「子ども部屋おじさん」と言われている親元未婚者は、いつまでも親元にいるから結婚できないのでしょうか?(写真:iStock/monkeybusinessimages)

多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない。

これは、古代ローマの礎を築いたユリウス・カエサル(シーザー)の言葉とされています。人間は自分が見たいものしか見ないし、たとえ目に入っていても記憶のフォルダーに残りません。信じたくない事実は無視し、信じたいと思う事実だけを脳内に取り入れようとします。心理学において、「確証バイアス」と呼ばれるものです。

確証バイアスとは?

世間の未婚者に対する偏見の多くは、この「確証バイアス」によって生まれています。例えば、孤独死についてもそうです。「結婚しないと孤独死するぞ」とよく言われます。「孤独死する人=未婚者」と思われがちですが、これも事実とは異なります。孤独死者の多くは高齢男性ですが、そもそも彼らはかつて皆婚時代を生きていた人たちです。


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つまり、現在孤独死している多くの高齢男性は、妻との死別や離別で独身に戻った「元既婚者」たちということになります。

同様に、40歳を過ぎてなお親元に住み続ける未婚者を「子ども部屋おじさん」などと揶揄する言葉があります。「かつての親に依存するパラサイトシングルやニートと呼ばれる人がそのまま中高年化しているのだろう。未婚化は、こうした親元から自立できない中高年未婚者の増加のせいである」などというもっともらしい言説もささやかれます。

中には、「いつまで親離れできないのか、情けない」などと怒りをあらわにする人もいます。そうかと思えば、「これは子離れできない親の問題だ」などという人もいます。

子の問題にしても、親の問題にしても、個人の意識の問題として処理して納得する人があまりに多いようですが、はたしてそれは事実として正しいのでしょうか?

大前提として間違ってはいけないのは、親元に住む未婚者がすべて無業者であるはずもなく、パラサイトでもなければニートでもなく、ましてや引きこもりでもないということです。そもそも中高年で親元に住む未婚者は「おじさん」だけではありません。

2015年国勢調査では、20〜50代のうち、親元に居住する全国の親元未婚数は、男性約723万人、女性約579万人で、それぞれ未婚者全体に対する親元未婚率は、男性60%、女性65%です。実に、6割以上の未婚男女が親元にいるということになります。男女合わせて約1300万人の未婚者が親元未婚なのです。

35歳以上の親元率は男女同一

20代に関しては、まだ学生である場合も多く、親元にいても不自然ではありません。しかし、40代前半になってもこの親元未婚率は6割台周辺をキープしています。

年代別に見ると、20〜34歳の若年層に関しては、女性の親元率が上回っていますが、35歳以上を見ると、男女ともきれいに同一であることがわかります。男女で偏りがあるわけではないのです。実数で男のほうが多いのは、そもそも未婚者人口が男のほうが300万人以上も多いので当然です。


こういう事実を出すと、鬼の首を取ったように「ほら、1300万人もいるじゃないか。こんなに増えているなんて前代未聞だ。これが日本の未婚化の根本原因だ」などと言う人もいますが、15年前の2000年における20〜50代の親元未婚者は約1364万人でした。

むしろ15年前より親元未婚者総数は少しだけ減っています。とはいえ、20代の未婚者の絶対数が2000年と比べると減少していることもあるので、実数ではなく、親元未婚率で比較してみましょう。

20代では、実数も減っていますが、親元未婚率も減っています。35歳以上で15年前より増加となり、40代、50代と年代が上がるごとに親元未婚率は大きく増えていることがわかります。とくに、大きく増加しているのが50代です。

しかし、こうなるのは当然で、そもそも50代の未婚者そのものが当時の1.8倍に増えていますし、未婚だけではなく全体の総同居率も増えています。これは、いわゆる「8050問題」(80代の親が50代の子どもの生活を支える問題)とも関係しますが、親の介護のための再同居という形の影響もあります。


都道府県別の40〜50代で親元未婚率を見てみる

2015年国勢調査から都道府県別の40〜50代親元未婚率を男女別に見てみると、全国平均を上回って親元未婚が多い県は、男では37県、女では40県もあります。男女共通して親元未婚率が全国平均を下回るのは、東京・神奈川・大阪・福岡など流入人口の多いエリアでした。

つまり、親元を離れざるをえない物理的条件がない地方エリアにおいては、昔も今も未婚者が親元に住み続けることのほうがデフォルト行動と言えます。よくよく考えれば、親元を離れて独立するきっかけというのは、遠方への進学や就職および結婚によるものであり、未婚であり続ける場合、家を出る理由はないわけです。

「そうは言うが、結局いつまでも親元に住んでいるから結婚ができないんじゃないか」と反論される人もいるかもしれません。では、都道府県別に、2000年と2015年の国勢調査から40〜50代親元未婚率と生涯未婚率(45〜54歳の未婚率平均)との差分相関を見てみましょう。


男のほうの相関係数は、▲0.1653で親元への同居と未婚率との間には相関はほとんどありません。女のほうは▲0.5050で、むしろ親元に住んでいない一人暮らしのほうが未婚率は高いということになります。要するに、少なくとも親元に住んでいるから未婚率が上がるなんてことは言えないのです。

経済的問題が大きい

ましてや、「中高年の親元未婚が増えたから未婚化が進んだ」という因果はなく、むしろ中高年の未婚化のほうが先で、結果として40〜50代の親元未婚者数が増えたと見るべきです。決して、子どもの自立意識の問題ではないし、親が子離れできないからでもありません。自立する・しないや甘える・甘えないという問題以前に、子にしても親にしても、そもそも経済的問題が最も大きいのではないでしょうか。

一人暮らし未婚と、親元未婚とで所得にどれくらいの格差があるか、調べてみました。2017年就業構造基本調査には、親元未婚という指標は存在しないため、以下のような形で推計しました。

所得分布別有業未婚者総数から、同じく所得分布別有業単身世帯のうちの未婚者だけを引き算して、親元未婚の所得分布を推計、おのおのの平均所得を男女別に算出しています。全年代を対象としていますが、無業者は除くため、無業の高齢者や若年の学生などは含みません。


それによると、確かに、一人暮らし未婚のほうが親元未婚と比べると所得は全体的に上回っています。が、その差分は、男性で年間67万円、女性でも69万円で、月当りにすれば6万円弱の差にすぎません。むしろ、6万円程度の差にもかかわらず、その中から家賃・水道光熱費・日々の食費など必要経費を賄わなければならない一人暮らし未婚のほうが、財布状況は苦しいと言えるかもしれません。

親元未婚は、月6万円所得が少なくても実家にいる分、コストが削減されます。一人暮らし未婚が外食によって日々の食事に対応せざるをえないことに対して、その分の食費も浮きます。浮いたコストは、そのまま自分の趣味や関心領域に思う存分使えるということです。言うなれば、賢い生き方をしていると言えるでしょう。

親も苦しい

ちなみに、2018年家計調査から35〜59歳単身世帯における家賃・水道光熱費・外食を除く食費の月間平均費用は男女とも約7万円程度です。つまり、一人暮らし未婚の6万円分多い所得は、必要経費を支払ったら、親元未婚に対して逆に1万円の赤字であるということになります。

一方で親も苦しいのです。全国大学生活協同組合連合会による「第54回学生生活実態調査の概要報告」によれば、学生に対する親の仕送り額は、2018年で平均7万1500円です。2003年頃までは、月10万円以上の仕送りをする親の比率が過半数を超えていましたが、最近は3割を切っています。

未婚化の問題を「若者の草食化」などとする考え方同様、親元未婚に対して「社会の落伍者」であるかのようなレッテル貼りは正しくありません。

ましてや、「おじさん」という属性なら安心してたたいていいという風潮は、正しい事実をねじ曲げ、未婚化や少子化の本質的部分を曖昧にする危険性があると考えます。それでは、「見たいものしか見ない」というより「見てもいないものを見たと信じてしまう」ようなものです。個人的な不快感や怒りの感情に支配されて、不都合な真実を透明化してはいけないと思います。