ミケル・エチャリのベトナム戦レポートを読む>>

「フィジカルの強さで優位に立つイランに対し、日本は終始、頭を使って賢くプレーしていた」

 スペインの知将ミケル・エチャリ(72歳)は、アジアカップ準決勝で日本がイランを3-0で下した試合について、そう振り返っている。

「日本はボールを支配する時間を増やしながら、ラインをコンパクトに保って、敵が必要とするスペースを与えなかった。守備は常にカバーを意識。時間ごと、展開ごとのプレー判断もすばらしく、守備は堅牢で、後半途中からはカウンターも効果てきめんだった」

 アジアカップの日本をスカウティングしてきたエチャリは、イラン戦を絶賛している。

大迫勇也(ブレーメン)という”薬の調合”が、すばらしく効いていた」

 そう説明したエチャリの真意とは――。


イラン戦で2ゴールを決めて存在感を示した大迫勇也

「試合は慎重な立ち上がりになった。日本もイランも、決勝ラウンドに入ってから2試合連続で無失点。双方ともに、ディフェンスの安定を戦術の拠りどころにしてきただけのことはある。

 日本はこれまでと同様、4-2-3-1と4-4-2を攻守でマイナーチェンジさせる戦い方だった。ただ、大迫の存在がかなり大きく、前者で記すべきだろう。彼はこのチームのなかで、戦術的にとても重要な役割を担っている。

 一方、イランは4-1-4-1を組んできた。アンカーを配置し、中央の防備を固めたソリッドな陣形だ。1トップのサルダル・アズムンはカウンターの先鋒で、高さ、速さを兼ね備え、ポジションセンス、ボールスキルも高く、危険な選手に見えた。基本的に長いボールを前線に送り、フィジカルで圧倒。もしくはこぼれ球からショートカウンターを狙う作戦だった。

 対する日本は、長短のパスを織りまぜての攻撃を見せた。悪くない立ち上がりではあったが、イランのフィジカルの強さに、前半10分過ぎからはしばらく押され気味になる。そのなかで、22分にはGK権田修一(ポルティモネンセ)と遠藤航(シント・トロイデン)の連係に乱れが出た。これをアズモンにシュートまで持ち込まれてしまったが、権田が左足でセーブしている。

 このようなピンチはあったものの、全体としては各ラインが連動し、堅い守備を誇った。その後も、アズモンに入るパスに対し、センターバックの冨安健洋(シント・トロイデン)が粘り強く対応するなど、自由にさせていない。守備陣の健闘は二重丸。GK権田も効果的なパンチングでピンチを防ぐなど、すばらしい試合をやってのけた」

 エチャリは難しい試合の立ち上がりを、淡々と説明している。

「もっとも、試合は拮抗し、イランに傾きそうな流れはあった。それを確実に分断したのが、大迫である。

 あらためて言うまでもないが、大迫は非常に優れたプレーセンスを持っている。チームメイトとのサポートの距離、角度、タイミングはどれも傑出している。サイドに流れても、周りを生かしていた。

 日本は大迫にボールが入るたび、ゴール前に近づけるようになっていった。

 そして後半11分、大迫のポストワークで、左サイドを南野拓実(ザルツブルク)が抜け出している。相手選手に一度倒されたものの、南野はそのままボールを追走し、左サイドから右足でクロス。ディフェンス3人の裏に抜け目なく入った大迫が頭で合わせ、日本は先制に成功している。目を見張るようなゴールだった」

 エチャリはそう言って、大迫のプレーを絶賛した。後半22分にも、日本は敵陣でボールを奪ってから、大迫がポストになって南野を走らせ、2点目となるPKを奪い取っている。

「大迫は試合を通じて、左サイドを中心に深みを作った。チームの戦術を動かしていたと言えるだろう。2点目もそのひとつから生まれたもので、大迫のパスを受けて左サイドを駆け上がった南野が折り返したクロスは相手のハンドの判定。そこで得たPKを、大迫が右足で落ち着いてGKの左に蹴り込んだ。

 イランが攻撃に比重をかけてきたが、日本は落ち着いてプレースタイルをシフト。中央をしっかり固めながら、サイド攻撃に対してもカバーに入って、守備の強度を高めた。分厚い守りで攻撃を受け止めつつ、中央部で何度もボールを奪い、効果的なカウンターを仕掛けている。試合の流れのなかで適切に戦い方を変える、インテリジェンスを感じさせた。

 日本は守備の比重を高めたものの、守っていただけではない。鋭いカウンターを何度も発動した。ただし、4対2の状況になりながらシュートまでいけなかったことは、課題とするべきだろう。ラストパスの選択を誤っている。

 後半アディショナルタイム、守備面でも献身的だった原口元気(ハノーファー)が、最後は南野のパスを受けて左サイドを駆け抜け、鮮やかなシュートでGKを抜いている。精度の高いシュートで、この日の最後を飾るのにふさわしいフィニッシュだった」

 そう述べたエチャリは、準決勝までの日本の戦いをこう総括している。

「日本は大会を通じて、ファイナリストにふさわしい戦いを見せてきた。カタールは難しい相手だが、日本はチームとしての成熟を見せている」
(つづく)