大学のキャリアセンターの担当者が選んだ「学生に勧めたい大手企業ランキング」。1位はANAとなった (撮影:尾形文繁)

大学4年生の就職活動は終盤戦となっている。「3月に企業の広報活動の解禁、6月から選考開始」というスケジュールは3年目になり、学生やキャリアセンターの対応も落ち着いてきたようだ。もちろん、活発化しているインターンシップに、3年生の夏から参加する学生は多い。


学生の就職状況も好調だ。なお景気は良く、企業の採用意欲も高い。少子化が進み、大学卒業生数も年々減っているため、学生は企業を選べる恵まれた環境にある。ほんの数年前まで学生の就活は、悲壮感漂うほど厳しかった。企業は優秀な人材しか採らない「厳選採用」を実施し、文系学部の就活生にとってはかなりの逆風になっていた。それが景気回復とともに、事情はガラリと変わった。

大学通信が大学に調査を実施し、集計している実就職率(就職者数÷<卒業生数-大学院進学者数>×100)の推移を見ると、よりはっきりする。今年(2018年卒)の大学の平均実就職率は88.4%で、7年連続アップしている。リーマンショックによって就職環境が最も厳しかった2010年の実就職率は74.4%だった。この8年で14ポイントも改善している。

今年は9月にまた就活が活発化?

今年の就活でも内定を取りやすい状況になり、1人の学生が複数の内定企業を持っているのも珍しくなくなった。就活を終えた首都圏のある難関大学生は「メガバンク、総合商社、損保など、5社から内定をいただきました。最終的にメガバンクに決めました」と話す。

複数企業の内定を持っていても、入社できるのは1社。学生が就職先を決めた瞬間、入社してもらえなかった企業は、さらに採用活動を続けることになる。そのため就活は8月になっても活発だ。

企業の採用支援を行っているワークス・ジャパンの清水信一郎社長は「首都圏の大手難関大のキャリアセンターによると、学生の内定率は7割ぐらいで、まだ就活を続けている学生も少なくないようです。大企業でも採用枠は残っており、今の暑い時期は避けて、9月からまた活発化しそうです」と見込む。

各大学は学生の就職支援に力を入れている。最近は大企業や業種を絞り過ぎて、うまくいかないケースも目立つという。春に就職が決まらなかった学生に、秋以降いろいろとアドバイスするのも、キャリアセンターの役割のひとつだ。

その大学のキャリアセンターに、アンケート調査を実施し、467校から回答があった。その中で「学生に人気の業種」を5つ聞いている。その結果、1位は公務員の28.3%で、次いで銀行の18.6%、教員の17.8%の順となっている。以下、食品、サービス、商社、情報と続く。

地方を中心に公務員の人気は高い。地元の大学から就職先も地元でという考えが根強く、その中で地方公務員が有力な就職先の選択肢となるからだ。銀行や教員も、同じ考えからだろう。地元の銀行への就職を考え、メガバンクへの就職はあまり考えていないと見られる。

アンケート調査では初めて、「学生に勧めたい大手企業はどこか」という項目を設けた。それをまとめたのが今回の「学生に勧めたい大手企業ランキング」だ。6社連記で記入してもらい、1番目に書いてある企業を6ポイント、2番目を5ポイント、3番目を4ポイント、以下3、2、1としてカウントし、それを集計している。企業を選択肢から選ぶ方式ではないため、かなり多くの大企業に票が分散しているが、それでも票が集まる企業はある。

トップはANAだ。以下、2位JR東日本、3位トヨタ自動車、4位日本航空、5位JR東海と続く。まさに大企業ばかりで、航空、鉄道、自動車の企業が並ぶ。

1位はANAで、航空や鉄道が上位

この結果について、前述の清水社長は、「キャリアセンターの方が勧める企業に共通するのは安定性。ベンチャーから成長した企業などが入っていないことを見ても、安定性で勧めていることが分かります。それと業種のトップ企業がすべて入っているわけでもないことも特徴でしょう。アステラス製薬があっても、武田薬品は出てこない、高島屋はあっても、三越伊勢丹は出てこない。大学と企業の関係性などもあるのかもしれません」と分析する。

確かに、今人気の楽天、ヤフーなどは出てこない。一方でベンチャーとは対照的に、明治時代に創業した歴史ある企業が上位に来ているのも特徴だ。

文系学部が多い大学と理工系大学では、当然ながら、勧める企業は異なる。7位のデンソーや、21位ディスコ、27位荏原製作所といった、自動車部品メーカーや機械系メーカーがたくさん出てくるのも、理工系大学からの回答が含まれているからだ。

業種では学生に人気が高かった銀行だが、ここでは、21位の三菱UFJ銀行、27位の三井住友銀行しか出てこない。ただ、銀行を勧める大学は多く、47位以下のランキング外だが、広島銀行(本店・広島)、京都銀行(本店・京都)、第四銀行(本店・新潟)、北海道銀行(本店・北海道)といった名前が出てくる。

すべての地区の大学が勧めているわけではないので、ポイントは多く獲得できていないものの、地元の大学が勧めていることがわかる。地方の優良企業も表中には出てくる。30位のカメイ(本社・宮城県)、36位の中部電力(本社・愛知県)、47位の日本精機(本社・新潟県)などだ。

ちなみに、学生の人気企業ランキングの上位に必ずと言っていいほど出てくる、総合商社が1社も入っていない。その理由としては、採用が有名難関大に偏り、そこに入っていない大学だと勧めにくいという事情もあるのだろう。

各大学に企業への採用数も調査しているが、今年の結果では、三菱商事や三井物産への採用があった大学は、わずか約30校にとどまる。それに対し、勧めたい企業トップのANAや2位のJR東日本は、140校以上になる。

もちろん、採用数の違いもある。ただ、三菱商事では慶應義塾大39人、早稲田大27人、東京大24人が就職しており、この上位3大学で採用総数の5割を超えている。採用人数が多いことに加え、幅広く採用している企業を勧めているということだろう。

上位には学生に人気の企業も多数含まれ、キャリアセンターが勧める大手企業も狭き門であることに変わりはない。ただ、キャリアセンターお勧めの企業は、安定し、かつ発展性があることだけは確かではないだろうか。