ふるさと納税は返礼品ばかりに焦点が当たってしまったが・・・・・・(写真:Graphs / PIXTA)

7月に西日本を襲った「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」の後、被災した自治体にあてた「ふるさと納税」(「ふるさと寄附金制度」)が改めて注目されている。ふるさと納税とは、出身地などの自治体に寄付をすると、居住地で”税金が軽減される”仕組みだ。自治体に寄付した金額から2000円を除いた分が、住民税と所得税から控除され、税負担が相殺される。

「被災した自治体に寄付をしたい」――。そうした思いがある人たちが、簡単な手続きで寄付ができるふるさと納税のウェブサイトを通じて、続々と寄付をしている。今回の西日本豪雨においては、被災した自治体に直接寄付をするだけでなく、寄付の事務作業を被災していない別の自治体が代行する支援も広がった。

寄付をしてくれるのはありがたいが、ふるさと納税を通じて寄付した人には、控除に必要な証明書の発行などの事務作業が必要となる。そこで、茨城県境町が広島県と岡山県倉敷市の代行を、茨城県筑西市が交流のある岡山県高梁市の代行を、大分県佐伯市が建物の浸水被害のあった高知県宿毛市の代行を買って出た。

被災した自治体の事務作業も手伝える

その事務代行には、こんな経緯があった。2015年9月に豪雨被害に遭った茨城県境町は、ふるさと納税を通じて寄付が集まったものの、復旧作業に追われる時期に寄付の事務作業も行わなければならなかった。そんな経験から、2016年4月に発災した熊本地震の際、茨城県境町がふるさと納税の寄付の事務代行をすることにした。こうした経験が今回も生かされた。


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被災した自治体への寄付に返礼品を期待する人はいない。そのまま、被災地の復旧復興に役立ててもらいたいという思いで寄付が集まっている。

ところが、ふるさと納税は同じ7月、別の形でも注目された。それは、ふるさと納税の”返礼品競争”が過熱していたことから、返礼品の抑制に応じない自治体の名前を総務省が公表したからだ。地方税制を所管する総務省は7月6日、「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査について」を公表した。

そこでは、寄付金に対し返礼割合が3割を超える返礼品や地場産品以外の返礼品をいずれも送付している市区町村で、2018年8月までに見直す意向がなく、2017年度の受入額が10億円以上の市区町村として、次の12市町村を列挙。茨城県境町(21.6億円)、岐阜県関市(14.1億円)、静岡県小山町(27.4億円)、滋賀県近江八幡市(17.7億円)、大阪府泉佐野市(135.3億円)、福岡県宗像市(15.6億円)、福岡県上毛町(12.1億円)、佐賀県唐津市(43.9億円)、佐賀県嬉野市(26.7億円)、佐賀県基山町(10.9億円)、佐賀県みやき町(72.2億円)、大分県佐伯市(13.5億円)である(カッコ内は2017年度のふるさと納税受入額)。

実名を挙げた背景には、返礼品競争がふるさと納税制度全体に対する国民の信頼を損なう、という総務省の認識がある。今年4月に総務大臣名で「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」を出し、返礼割合が3割を超えるものを返礼品としている自治体に、返礼品の見直しを求めた。

ふるさと納税の返礼品競争は、4年も前から、東洋経済オンライン本連載の拙稿「謝礼品合戦の『ふるさと納税』をどうする?」で述べていたところである。拙稿執筆以降も、返礼品競争はどんどん激しくなっていった。実名を挙げられた市町村のうち、九州地方の市町村が7つを占めているというのは、やはり九州地方の市町村で人気のある返礼品を出しているところが多いことが、市町村の横並び意識を刺激したのだろう。

実名を挙げられた市町村は、「2018年8月までに見直す意向がない」ところなので、これらの市町村がいつまでも返礼品競争をあおっているとは言えない。ただ、実名公表に踏み切ったわけだから、総務省のただならぬ思いがにじみ出ている。

返礼品で経費増、何のための寄付なのか

もっとも、返礼割合が3割未満だったらどしどし返礼品を贈ってよいのかというと、それもふるさと納税制度の趣旨にかなっているとはいいがたい。そもそも、ふるさと納税は、寄付金税制の一環として創設されたものなのだ。現に、前掲の「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査について」によると、2017年度におけるふるさと納税の募集や受け入れなどに伴う経費は、合計で2027億円と、ふるさと納税受入額の55.5%となっており、かなり高い経費率になっている。

うち、返礼品の調達や送付に係る費用は1647億円で、経費合計の81.3%、ふるさと納税受入額の45.1%となっている。これは、自治体がふるさと納税で寄付をもらいながらも、半分近くは返礼品の調達や送付におカネを費やしてしまっていて、手元に残っていないことを意味する。何のための寄付なのか、改めて考えさせられる。

そうした観点から、被災した自治体に対する寄付に、返礼品目当てでない形でふるさと納税が活用されたことは、もう一度、ふるさと納税の趣旨を確認することができたといえよう。寄付する側も、「ふるさと納税=返礼品目当て」という認識を改める機会になるとよいし、寄付を受ける自治体も、返礼品なしでもふるさと納税で寄付を多く集められる知恵を出すことの重要性に気が付く、よい機会になるとよい。

基本的に、ふるさと納税で得た寄付金は、それを受けた自治体の行政(公益を追求)のために用いるものであり、返礼品は特定の者の利益を増やすことがない範囲で認める、というけじめが必要だ。ふるさと納税に対して返礼品を贈るとしても、特定の業者ばかりでなく、地元の多くの業者に薄く広く発注できるような形で返礼品を用意するなどの工夫が求められる。

ふるさと納税を寄付金税制として位置づけ、寄付文化が日本に根付くことに資するものとなることを願う。