるが、キャッシュレス決済であれば、支給したお金は確実に消費に使われて、景気の喚起につながる。

■これだけ「何も決まっていない」施策は珍しい

日経クロステックの記事によると、「予算はシステム開発費を含めて2000億円を超える見通し。2500億円に達するとの見方も出ている。規模としては、2019年度予算において消費者還元分だけで約1600億円を確保した経済産業省のキャッシュレス・消費者還元事業に匹敵するか、これを上回る可能性がある」とのこと。

この事実を前提に考えれば、国のキャッシュレス施策の“本丸”は、2〜5%の還元策ではなく、2020年に行われるマイナポイントだと言ってもいい。

しかし、このマイナポイント、まだまだ問題が山積みである。私は12年間、国のいろいろな施策の影響を予測してきたが、この段階で、これだけ何も決まっていないのも珍しい。総務省のホームページに掲載されている「マイナンバー総合フリーダイヤル」にも問い合わせてみたが、オペレーターからは「検討中」という回答しかなく、新しい情報は何一つ得ることができなかった。

2019年12月現在、私自身が把握しているマイナンバーカードの問題点は大きく3つに整理できる。それぞれ解説していこう。

■3つの大きな問題点

問題その1「マイナンバーカードとキャッシュレスの紐づけが大変」

マイナポイントは、マイナンバーカードに付与されるのではなく、マイナンバーカードの保有者が使っている決済サービスの中で充当される。つまり、マイナポイントを受け取るためには「マイナンバーカードの発行」と「マイナンバーカードと決済サービスを紐づける」という2つの面倒な作業がつきまとうことになる。

マイナンバーカードの発行は、郵便、スマホ、照明写真機等で行うことができる。しかし、発行まで約1カ月かかるため、申し込みが殺到すると、マイナンバーカードが配布されるまで2〜3カ月を要する可能性がある。期限内にマイナンバーカードが発行できない人が出てくることも考えられるので、発行遅延者に対しての何らかの対応策が出てくるのではないかと思われる。

■iPhoneだと「マイキーIDの登録」がまだできない

さらに面倒なのはマイナンバーカードと決済サービスの紐づけの作業だ。「マイキーID」を使って紐づけるのだが、そのマイキーIDの手続きが「超」がつくほど面倒くさい。パソコンを使う場合はICカードリーダライタが必要だし、手続きも面倒。スマホでも発行できるが、現時点ではおサイフケータイの機能を持つアンドロイド携帯でなければマイキーIDを発行することはできない。

2019年12月現在で、iPhoneには対応しておらず、今後、簡単に操作ができるアプリが開発される予定だという。しかし、改善されたとしても、ネットリテラシーの低いユーザーでは、この手続きはかなりハードルが高い作業になりそうな印象である。

問題その2「キャッシュレス決済手段がない人はどうなるのか?」

マイナンバーカードは国民1人につき1枚発行されるものである。つまり、国民全員が5000円を受け取る権利がある。しかし、スマホを持っていない人もいれば、手続きが難しくてマイナンバーカードが発行できない人もいる。低所得者の中には2万円すら捻出できない人もいるはずだし、0歳の赤ちゃんや身体の不自由な人に対して「あなたはスマホを持っていないので、支給しません」というのは、乱暴すぎる施策になってしまう。

この件に対して総務省に問い合わせたところ、「検討中」とのこと。今後、何かしらの対策は取られると思われる。おそらく、スマホを所有している身内の人にまとめてチャージされるか、商品券を配布するなどして対応していくのではないだろうか。

問題その3「チャージできるのはスマホ決済のみ?」

総務省の制作したマイナポイントのページを見ると、ポイントが付与されるのは「民間キャッシュレス決済手段」と書かれている。例として「○○ペイ等」と書かれているが、そこにはクレジットカードの対応記載が一切書かれていない。

おそらくクレジットカードにはお金をチャージすることができないため、現時点では構想から外れているのではないかと思われる。しかし、スマホ決済のみの対応にした場合、クレジットカード会社から不平不満が出てくることが想定されるので、なんらかの対応策が講じられるはずである。

他にも、マイナポイントは多くの問題を抱えているが、2020年9月1日からスタートすることは決定済。当初、10月1日から始める予定だったが、それを前倒ししてのスタートなので、よほどのことがない限り延期はないと思われる。

■ブラックフライデーで一気に使っちゃうかもしれない

手続きが面倒だからマイナポイントを利用する人は少ないという見通しもあるが、タダで5000円がもらえるならば、多少の困難は乗り越えて、利用者が増えていくと思われる。また、「1人につき5000円」と考えると、家族4人であれば、一家でまとめて2万円の支給となる。その金額になれば、少しネットに詳しい家族の一人が、頑張って家族分のマイナポイントの発行手続きをしてくれるかもしれない。このように、誰かネットに詳しい人の力を借りながら、周囲の人を巻き込んでマイナポイントは普及していくことが予想される。

今後、地方自治体でもマイナポイントに関する相談窓口が設けられる予定なので、発行までの難しさは少しずつ解決されていくのではないか。

消費に与える影響を考えると、「じわじわとマイナポイントが使われ始める」というのが予想である。マイナンバーカードの発行にはタイムラグがあるため、9月1日から一斉にマイナポイントが使われ始めるとは考えにくい。また、7月と8月には東京オリンピックが開催されるため、マイナポイントの発行を後回しにする人が多いので、消費は秋から冬へとズレ込むことが予想される。

おそらく、10月から11月にかけてぼちぼちと使われ始めて、11月下旬のブラックフライデーあたりにマイナポイントを使う人が急増するのではないか。キャッシュレス決済はセール販売と相性がよく、気前よく2万5000円を使ってしまう人も多いはず。2019年もブラックフライデーの商戦は非常に盛り上がったこともあり、小売業者は2020年のブラックフライデーに向けて、福袋やセール販売などを準備しておいたほうがいいだろう。

■もうキャッシュレスを避けて通れない

今までキャッシュレス対応をしてこなかった小売業、飲食店も、さすがに対応を始めたほうがいい。クレジットカードへのマイナポイントの支給が行われない場合、スマホ決済が主流になることが予想される。PayPayや楽天Payなどのメジャーな決済方法は取り入れておいたほうがいいだろう。

「還元策が終わったらキャッシュレスで買い物する人なんかいなくなる」という見方もあるが、今後、政府は景気の刺激策としてキャッシュレス決済を頻繁に利用してくるはずである。売り手側も買い手側も、今後はキャッシュレス決済を避けて通ることはできなくなると思っておいたほうがいい。

2020年の年初は増税の影響で買い控えを引きずるものの、2月から3月にかけて新生活の需要でキャッシュレス消費が少しずつ盛り上がってくると予想。6月末のキャッシュレス還元策終了に向けて、駆け込み消費が発生するが、その後は東京オリンピックに国民の心が奪われて消費は減退。そして、9月からのマイナポイントで再び景気が回復しはじめるというのが、おおまかな2020年の消費の予想である。

このようにマイナポイントは2020年の要となる施策であり、取りこぼしてはいけない情報のひとつといえる。マイナポイントから目が離せない1年になりそうである。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。
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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)