従来型の「雇われ仕事」は確実に死滅していきます(写真:Graphs / PIXTA)

「今の会社で働いていて、自分の地位は安泰なのか、給料は上がるのか、将来が心配で仕方がない」。こんな想いが脳裏によぎっても、解決策が見出せない人はたくさんいるのではないか。
テイラー・ピアソン氏は、著書『THE END OF JOBS 僕たちの20年戦略』の中で、過去に利益をもたらした20世紀型の伝統的なキャリア、仕事の価値は急降下していくと断言する。この書籍のエッセンスを解説していく。

テクノロジーやグローバル化の急激な進展は、無数の革新を生み出した。結果、「従来型の雇われ仕事の終焉(THE END OF JOBS)」が到来し、「起業家的な働き方」が求められるようになった。この事実を受け入れるかどうかで、今後の生き方は大きく変わる。

まず、どうして「従来型の雇われ仕事」が消えていくのだろうか。

「起業家的な働き方」と「従来型の雇われ仕事」

どこの国でも同じだが、「起業は選ばれた人のもので、勇気がいる」と考える人が大多数。そのせいで、やる気と実力があっても、雇われの身のままでいることを選択している人は多い。

しかし、雇われの身であっても起業家的な働き方をしている人たちが多いのも事実。ピアソン氏は、「起業家的な働き方」について「ビジネスや人、アイデア、プロセスからなるシステムを、結びつけ、創造し、発明することである」と定義する。

一方、「従来型の雇われ仕事(ジョブ)」については「ほかの誰かがつくったシステムの通りに働くことである」と定義している。

この2つの違いは、「付加価値を生み出せる否か」にある。

高付加価値を生み出す人材であれば、企業に勤めていても、起業家のように働いていると言える。

逆の言い方をすれば、企業で出世して経営陣になったところで、思考停止のまま働き、その地位に安住しているようでは、単に「従来型の雇われ仕事(ジョブ)」を重ねているだけである。

アメリカ社会では、「従来型の雇われ仕事(ジョブ)」のピークはもう過ぎ去ったと言われている。20世紀後半を象徴する、“高賃金の仕事が十分にある時代”はもはや過去のものなのだ。

「雇われ仕事」を得ることは難しくなっている

クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズによる2015年の報告書によると、1948年から2000年にかけて、就業者数は人口の1.7倍のペースで増加した。それに対し、2000年以降は人口が就業者数の2.4倍のペースで増えている。それだけ就業者が希少になっているということだ。

つまり、働きたい人が、雇われ仕事を得ることは難しくなってきている。

そのような人口構成の変化を背景として、「会社勤め的な働き方が有効な時代の終焉」の兆候を示す理由は、3つある。

1)過去10年間、通信技術が大幅に進化し、地球規模で教育水準が向上したことで、企業は世界中で人材を雇用できるようになった。従来型の雇われ仕事は、ますますアジアや南米、東ヨーロッパに流出している。
2)テクノロジーの進化は、ブルーカラーだけでなくホワイトカラーの仕事をも奪おうとしている。
3)大学の学位(学位、修士、博士)の保有者が激増し、大卒者の相対的な価値が低下している。

特に1は、雇われの身には大きな脅威だ。通信技術が大幅に発達し、リモートワーカーの採用や管理が簡単になった。これによって、従来型の雇われ仕事が先進国から流出している。

たとえば、10年前、有能な人材を確保するには、伝手をたよるか媒体に求人広告を出すしかなかった。しかし、今では、「Elance」「UpWork」「People Per Hour」「Freelancer.com」などのプラットフォームを使えば、世界中から優秀な人材を紹介してくれる。

雇う側からすれば、地球上の優秀な人材を選び放題で、知識労働者の採用・管理が容易になった。代わりがいる職に就いている人は、真剣に自分の将来を考えるタイミングが来ている。

そこでピアソン氏が提案するのが、一刻も早く自分ののれんを掲げ信用を創造し、付加価値を上げることである。

普通の企業でも雇われ仕事が消えつつある

インターネットのユーザー数は、2004年の5000万人から2014年の20億人に増加した。さらにその先10年で50億人がスマートフォンを所有すると予測されている。地球上のほぼすべての人間が、インターネットにアクセスできるようになるといってもいい。

こうしたテクノロジーの指数関数的な進歩によって、従来型の企業は食われる一方だ。書店チェーン、ボーダーズからオンラインビジネスを譲り受けたアマゾン、店舗型DVDチェーンのブロックバスターを駆逐したネットフリックス、iTunes、Spotify、Pandraなどのオンライン音楽配信サービス、Shutterfly、Snapfish、Flickrなどのオンライン写真共有サービス、ビジネス特化型SNSのLinkedInなどの躍進ぶりが、その事実を証明している。

では、テクノロジーの進化は、経済にどの程度の影響を与えたのか。

18世紀の産業革命後の約200年間、世界の年間平均成長率は1〜2%で推移してきた。しかし、インターネットを軸にした超・技術革新が特別な成長をもたらす可能性が指摘されている。現在、グローバル化との相乗効果で、人間が経験したことのない革命的な変化が起きており、やり方次第では、誰にも平等で途方もないビジネスチャンスが転がっているのだ。

これは、旧来の働き方をしていれば職を失う可能性が高まっていることも意味する。にもかかわらず、いまだ旧態依然とした「就職のために高学歴を得る」という方法で対処しようとする人もいる。

しかし、学歴の価値は低下している。たとえば、アメリカでは法科大学院や経営大学院の価値が低下している。

2014年の米法科大学院の卒業生の就職率は、84.5%。6年連続で下落している。アメリカ社会では、法律の専門知識を持つ人材に対するニーズはあるものの、法科大学院の卒業生の数はそれ以上に増えており、就職率のマイナス基調が続いているのだ。

つまり、それは一流大学の学位の価値が低下していることを意味している。賃金調査サイト「PayScale」によると、MBA取得者の平均給与も停滞している。

高学歴者の給料が低下する理由は、全産業で仕事がコモディティ化していることと関係がある。つまり、差別化できる特性がなくなってきているのだ。

では、どうすれば、自らの仕事を他と差別化し、高付加価値をつけることができるのだろうか。

クネビン・フレームワークで分析すると?

クネビン・フレームワークは、ある状況について臨機応変に対処するために使われる手法。仕事に直面する問題を、4タイプに分別して適切な意思決定に導くものだ。


「単純系(Simple)」⇒原因と結果の因果関係が明らか。解決のベストプラクティスが適用しやすい。(例)テーブルの組み立て説明書
「煩雑系(Complicated)」⇒原因と結果の因果関係を把握するために分析と調査が必要。解決には専門知識が必要。(例)学校、既存の会社で学ぶ専門知識
「複合系(Complex)」⇒原因と結果の因果関係は入り組んでいる。学校で学んだ知識だけでは、対処法は不明。新しい解決策を試み、何度も軌道修正が必要。(例)起業家が頻繁に直面する差し迫った状況
「混沌系(Chaotic)」⇒原因と結果に因果関係がない。右も左もわからない状況で生き残る方法を探らなければならない。(例)起業家が直面する最も困難な状況
※複合系、混沌系の修羅場を切り抜ける方法は、学校や既存の会社では教えてくれない。

20世紀は、「単純系」と「煩雑系」の時代だった。学歴主義が幅を利かせたのは、「煩雑系」の領域で、“知識”を用いて、問題解決できる人材が必要だったためである。つまり、20世紀は、学歴に基づいた人材評価に大きな意味があった。問題が起きても、知識と手順さえわかれば、対処できたからだ。

しかし、時代は変わった。21世紀に入り、指示通り仕事をするだけでは生き残れない時代になっている。今求められているのは、入り組んだ混沌の中で問題を解決していける能力、すなわち「起業家精神」だ。

これからの時代、過去の価値観ややり方だけを妄信する人は通用しなくなる。彼らは、間違いなくAIや世界中の優秀な人材に置き換えられてしまうだろう。

にもかかわらず、世の中の大半は、いまだ知識を得ることに必死だ。時代は変わり、学歴(知識)の価値が低下しているのに、学校に通おうとする……。いま私たちが真っ先にやるべきことは、自らの「起業家精神」を着火させ、行動することなのだ。

「起業家経済」が到来した

世界が転換期を迎えていることを説明するために、ピアソン氏が強調するのが、3つのシフト。この3つのことを理解していれば、今後あなたの生き方は大きく変わるはずだ。

1)制約が知識から起業家精神にシフトしている。
起業家精神がなければ解決できない、「複合系」「混沌系」の仕事へのニーズがさらに高まっている。制約とは成長するうえで必要不可欠なもの。制約を乗り越えられたものが、その時代の支配者になる。
2)支配的機関が会社から個人(またはセルフ)にシフトしている。
以前は、大企業しか手に入れられなかったグローバル化やテクノロジーの進歩の恩恵を、個人やマイクロ多国籍企業でも享受できるようになった。
(※マイクロ多国籍企業:ごく少数の従業員が世界中に点在する企業のこと)
3)支配者がCEOから起業家にシフトしている。

知識経済期は、知識を有するものが強かった。しかし、グーグルをはじめインターネットの出現で、知識は民主化され、その価値は激減している。

昔なら、限られた人しか手に入れられなかった情報が、自宅やオフィスにいながらワンクリックで手に入る時代になった。資金力がなくても、世界中どこにいても、やる気さえあれば、自分1人で何かを始めることも容易になったわけだ。

起業家精神は株式や資格と同じく、習得できるものだ。自分次第でいかようにも育てることができる。しかし、このことに気づいていない人が多い。ではどうすれば起業家精神を培うことができるのか。培うためには、起業家精神を持って働けばいい。

たとえば、大企業ではなくスタートアップで下積みする、一筋縄でいかないプロジェクトの責任者になる。こうしたことにチャレンジをすることで、自らの起業家精神の強化につながっていく。

起業家精神なきものは、この先死んでいく

20世紀型の「煩雑系」の知識労働が役割を終えつつある。知識労働は差別化しにくくなり、いまや希少価値ではない。誰でもできて当たり前の仕事になってしまった。

つまり、「従来型の雇われ仕事」は、ますます競争が激しくなり、うま味がなくなっているのだ。そんな状況でも、あなたはまだ、知識経済にコミットし、学歴や知識を重視した生き方を続けるのだろうか。

親や学校、企業というものは、世の中を安定した場所とみなす。しかしこの見方は、あくまで過去のスタンダードだということに気づかなければならない。


古い価値観や固定観念に支配されたまま、役割を終えつつある「雇われ仕事」にコミットし続けたら、あなたの人生は収縮していくだけだ。

たしかに、以前は、親や先生が勧めるような、「従来型の雇われ仕事」は安泰だった。社会では、その安定が永遠に続くものだと信じられてきた。

しかし、過去の傾向だけを基準に、激変する現実から目を背けていては、新たな付加価値を創造していくことは不可能だ。もっと言えば、20世紀型の知識労働が過去40年間堅実だったからといって、未来永劫絶対的だと考えるのは非常に危険なことだ。

ピアソン氏は「かつて安全だったことが危険になっていて、危険だったことが安全になっている」と警告する。この現実を理解し、新たな現実を創造する人こそが、これからの時代の支配者になるということだ。

では、誰が支配者になるのかといえば、「起業家精神に満ち溢れた人たち」だ。

これからの時代、目の前の変化を受け入れ、現実と対峙できる人材、つまり、自分の起業家精神を磨き続けられる人は、ますます有利になる。自分ののれんを掲げ、勝負できる生き方に賭けられるかどうか。これが時代に飲まれて死ぬのか、己で立ち上がり成功するかを左右するカギといえるだろう。