小泉進次郎氏は3月25日の自民党大会でも記者から質問攻めに(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「森友疑惑」の再炎上で安倍晋三首相への国民の不信、不満が高まる中、小泉純一郎元首相とその次男の小泉進次郎自民党筆頭副幹事長の言動が物議をかもしている。

森友問題に関わる財務省の公文書改ざん事件について、純一郎氏は「(財務省が)忖度したんだよ」と断言し、進次郎氏は「権力は必ず腐敗する、ということではないか」などと政権全体の責任との見方を強調する。窮地に立つ首相にとってはいずれも耳が痛い発言で、永田町では「小泉父子鷹の乱」(自民幹部)とのささやきも広がる。

政権側は「恩師」と「立役者」の批判にだんまり

もちろん、両小泉氏は「政治家としてはまったく別人格」(純一郎氏)とそろって、"連係プレー"を否定する。しかし、父は元首相で息子は「未来の首相」が確実視されるという父子の発信力の強さは、両氏の国民的人気を背景としたもので、その時々の発言が政権運営に与える影響も小さくない。1強政権維持の源泉ともされた言論封じも、「独立独歩」を自任する小泉父子には通用しそうもなく、首相サイドは肩をすくめて発言を見守るばかりだ。

政権危機を招いた公文書改ざん事件が表沙汰になった3月12日、自民党筆頭副幹事長として党運営の中枢にいる進次郎氏は、「(公文書を)書き換えた事実は重い」と指摘し、「国会議員なら、なんで書き換えたのか、それを知りたいと思うのは当然だ」と国会での真相究明を強い口調で訴えた。

一方、翌13日にテレビの情報番組に出演した純一郎氏は、当時の財務省理財局長として改ざんを指示したとされる佐川宣寿氏の国税庁長官起用を、「首相も麻生さんも適材適所と何度も言い切った。これには呆れたね。判断力がおかしくなっている」と口を極めて批判。さらに「(昭恵夫人が)関係していると知っていたから、答弁に合わせるために改ざんを始めた。(財務省が)忖度したんだよ」と断じた。

総理・総裁経験者と党幹部の一員の「政権批判」ともとれる発言だけに、メディアはこぞって大きく取り上げた。いつもなら、政権側はすぐ反論や批判で抑え込むはずだが、菅義偉官房長官も含めて表舞台では「だんまり」を決め込んだ。首相にとって、純一郎氏は「(首相に)後継指名してくれた恩師」で、進次郎氏は昨年秋の衆院選自民圧勝の立役者だ。このため、国政選挙5連勝を誇る1強政権で、自民党内に蔓延していた「物言えば唇寒し」の雰囲気などは気にしない小泉父子の言動は「首相らも黙認せざるを得ない」(官邸筋)からだ。

こうして「際立つキャラ」で脚光を浴び続ける小泉父子だが、父親と息子の政界での立ち位置は対照的だ。毒舌で鳴らす田中眞紀子元外相が「変人」と名付けた純一郎氏は、若手議員のころから「徒党を組まない一匹狼」に徹し、2001年春の森喜朗首相(当時)の退陣表明を受けた総裁選で、「自民党をぶっ壊す」と叫んで圧勝して首相の座に上り詰めた。さらに、圧倒的な国民的人気を武器に長期政権を築き、党内の「抵抗勢力」を蹴散らして持論の郵政改革を断行した。

一方、純一郎氏が「親ばか」を自任しながら後継指名した進次郎氏の初陣は、2009年8月の政権交代選挙。小泉家4代目として厳しい世襲批判を浴び、有権者の「反自民」感情で多くの新人候補が惨敗する中、爽やかな容姿と父譲りの歯切れ良い演説で逆風を跳ね返し、さっそうと中央政界にデビューした。自民党が政権復帰を果たした2012年暮れの衆院選では早くも「選挙の顔」となり、政治活動でも「先輩は立て、同僚の意見もよく聞く」(自民幹部)という優等生ぶりを発揮し、いまや「近未来の総理・総裁確実」とされる自民党のスーパースターとなった。

もちろん、「出る杭は打たれる」のが政界の常でもあり、進次郎氏に対して自民党内では「受け狙いのポピュリスト」「跳ね上がりすぎると、どこかで足をすくわれる」などの陰口も絶えない。3月27日の佐川氏証人喚問に合わせて民放テレビにVTR出演した田中眞紀子氏も、進次郎氏の森友問題に関する一連の発言について、「若い子なのにやり方が汚いと思う。お父さんのマネをしてるのかもしれないけど、もっと本気で取り組むんだったら、自分が質問しなければいけないと思う」と批判。さらに「あの人は30年前の安倍さん。30年たったら今の安倍さんになるような子ね」などと、いつもの上から目線の"眞紀子節"を炸裂させた。


原発ゼロを訴え、安倍首相を容赦なく批判する小泉純一郎元首相(写真:REUTERS)

一方、父・純一郎氏は東日本大震災による福島原発事故以来、「原発ゼロ」を叫んで安倍政権のエネルギー政策に異議を唱え続けている。2014年2月の都知事選では「原発ゼロ」を旗印に細川護熙元首相を擁立して戦いを挑み、敗北した。さらに今年1月中旬には民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の顧問として国会内で記者会見し、稼働中の原発の即時停止や再稼働禁止などを盛り込んだ「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の骨子を発表し、各政党に賛同を呼びかけた。

その中で、純一郎氏は「近い将来、原発ゼロは国民多数の賛同で実現する」と力説し、原発再稼働を進める首相については「安倍政権で(原発ゼロを)進めるのは難しい。自民党公約で『原発依存度低減』と言いながら、これからも基幹電源にすると言っている。よく恥ずかしくないな、と思う」と舌鋒鋭く批判した。この呼びかけを受けて 立憲民主、共産、自由、社民の野党4党は3月9日に「原発ゼロ基本法案」を衆院に共同提出しており、政界では純一郎氏の行動が、「形を変えた倒閣運動」(細田派幹部)と受け止められている。

世論調査「次期首相には?」で進次郎氏がトップ

改ざん事件を受けて各メディアが実施した最新の世論調査では、そろって安倍内閣の支持率が下落し、どの調査でも不支持が支持を上回った。しかも、不支持の理由をみると「首相が信頼できない」が圧倒的多数という点でも共通している。

その一方で、読売新聞調査(3月31日〜4月1日)には、9月の自民党総裁選に絡めて「次の総裁(首相)には誰がふさわしいか」との設問があったが、上位は「1位・小泉進次郎(30%)2位・安倍晋三(26%)3位・石破茂(22%)」という結果で、次期首相候補としても人気者の進次郎氏がトップとなった。もちろん、進次郎氏自身は「今は政治家としての経験を積むことが最優先」として総裁選出馬を否定する。物議をかもす一連の言動についても「毎日が真剣勝負。(マスコミにも)一語間違えたら死ぬ、との思いで対応している」と体をかわす。

こうした進次郎氏について、現時点で9月総裁選での安倍首相の有力な対立候補とされる石破茂元幹事長は、2日の民放テレビのインタビューで「『常に真剣勝負』という思いは、いろいろな仕事を一緒にして共有している」と評価した。進次郎氏は2012年9月の党総裁選で石破氏に投票した経緯があるが、これについても、石破氏は「政治への取り組み方に共感するところが進次郎さんにあったのかもしれない。少なくとも私にはあった」と笑顔で語った。

石破氏が進次郎氏に期待するのは2012年と同様に総裁選での「石破氏支持」だ。党内でも「進次郎氏の動向が総裁選の流れを左右する」(執行部)との見方が少なくない。ただ、進次郎氏周辺では「事前に誰を支持するかは明言しないはず」(同期議員)との声が多い。首相サイドも「影響力が大きいので、必ず恨みを買う」(官邸筋)とけん制する。

3月25日の自民党大会では、首相が改めて憲法改正実現への意欲を表明したが、進次郎氏は「国民の信頼がなければ憲法改正はできない。変えたいのと、変える環境が作れるかは、話が別だ」と突き放した。同31日に首相の地元の山口県に出張した進次郎氏は、内閣支持率の急落についても「今回は期待が野党に行っていない。自民党しっかりしろ、と。だから、自民党の存在意義がもう一度問い直されている」と解説してみせた。こうした言動について父・純一郎氏は周辺に「なかなか、いいこと言うな」と顔をほころばせているという。

父「直観派」、息子「理論派」

この小泉父子は、大向こう受けする言動で国民的人気を集める点では似ているが、政治家としての行動原理は全く異なる。純一郎氏は故加藤紘一元幹事長、山崎拓元副総裁とYKKトリオを結成し、1990年代の政局のキーマンとなった。

しかし、盟友だった加藤氏が森政権打倒に動いた2000年11月の「加藤の乱」では、先頭に立って鎮圧に動き、後に「YKKは友情と打算の二重奏」と言い切った。純一郎氏は「直観は過(あやま)たない、過つのは判断である」が持論で、YKK3氏による酒を飲みながらの懇談でも、「政策論議になるとそっぽを向く」ことが多かったとされる。

ところが進次郎氏は党農林部会長時代、「農政は素人」と公言して党内農林族の意見をじっくり聞き、ベテランも舌を巻く勉強ぶりと丁寧な根回しで、農協改革をまとめあげた。その前の復興担当政務官時代から同僚議員との政策勉強会を続けており、選挙演説の上手さだけでなく、「理論派の政策通」との評価も高まりつつある。

首相は4月17日からの訪米・日米首脳会談など、今後数カ月を得意の「安倍外交」で政権を再浮揚させて、悲願の憲法改正早期実現も視野に総裁3選を狙う考え。首相にとって、この直観派の父と、理論派の息子は「絶対、敵に回したくない"最強コンビ"」であるのは間違いなさそうだ。