沖縄県知事選挙で「米軍普天間基地の辺野古移設反対」を掲げた玉城デニー氏が当選した。基地設置は国の事業であり県などの自治体に権限はないが、前回と今回の知事選において2回連続で示された沖縄県民の民意を、さすがに国は無視できないだろう。この事態を動かすにはどうしたらいいか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(10月2日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■選挙結果を受けて政府の「移設推進」はいったん立ち止まるべき

米軍キャンプ・シュワブ前で、玉城デニー氏の勝利を伝える新聞を手にする新基地建設に反対する人たち=2018年10月1日、沖縄県名護市(写真=時事通信フォト)

沖縄県知事選の結果が出た。普天間基地の辺野古移設に反対する玉城デニーさんが、安倍晋三政権と与党自民党・公明党が総力をあげて応援した佐喜眞淳さんを破り、当選した。玉城さんは、亡くなられた翁長雄志前沖縄県知事の沖縄県政を継承するという。つまり、安倍政権の普天間基地の辺野古移設方針に対して徹底的に争う決意だ。

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国の政策が、地方の首長選挙の結果によって左右されることは避けなければならない。しかし、基地問題は、日本全体の国の政策の問題ではあるが、現実的な不利益は地元のみに大きく覆いかぶさる。したがって地元の意思を完全に無視するわけにもいかない。

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選挙結果というものは、自分の望むもの、望まないものにかかわらず、それを最大限尊重するというのが、民主主義のイロハのイなんだよね。今回の選挙結果をもって、沖縄県民の声を聞け! と叫ぶ自称インテリたちよ。次回からは選挙結果を否定するような発言を絶対にするなよな。

では、今回の玉城さん当選の選挙結果を受けて、普天間基地の辺野古移設問題をどのように解決していくべきか。

安倍政権が「沖縄県知事選は県政の方針を決めるものであり、国政には関係ない」と、沖縄県知事選挙の結果を無視して突っ走ることは控えるべきだ。そんなことをすれば、ただでさえ森友・加計学園問題で安倍政権に不信感を募らせている国民の不信感ボルテージはさらに上がり、憲法改正国民投票において反対の投票が増える懸念を通り越して、国民投票の実施すら危ぶまれる。この点、二階俊博自民党幹事長は「沖縄県民の審判を厳粛に受け止める」とコメントしている。

僕は普天間基地の辺野古移設に執念を燃やしてきた菅義偉官房長官の、基地問題に関するこれまでの対応には賛成だった。メディアや自称インテリたちからどれだけ強い批判を浴びても、沖縄県と法的に徹底的に争いながら、ルールに基づいて移設を進めてこられたが、それはとにかく普天間界隈の危険を取り除くことを第一に考えての政治的行動だった。

しかし、今回はいったん立ち止まるべきだと思う。ただし、普天間基地の辺野古移設を諦めるということではない。普天間基地の辺野古移設問題がなぜこのようにいつも紛糾するのか。この根源的な原因を考えて、それへの対策を講じるべきだと思う。まさに問題解決能力を発揮すべきところである。

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結論から言えば、この解決策は「手続き法」の制定である。

地方自治体である行政が何か施設を作る時、それも小さなものではなく、巨大なインフラだったり、さらにそのような個別の施設を超えて、街づくりの計画にあたる都市計画だったりを作る時に、一方的に勝手に作ることはできない。

住民の意思を何重にも確認していく手続きを踏んでいかなければならない。都市計画の決定にあたっては、公聴会を開き、計画案を縦覧に付し(住民が見ることができるようにし)、住民の意見を受け付け、さらに審議していく。意見の受け付けについては、法律だけでなく市町村の条例などでも詳細に定められている。

米軍基地というのは、住民生活に多大な影響を与える施設であるし、ここは僕は大いに問題があると思っているところだが、地方自治体の行政権のみならず日本政府の行政権も及ばない治外法権的な施設なんだ。地方自治体は当然、日本政府であっても、米軍施設に立ち入り調査などはできないし、訓練の制限をかけることもできない。

こんな施設を、政府という行政が、住民の意見をしっかり聞く手続きを踏まずに、一方的に作ったり、移設したりすることが許されるのか。

今は、米軍基地をどこに設置するかは、日本政府とアメリカ政府の協議に基づき、日本国民に対しては一方的に決めることができることになっている。ここが、普天間基地の辺野古移設がずっと紛糾し続ける根幹原因なんだよね。

先日、憲法学者の木村草太さんと憲法について対談を行なった。木村さんはこの点に強い問題意識を持っており、米軍基地を日本国内のどこかに設置するには、憲法92条に基づいて設置する自治体を対象にした個別の法律を作り、政府に法律上の設置権限を与えなければならない、との意見だった。そうすると特定の自治体を対象にする法律を作ることになるので、憲法95条によって、その自治体において法律の可否を決める住民投票を実施しなければならなくなる。

つまり木村理論でいけば、沖縄県や沖縄県の市町村に米軍基地を設置するには、沖縄県や沖縄県の市町村における住民投票を実施しなければならなくなるんだよね。

これは、傾聴に値する意見だ。

木村さんの意見でも、米軍基地が治外法権的な施設ではなく、政府や自治体の行政権がしっかりと及ぶ施設になれば、憲法92条に基づく個別の法律は不要になるらしい。そうなると憲法95条に基づく住民投票も不要になる。しかしそのためには、米軍基地に対する政府や自治体の行政権を制限している日米地位協定の抜本的な改定が必要になってくる。

■「地元で引き受けていい」と言わない国会議員たちの尻に火をつけろ

僕は米軍基地の設置について、全て地元住民の住民投票で決するというのは反対だし、ここは憲法92条の解釈について木村さんと意見の違いのあるところだ。しかし、僕と木村さんで意見が完全に一致したところは、特定の自治体を対象にしたものではなく、日本全体を対象にした米軍基地を設置するための「手続き法」が必要であるということ。

重要なポイントは、基地を設置する地元だけを対象にした特別な法律ではなく、日本全体を対象にした一般的な法律であるというところなんだよね。

つまり、この手続き法に従って手続きを踏んでいけば、日本中のどこにでも米軍基地が設置できてしまうということ。特定の地域に米軍基地を設置することを狙った法律ではなく、一定の手続きを踏めば日本中のどこにでも米軍基地を設置できるという法律。そしてこのような一般的な法律であれば、憲法95条に基づく住民投票は不要である。

今、沖縄を除く全国の知事や市町村長の中で、自分のところに米軍基地を設置してもいいと明確に主張している者は全くいない。沖縄の基地負担は何とかしなければならない! と、皆、口ではかっこいいことを言うんだけど、じゃあ自分のところが引き受けてもいいよ、とは絶対に言わないんだよね。

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このような状況の中で、沖縄県民と本土(沖縄県民の皆さんには失礼を承知で、あえて本土と言わせてもらいます)の住民の立場をフィフティー・フィフティーにするためには、一定の手続きを踏めば日本のどこにでも米軍基地を設置できることになる手続き法の制定が必要だ。

この手続き法は法律なので、まさに国会議員が審議することになる。そこでの論点は、住民の意見をどこまで聞くか、である。

自治体が都市計画を決定する手続きは、住民の意見を何重にも聞きながら、最後は知事や市町村長が決定することになっている。もし同様に米軍設置手続き法においても、最後は日本政府が決定できる、とするならば、一定の手続きを踏みさえすれば、本土のどこにでも米軍基地が設置できることになる。

こうなってはじめて本土の国会議員の尻に火が付く。

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このような手続き法がなければ、いつまで経っても、沖縄における県知事選挙や市町村選挙によって、日本の国策である安全保障政策が止まってしまう。基地反対派の首長が当選するたびに、「沖縄県民の声を聞け!」というフレーズが飛び交う。

だからと言って、地元沖縄県民の声を全く無視していいわけではない。だからこそ、地元の声をどこまで聞くかについて、沖縄県民もその他の都道府県民も同じ立場、同じリスクを背負う「米軍基地設置手続き法」の制定が必要だ。この手続き法の制定こそが国会議員の仕事そのものだ。

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(ここまでリード文を除き約3200字、メールマガジン全文は約7500字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.122(10月2日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【提言・沖縄問題】知事選決着! 難問解決の切り札は「手続き法」の制定だ》特集です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=時事通信フォト)