ピックアップトラック「ハイラックス」が13年ぶりに復活

トヨタ自動車が13年ぶりに日本市場に復活させたピックアップトラック「ハイラックス」の報道関係者向け試乗会に参加した。5人乗りの車室の後ろに大きな荷台がついたタイプの乗用車だ。

富士五湖のひとつ、西湖の湖畔で開催された試乗会には開発担当者も来ていたので、いろいろ聞いてみた。そこで意外な情報を教えられた。発売から約1カ月が経過した取材時点で、購入者の中心は20〜30歳代の男性であり、初めて購入するクルマという人も多いというのだ。


5人乗りの車室の後ろに大きな荷台がついている

同じトヨタのSUV「ランドクルーザー(ランクル)70」との関係も気になって聞いてみた。ランクル70は2014年8月、日本市場には10年ぶりの復活を果たし、安全基準が強化されて販売ができなくなる翌年6月生産分までの約1年間限定で販売された。今回のハイラックスは期間限定ではなく継続的なモデルとして販売するそうだが、ストーリーとしては似ている。

トヨタ社内でハイラックス復活の声は、ランクル70の前からあったそうだ。前回の販売終了から3年後の2007年に最初の話が持ち上がり、その後2度ほど話題になったという。それが実現しなかったのは、トヨタ社内では優先順位の低いプロジェクトであり、リーマンショックや北米でのリコール騒ぎなどがあったために流れてしまったのだ。

購入者の中心は20〜30歳代の男性

ランクル70は月間目標台数の200台に対して、1年間に約7500台が売れたという。今回のハイラックス復活は、国内に約9000人いるというハイラックス所有者に対する代替需要を第一義的に挙げながら、ランクルと同じように潜在需要があると読んだのだろう。

この話を聞いて思い出したのが、メルセデス・ベンツが同ブランド初のピックアップとして今年7月に発表した「Xクラス」だ。


メルセデス・ベンツ初のピックアップ「Xクラス」

Xクラスはメルセデスがルノー日産グループと協力関係にあることを生かし、日産自動車の「NP300ナバラ」をベースとし、フロントマスクやインテリアなどに独自のデザインを与えた。前後して登場したルノー「アラスカン」(これも同ブランド初のピックアップである)ともども、スペインの日産工場やアルゼンチンのルノー工場で作られる。

Xクラスはいまのところ日本導入の話はないが、そもそもメルセデスがピックアップのカテゴリーに参入するという事実だけ見ても、このカテゴリーに伸びしろがあると考えている証拠だろう。SUVに続いてそのブームが日本にも訪れる可能性がないとはいえない。

東洋経済オンラインが2017年9月14日に配信した「トヨタのでかい『ハイラックス』は売れるのか」では、ボディサイズの大型化に触れた。以前は4ナンバー(乗用車の5ナンバーと同寸)枠内に収まっていた全長と全幅はそれぞれ5335mm、全幅は1855mmに達する。長さについては東京モーターショーに展示されるトヨタブランドの最高級車センチュリーの新型と同寸だ。

ハイラックスだけが大型化したわけではなく、ライバルの1台である日産NP300ナバラもほぼ同じ大きさだ。日本市場から遠ざかっている間に主要マーケットの要望を受けてサイズアップしたのである。

安全性能は最新の乗用車並み


エンジン

新型ハイラックスで目に付く、長くなったフロントノーズは、歩行者保護対策を考慮したほか、ディーゼルターボエンジンのインタークーラーや運転支援システムのレーダーなどを収めるという理由もあった。歩行者検知機能付き衝突回避支援ブレーキ、車線逸脱警報システムなどを備えており、政府が普及啓発するセーフティ・サポートカーに認定されている。見た目はトラックだが安全性能は最新の乗用車並みなのである。

トヨタはハイラックスをピックアップ王国と呼ばれる米国では販売していない。独自のデザインを持ちサイズもやや大きな「タコマ」という車種が用意されており、この上に現地でフルサイズと呼ばれる大型の「タンドラ」もラインナップしている。


運転席

試乗した上級グレードXでも車両重量は2080kgと、ボディサイズから想像するほど重くはないことに加え、2.4Lディーゼルターボの最大トルクは4Lガソリン自然吸気エンジン並みの400Nmを発生し(最高出力は110kW)、ATは6速なので、力は十分。むしろ静かさや滑らかさが際立つ。この面だけ取り出せば乗用車だ。

高めに座る運転席は座り心地に優れ、ピックアップらしくドライビングポジションも自然だ。驚いたのは後席で、身長170cmの筆者が座るとひざの前に15cmぐらいの余裕が残り、シートのサイズや厚み、角度も申し分ない。


荷台

信頼性や耐久性を重視して固定車軸(リジッドアクスル)と板バネを組み合わせたリアサスペンションは、空荷だとやや跳ねぎみだった。でもこれは短所とはいえない。荷台に相応の重量物を積んで走ることを前提としているのだから。筆者も仕事の道具などを積んで走りたいという衝動に駆られた。

能力を生かせるかはドライバー次第

舗装路でのハンドリングは、とにかくおっとりしているが、こちらも欠点ではない。オフロードでは鋭い反応のクルマは運転しにくいからだ。それにコーナーの入り口でブレーキをしっかり掛け、右足をアクセルペダルに移すタイミングでステアリングを切り、アクセルを開けていくと、後輪駆動らしい素直なコーナリングが味わえる。

つまり誰が乗っても同じように走れるわけではない。昔のクルマのように、ドライバーにも相応の技能が必要とされる。昔のクルマが運転して楽しいといわれる理由の1つはここにあった。腕を上げるほど走りが速く滑らかになる。ハイラックスの走りに、いい意味で旧車に通じる印象を抱いた。


オフロードセクション

オフロードではその印象がさらに強まる。試乗会場に設けられたセクションでは、強靭なラダーフレームとストロークの長いサスペンション、ローレンジを持つパートタイム式4WDシステムが持つポテンシャルの一端を確認できた。一方で、電子制御による駆動力調節などはないから、持てる能力を生かせるかはドライバー次第なのである。

それでいてエアコンやカーナビなどの快適装備はもちろん、前述したように安全装備も用意されている。しかも故障のしにくさなど信頼性では世界一といわれることが多いトヨタブランドであり、アジアやアフリカなど新興諸国での実績もある。こうした要素から、運転していて絶大なる安心感が伝わってくる。日々のパートナーとして付き合うとき、この点は重要だ。

若者のクルマ離れに対する特効薬となるか

トヨタの若者向けプロジェクトとしては、9月に発表されたスポーツブランド「GR」があるが、現在の若者の嗜好性は多様化。すべてのクルマ好きがスポーツカーやレースにあこがれるわけではないと感じている。一方でまもなく新型が発表される「センチュリー」やスズキ「ジムニー」には、インターネットを見るかぎり若年層も注目しているようだ。

若者のクルマ離れに対して、ハイラックスは特効薬の一つになるのではないか。現代の乗用車が失ってしまった「自動車らしさ」を色濃く残したピックアップのステアリングを握りながら思った。