日本で生活している子が、英語を身に付けるにはどうすればいいでしょうか(写真:プラナ/PIXTA

2020年度から全国の公立小学校で英語が教科化されるなど、子どもの英語教育を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。小学生の子を持つ親御さんの中には、「国語や算数と同じように塾に行かせなきゃ」「私が苦労したから、早くから学ばせたい」「先生はやっぱりネイティブスピーカーがいいのか」と、考えている方もいるでしょう。

その背景には「学生時代にあんなに勉強したのに英語ができない」という日本人の大人が多いという現状がありそうです。中学校、高校と多くの日本人は最低でも6年間は英語を学んできました。けれども「英語は苦手」という人が多く、大人になってからも英語の習得に奮闘してはギブアップしている人が多いのも現実です。

英語を身に付ける3つの基本的な方法

さて、子どもが英語を身に付けるには、3つの形態があります。そして、英語を学習するうえで、この3つの違いを理解することは非常に重要です。

1.「母語」として身に付ける

これは生まれたときから英語に触れていて自然に身に付ける場合です。英語話者の親の元に生まれ育てられた場合は、母語が英語となります。この場合は本人が自覚することなく身に付けることができます。

2.「第2言語」として身に付ける

たとえば、日本で生まれて日本語を母語として育った子どもが、英語を話す土地に移り住み、現地の幼稚園や学校に通って身に付ける場合です。移り住んだ年齢によって差はありますが、本人は無意識的に英語を身に付けられます。

3.「外国語」として身に付ける

多くの日本人のように意図的に、意識的に英語を学ぶ場合です。学校などで学習対象として英語を学び、普段の生活環境には英語が存在しない場合です。

日本の親御さんの中には、海外赴任から帰国した家族の子どもが流暢(りゅうちょう)に英語を話すのを見て、「やっぱり英語を学ぶには早いうちから始めないと」と考えがちです。が、それは早計。なぜなら、その子どもには英語環境が日常にあったからこそ、英語を身に付けることができたのです。

一方、日本に住んでいる子どもに「私が苦労したから、子どもには早くから英語を学ばせたい」との思いから、大人と同じような方法でアルファベットを覚え、単語を覚え、文法を学ぶようにするとどうなるでしょう。中学生になる前に英語嫌いにしてしまう可能性があります。幼いときに歌やゲームで楽しく英語に触れていたのに、読む・書くが始まった途端に英語嫌いになり、「英語」と聞いただけで拒否反応を起こしてしまうようになったという話もめずらしくはありません。

それでは、日本で生活している子が、英語を身に付けるにはどうすればいいでしょうか。最も効果的なのは、母語の習得に近い形で身に付けることです。それには、まずは日常的に「英語を聞く」ことが望ましいです。

母語と同じように聞くことから

人間は生まれてから毎日、母語を耳にして育ちます。母親のお腹の中にいるときから耳にしているとも言われるくらいです。母親が赤ちゃんに話しかける言葉や、夫婦が話している言葉、そしてテレビから流れてくる言葉……赤ちゃんは生まれてからというもの、大量の母語の音声に囲まれて生活しています。

そして4、5カ月頃の喃語(なんご)から始まり、単語、1語文、2語文へと発語は進んでいきます。発語を始めた頃は、母親にしか理解できないこともありますし、最初から2語文、3語文を話す子どもはいません。

この母語の発達を考えて、英語も同じように聞くことからスタートします。聞く内容は自然な英語、つまり最初から普通の文章になっているものです。話す速さもナチュラルスピードで大丈夫。自然な英語の音声を聞き、英語の音声に慣れ親しむことが必要です。子どもが興味をもって耳にできるもの、たとえば歌や物語などの音声作品がいいでしょう。じっと聞き続ける必要はありません。生活の中に流れていて心地よい内容がいいと思います。

ではどれくらい英語を聞いたら身に付くのでしょうか。それは人によって異なります。母語の発達も人によって違います。同じ親の元に生まれた兄弟姉妹でも、発語の過程は違います。ですから「○○時間聞いたら英語がわかる」というような基準は存在しません。

けれども英語を耳にする量が多ければ多いほうがいいということは言えるでしょう。1人目のお子さんよりも、2人目以降の弟妹のほうが、発語が早いのは、家庭の中での会話の量が多いからです。英語圏に生活するくらいの英語の量に触れるのは難しいですが、できるだけ英語に多く触れるチャンスを作るといいです。

英語の音声に慣れ親しんだ子どもは、やがて母語の発達と同じように面白かったり、心地よかったりする音の単語や文を抽出し、それをまねて発音してみたくなります。単語からとは限らず、文からまねる場合もあります。大人には到底英語とは理解できないくらいの喃語かもしれません。なにしろ子どもは面白いと思った音からまねていくのですから。

たとえば、「アングリー、アングリー」と繰り返す2歳児に母親が「何だろう?」と思ったら、絵本に出てくる”hungry”だったり、「アッペンダン、アッペンダン」は、飛び跳ねながら聴いている歌の”up and down”という歌詞だったり、といった例はたくさんあります。

「言ってみたい」という気持ちが大切

この子どもの「言ってみたい」という気持ちが大切です。母語の発達でも子どもは言いたい言葉から発語し始めます。実はこの子どもの言いたいという衝動が、言葉の習得には大切なのです。

よく「○○ちゃん、リンゴは英語でなんて言うの?」「Apple」「じゃあ、ブドウは?」「Grape」……などと子どもに聞いている大人がいます。この場合、大人が子どもの英語の理解度を確認したいだけで、子どもはその大人の期待に応えたくて英語を発しているのであって、決して言いたくて言っているわけではありません。

ある小学生のお母さんが「幼稚園のときにはたくさん英単語を覚えて話していたのに、小学校になったら言わなくなっちゃったの」と話していました。その子は小学生になって英語を人前で発することに恥ずかしさを感じ始めたのです。もともと言いたくて言っていたのではありませんから、恥ずかしくなって言わなくなったのです。

耳から聞いて慣れ親しんだ、言ってみたい英語を発語するには、発語する機会が必要です。聞いてばかりいても英語は身に付きません。言いたい英語をまねて口から発してみる、しかも英語を発語することが楽しい、といった経験が必要です。 

それも発語の場が「必然」でなければ子どもの発語は生まれません。日本語でもしたことのないレストランでのオーダーや、空港での会話には必然性はありません。子どもには、「これが言いたい」「言ってみたい」という気持ちが満たされる場やチャンスが必要です。

たとえば歌ったり、踊ったりできる歌や、子どもが登場人物に自分を投影できる物語のごっこ遊びなどが最適です。言葉をやり取りするには、相手や仲間が必要なので、こうした仲間がいる環境があると長続きします。言葉を発したくなる環境で、子どもが自由に英語を話してみる。そのような経験を積み重ねてこそ、子どもは英語力を付けることができるのです。